<昨年のトランプ当選以降、これまで好調に推移してきた株価は、トランプ政権が潜在的に抱えるリスク要因が表面化したことで一気に株安に転じた>
昨年10月頃、依然として大統領選ではヒラリーが優勢だと誰もが信じていた時期に、「それでも万が一トランプが当選したら世界同時株安になる」ということが、まことしやかに語られていました。ところが、実際にトランプが当選してみると、株安にはならなかったのです。
何よりも、昨年11月9日未明のトランプの勝利演説は立派だった、つまり選挙戦を通じて露骨なまでに繰り広げられていた「暴言作戦」は影をひそめ、「対立の傷を癒そう」という非常に前向きなメッセージが好感を持たれたからでした。「暴言と感情論の誘導」という政治ではなく、実務的でしかもビジネス・フレンドリーな政治が行われるのであれば「これは買いだ」、市場にはそんな判断があったのです。
その「トランプ株高」は、年明けもずっと続きました。下げるきっかけになりそうな局面はあったのです。例えば1月20日の就任演説では、選挙の勝利宣言とは対極的な「一方的なアメリカ第一主義」のようなトーンの演説となりましたが、この時には市場は反応しませんでした。
【参考記事】トランプとロシア連携?──FBI長官が「捜査中」と認めた公聴会の闇
もう一つは、3月15日の連銀の利上げです。この時は、イエレン議長としては思い切って「0.5%」上げというサプライズをやって、株高に一気に水を差し、そこでトランプ政権の勢いを止めるような「政治的判断」もやろうと思えばできたのですが、そこは世界経済に大きな責任を持っている連銀で、「0.25%」という市場の合意にキチンと従った判断をしたのです。結果的に株価は堅調に推移しました。
そんな中で、市場には不思議なセンチメントが生まれました。それは、「調整するチャンスを失った」という感覚であり、同時に「次に『何か』があったら下げる」という暗黙の合意がジワジワと生まれたのでした。
ところでこのトランプ相場ですが、基本的には「トランプ相場」と言っても、その実態は「オバマ相場」で、2009年のどん底から、8年間ずっと「株価と景気の足を引っ張ることはしない」という堅実な忍耐を続けたオバマ政権の政治の蓄積としての「株高」という面があったと思います。その意味では、失業率4.7%という中で消費も堅調だという現状は相当の「底堅さ」を持っているのは事実です。
そんな中で、仮にこの「好況感と株高」を壊すものがあるのなら、それは外部要因、つまり大規模なテロ事件が起きるとか、国際的な安全保障上の危機が起きるというような可能性を感じていた人が多かったのです。仮にそうした危機が発生して、一気に株安となり、景気が冷えて雇用が失われれば「トランプ人気」など雲散霧消するだろうし、反対に株と景気が堅調なら、トランプの政治も続くだろう、そんな感覚です。
しかし、今回の株安はそうしたあらゆる仮説とは違う形で出てきたようです。それは「トランプ自体がリスク」という考え方です。今回の株安の原因としては、次の4つの要因がほぼ時間的に同時に一気に出てきたことが原因と理解できます。
(1)選挙戦中のトランプ陣営の一部によるロシアとの不適切な関係
(2)オバマが盗聴を仕掛けたという大統領自身の主張の崩壊
(3)新税制など攻めの経済施策が提案できないという遅滞感
(4)医療保険改革案が、上院どころか下院でも難航するという停滞感
という4つです。つまり、外部要因が足を引っ張って株価を下げるというのではなく、市場としては「トランプ自体がリスク」ということを感じ、そのために売りが出てきたということが言えそうです。
【参考記事】ウーバーはなぜシリコンバレー最悪の倒産になりかねないか
ここへ来て、そのトランプ大統領については支持率も低迷を始めました。就任時点で40%を少し上回る程度であったのが、40%を割り込むような調査結果が出始めています。これは、かなり危険水域に入ってきたということで、株価との負のスパイラルを形成する可能性は否定できません。
ここまでのトランプ政治というのは、政権内部の分裂や混乱が表に出てくると、それを打ち消すように「劇場型パフォーマンス」を繰り出してくる、そんな手法が目についていました。ですが、今回の苦境が「自分の身から出たサビ」ということになると、そうした「転嫁」もできないことになります。
そんな中、トランプ大統領は5月にブリュッセルで行われるNATOの会合に出席するというかたちで就任後初の外国訪問を行うと発表しています。NATOのために出かけていくというのが、選挙戦を通じて言っていた「負担金をしっかり払わない加盟国は守ってやらない」というような同盟否定論ではなく、戦後の米欧の安全保障の枠組みを自分も踏襲するという「常識的な路線」への転換であるのなら、市場はこれを好感するかもしれません。また、その逆であるのなら混迷はさらに深まる危険もあります。
いずれにしても、現在の局面は、政権内の分裂がどうとか、FBIやメディアなどとの確執といった個別の問題ではなく、大統領自身の資質と政策が、就任後初めて本格的に「問われている」のだと思います。「トランプ自身がリスク」というのは、そういうことです。
昨年10月頃、依然として大統領選ではヒラリーが優勢だと誰もが信じていた時期に、「それでも万が一トランプが当選したら世界同時株安になる」ということが、まことしやかに語られていました。ところが、実際にトランプが当選してみると、株安にはならなかったのです。
何よりも、昨年11月9日未明のトランプの勝利演説は立派だった、つまり選挙戦を通じて露骨なまでに繰り広げられていた「暴言作戦」は影をひそめ、「対立の傷を癒そう」という非常に前向きなメッセージが好感を持たれたからでした。「暴言と感情論の誘導」という政治ではなく、実務的でしかもビジネス・フレンドリーな政治が行われるのであれば「これは買いだ」、市場にはそんな判断があったのです。
その「トランプ株高」は、年明けもずっと続きました。下げるきっかけになりそうな局面はあったのです。例えば1月20日の就任演説では、選挙の勝利宣言とは対極的な「一方的なアメリカ第一主義」のようなトーンの演説となりましたが、この時には市場は反応しませんでした。
【参考記事】トランプとロシア連携?──FBI長官が「捜査中」と認めた公聴会の闇
もう一つは、3月15日の連銀の利上げです。この時は、イエレン議長としては思い切って「0.5%」上げというサプライズをやって、株高に一気に水を差し、そこでトランプ政権の勢いを止めるような「政治的判断」もやろうと思えばできたのですが、そこは世界経済に大きな責任を持っている連銀で、「0.25%」という市場の合意にキチンと従った判断をしたのです。結果的に株価は堅調に推移しました。
そんな中で、市場には不思議なセンチメントが生まれました。それは、「調整するチャンスを失った」という感覚であり、同時に「次に『何か』があったら下げる」という暗黙の合意がジワジワと生まれたのでした。
ところでこのトランプ相場ですが、基本的には「トランプ相場」と言っても、その実態は「オバマ相場」で、2009年のどん底から、8年間ずっと「株価と景気の足を引っ張ることはしない」という堅実な忍耐を続けたオバマ政権の政治の蓄積としての「株高」という面があったと思います。その意味では、失業率4.7%という中で消費も堅調だという現状は相当の「底堅さ」を持っているのは事実です。
そんな中で、仮にこの「好況感と株高」を壊すものがあるのなら、それは外部要因、つまり大規模なテロ事件が起きるとか、国際的な安全保障上の危機が起きるというような可能性を感じていた人が多かったのです。仮にそうした危機が発生して、一気に株安となり、景気が冷えて雇用が失われれば「トランプ人気」など雲散霧消するだろうし、反対に株と景気が堅調なら、トランプの政治も続くだろう、そんな感覚です。
しかし、今回の株安はそうしたあらゆる仮説とは違う形で出てきたようです。それは「トランプ自体がリスク」という考え方です。今回の株安の原因としては、次の4つの要因がほぼ時間的に同時に一気に出てきたことが原因と理解できます。
(1)選挙戦中のトランプ陣営の一部によるロシアとの不適切な関係
(2)オバマが盗聴を仕掛けたという大統領自身の主張の崩壊
(3)新税制など攻めの経済施策が提案できないという遅滞感
(4)医療保険改革案が、上院どころか下院でも難航するという停滞感
という4つです。つまり、外部要因が足を引っ張って株価を下げるというのではなく、市場としては「トランプ自体がリスク」ということを感じ、そのために売りが出てきたということが言えそうです。
【参考記事】ウーバーはなぜシリコンバレー最悪の倒産になりかねないか
ここへ来て、そのトランプ大統領については支持率も低迷を始めました。就任時点で40%を少し上回る程度であったのが、40%を割り込むような調査結果が出始めています。これは、かなり危険水域に入ってきたということで、株価との負のスパイラルを形成する可能性は否定できません。
ここまでのトランプ政治というのは、政権内部の分裂や混乱が表に出てくると、それを打ち消すように「劇場型パフォーマンス」を繰り出してくる、そんな手法が目についていました。ですが、今回の苦境が「自分の身から出たサビ」ということになると、そうした「転嫁」もできないことになります。
そんな中、トランプ大統領は5月にブリュッセルで行われるNATOの会合に出席するというかたちで就任後初の外国訪問を行うと発表しています。NATOのために出かけていくというのが、選挙戦を通じて言っていた「負担金をしっかり払わない加盟国は守ってやらない」というような同盟否定論ではなく、戦後の米欧の安全保障の枠組みを自分も踏襲するという「常識的な路線」への転換であるのなら、市場はこれを好感するかもしれません。また、その逆であるのなら混迷はさらに深まる危険もあります。
いずれにしても、現在の局面は、政権内の分裂がどうとか、FBIやメディアなどとの確執といった個別の問題ではなく、大統領自身の資質と政策が、就任後初めて本格的に「問われている」のだと思います。「トランプ自身がリスク」というのは、そういうことです。