<ロンドンでテロが起きた直後、トランプ米大統領の息子が「ロンドン市長が『テロは生活の一部』と発言」とツイッターで批判。そのタイミングにも内容にも大いに問題があるツイートだ>
3月22日午後2時40分(現地時間)、ロンドン中心部の国会議事堂周辺でテロが起きた。容疑者を含め死者は4人。犯行声明はまだ出ていないが、警察当局は「イスラム主義者に関連したテロ」との見方を示し、すでに7人を拘束している。
テリーザ・メイ英首相はすぐさま声明を発表。「ロンドン市民も、世界中からこの偉大な都市を訪問している人々も、明日がきたら起き上がって普段通りに行動する」と、不屈の精神を訴えた。
【参考記事】英議事堂テロ、メイ首相が不屈の精神を訴え<声明全文>
ロンドン市長のサディク・カーンも同日19時45分、声明を発表した。「ロンドンは世界一素晴らしい都市であり、私たちを傷つけ、私たちの生活を破壊しようとする者に対して、私たちは団結している。......ロンドン市民はテロに屈しない」
だが、本人のこの声明が出るより前に、カーンを思わぬ形で公の場に引っ張り出した人物がいる。ドナルド・トランプ・ジュニアだ。
ドナルド・トランプ米大統領の長男であるジュニアは、テロ発生の約2時間後、ツイッターにこんな投稿をした。「冗談だよな?! テロ攻撃は大都市の生活の一部と、ロンドン市長のサディク・カーンは言った」
You have to be kidding me?!: Terror attacks are part of living in big city, says London Mayor Sadiq Khan https://t.co/uSm2pwRTjO— Donald Trump Jr. (@DonaldJTrumpJr) 2017年3月22日
ジュニアのツイートには、昨年9月の英インディペンデント紙の記事へのリンクが付いている。記事の見出しは「サディク・カーン:テロ攻撃は大都市の生活の"本質的部分"とロンドン市長」。
テロの発生直後に、まるでカーンがテロの後に発言したかのように過去の記事を持ち出したことで、当然ながら大バッシングを受けた。だが、問題はそれだけではない。確かに当時の見出しとジュニアのツイート内容は似通っているが、記事を読めば「テロは生活の一部」という表現がいかにミスリーディングかわかる。
この記事は、29人が負傷した連続爆発事件がニューヨークで起きた後に書かれたもの。事件の報告を聞き、眠れない夜を過ごしたというカーンはこう語っている。「グローバルな大都市の生活の本質的部分は、この種の出来事に備えなくてはいけないということ、用心深くあらねばならないということ、そして懸命な働きをしてくれる警察や治安当局を支えなくてはいけないということだ」
すなわち「テロは生活の一部」ではなく、「テロへの備えは生活の一部」というのが、カーンが当時示した見解だった。
息子が父の気持ちを忖度したのか
果たしてジュニアは、記事の見出しだけを見て、内容を読まずにツイートしたのか。それとも文脈やニュアンスを無視し、曲解して伝える意図があったのか。
長女イバンカと異なり、トランプ・オーガニゼーションの経営権を父から譲り受けたジュニアは、米政権のスタッフではない。しかし、大統領選勝利後の政権移行チームには入っていたし、いまも父を擁護したり、父の政敵を攻撃したりする発信をソーシャルメディアで続けている。
今回の「カーン批判」の理由として推測できるのは、カーンがイスラム教徒であることだろう。カーンとトランプは米大統領選の期間中に移民政策をめぐってやり合ったことがあり、トランプはイスラム教徒らのアメリカ入国を禁止する大統領令を2度にわたって出している(いずれも差し止めになったが)。
しかし、トランプ自身は今回のロンドンテロを受け、メイ首相と電話会談を行い、イギリスへの全面的な支援を表明している。息子がもし父の気持ちを忖度(そんたく)したのだとしたら、今回ばかりは意味がなかったかもしれない。
【参考記事】ロンドンテロ:加速してくる暴走車と地獄を見た目撃者
【参考記事】 ISISのロンドン襲撃テロは時間の問題だった
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
3月22日午後2時40分(現地時間)、ロンドン中心部の国会議事堂周辺でテロが起きた。容疑者を含め死者は4人。犯行声明はまだ出ていないが、警察当局は「イスラム主義者に関連したテロ」との見方を示し、すでに7人を拘束している。
テリーザ・メイ英首相はすぐさま声明を発表。「ロンドン市民も、世界中からこの偉大な都市を訪問している人々も、明日がきたら起き上がって普段通りに行動する」と、不屈の精神を訴えた。
【参考記事】英議事堂テロ、メイ首相が不屈の精神を訴え<声明全文>
ロンドン市長のサディク・カーンも同日19時45分、声明を発表した。「ロンドンは世界一素晴らしい都市であり、私たちを傷つけ、私たちの生活を破壊しようとする者に対して、私たちは団結している。......ロンドン市民はテロに屈しない」
だが、本人のこの声明が出るより前に、カーンを思わぬ形で公の場に引っ張り出した人物がいる。ドナルド・トランプ・ジュニアだ。
ドナルド・トランプ米大統領の長男であるジュニアは、テロ発生の約2時間後、ツイッターにこんな投稿をした。「冗談だよな?! テロ攻撃は大都市の生活の一部と、ロンドン市長のサディク・カーンは言った」
You have to be kidding me?!: Terror attacks are part of living in big city, says London Mayor Sadiq Khan https://t.co/uSm2pwRTjO— Donald Trump Jr. (@DonaldJTrumpJr) 2017年3月22日
ジュニアのツイートには、昨年9月の英インディペンデント紙の記事へのリンクが付いている。記事の見出しは「サディク・カーン:テロ攻撃は大都市の生活の"本質的部分"とロンドン市長」。
テロの発生直後に、まるでカーンがテロの後に発言したかのように過去の記事を持ち出したことで、当然ながら大バッシングを受けた。だが、問題はそれだけではない。確かに当時の見出しとジュニアのツイート内容は似通っているが、記事を読めば「テロは生活の一部」という表現がいかにミスリーディングかわかる。
この記事は、29人が負傷した連続爆発事件がニューヨークで起きた後に書かれたもの。事件の報告を聞き、眠れない夜を過ごしたというカーンはこう語っている。「グローバルな大都市の生活の本質的部分は、この種の出来事に備えなくてはいけないということ、用心深くあらねばならないということ、そして懸命な働きをしてくれる警察や治安当局を支えなくてはいけないということだ」
すなわち「テロは生活の一部」ではなく、「テロへの備えは生活の一部」というのが、カーンが当時示した見解だった。
息子が父の気持ちを忖度したのか
果たしてジュニアは、記事の見出しだけを見て、内容を読まずにツイートしたのか。それとも文脈やニュアンスを無視し、曲解して伝える意図があったのか。
長女イバンカと異なり、トランプ・オーガニゼーションの経営権を父から譲り受けたジュニアは、米政権のスタッフではない。しかし、大統領選勝利後の政権移行チームには入っていたし、いまも父を擁護したり、父の政敵を攻撃したりする発信をソーシャルメディアで続けている。
今回の「カーン批判」の理由として推測できるのは、カーンがイスラム教徒であることだろう。カーンとトランプは米大統領選の期間中に移民政策をめぐってやり合ったことがあり、トランプはイスラム教徒らのアメリカ入国を禁止する大統領令を2度にわたって出している(いずれも差し止めになったが)。
しかし、トランプ自身は今回のロンドンテロを受け、メイ首相と電話会談を行い、イギリスへの全面的な支援を表明している。息子がもし父の気持ちを忖度(そんたく)したのだとしたら、今回ばかりは意味がなかったかもしれない。
【参考記事】ロンドンテロ:加速してくる暴走車と地獄を見た目撃者
【参考記事】 ISISのロンドン襲撃テロは時間の問題だった
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部