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トランプは張り子の虎、オバマケア廃止撤回までの一週間

ニューズウィーク日本版 2017年3月27日 16時58分

<トランプは今や、得票数でクリントンに及ばなかった大統領どころではなく、ロシアに当選させてもらった大統領、目玉公約のオバマケア廃止法案さえ通せない大統領、つまり「まぐれの大統領」だ>

ドナルド・トランプ米大統領にとって大きな敗北だ。3月24日、オバマケア(医療保険制度改革)の廃止代替案を議会採決直前に撤回せざるをえなくなったのだ。共和党の「フリーダム・コーカス(下院議員連盟)」と呼ばれる保守強硬派の支持が得られず、賛成票が足りなかった。これで、選挙戦中あれほど強く廃止代替を公約していたオバマケアは予見可能な将来、ずっと続くことになった。上下院を共和党が支配する状況下でさえ、最重要法案を採決に持ち込めない──トランプ米大統領と共和党の驚くべく無能さがさらけだされた瞬間だった。

【参考記事】オバマケア廃止・代替案のあからさまな低所得層差別

それだけではない。先週の数日間に、FBI(米連邦捜査局)は米大統領選へのロシアの関与とトランプ陣営の関係について捜査中であることを認め、トランプが指名した最高裁判事候補の議会承認は躓き、極めて良好だったイスラエルとの関係も壁にぶつかった。「最強の交渉役」を自任してきたトランプの面目は丸つぶれだ。フェイク(偽)ニュースや大ぼらでこれまでも散々世間を振り回してきたトランプだが、フロリダでの休暇を取り止めて記者たちへの弁明に終始した今回は、完全にコントロールを失って見えた。 

【参考記事】トランプとロシア連携?──FBI長官が「捜査中」と認めた公聴会の闇
【参考記事】「トランプはロシアに弱みを握られている」は誤報なのか

「オバマが盗聴」はでっち上げ

トランプの大統領就任以来続いていた中傷や根拠のない非難、フェイクニュースの嵐を静まらせたのは、先週月曜、FBIのジェームズ・コミー長官が米下院情報特別委員会の公聴会に出席し、米大統領選をトランプ有利にしようと工作したロシアのスパイとトランプ陣営スタッフの関係について捜査中だと証言したときだ。もし本当なら、トランプはロシアに当選させてもらった大統領ということになりかねない。またコミーは、バラク・オバマ前大統領がトランプのことを盗聴していたというトランプの根拠なき主張についても、そんな証拠はとこもないとにべもなく否定した。

それでも、最高裁判事に指名したニール・ゴーサッチが上院に無事承認されていれば、少しは政治的な暗雲も晴れただろう。だが民主党が承認阻止を宣言し、トランプと上院共和党は難しい立場に追い込まれている。民主党が「フィリバスター(議事妨害)」に打って出れば、共和党は8人の民主党議員を味方につけなければゴーサッチを承認できなくなる。

外交面でも傷を負った。ジャンクロード・ユンケル欧州委員長はEUのローマ条約締結60周年の演説で、ナショナリスト的な運動を煽る「いまいましい」トランプへの警戒を呼びかけた。極右など一部を除けば、ヨーロッパは、トランプのポピュリスト的レトリックにうんざりしているのだ。

【参考記事】中東和平交渉は後退するのか──トランプ発言が意味するもの



熱々だったイスラエルとの関係にもヒビが入った。二国家共存という中東外交の大原則に引き戻されるうちに、トランプも歴代大統領を苦しめたのと同じ立場に陥ったのだ。イスラエルに入植活動を停止し、和平合意を尊重するよう説得する立場だ。

散々な一週間の後、トランプは深刻なイメージダウンを被った。共和党の穏健派も保守強硬派も、共和党員の反乱分子は許さないというトランプの脅しをものともせず公然と歯向かった。上下両院で多数を握る共和党は本来、民主党の意思とは無関係に法案を通せるはずだが、内部の亀裂ゆえにそれができない。医療改革、税制改革、インフラ投資などの大型法案をこれからどうすれば成立をさせられるのかも見通せない。

トランプは、大統領就任式の参加者が史上最大だったという嘘をショーン・スパイサー報道官に押し付けた日から、毎日嘘をつくリズムを身に付けたのかもしれない。就任一週目にはそのどさくさに紛れてトランプ自身の支持者が喜ぶ大統領令に署名することができた。だがそんな蜜月は、もう終わったのかもしれない。

このままだと、トランプは「まぐれの大統領」であり続ける。一般の得票数ではヒラリー・クリントン民主党候補に負けた大統領。ロシアに当選させてもらったかもしれない大統領。与党・共和党の8年越しの公約でもあったオバマケア廃止もできない大統領だ。                                                                              

ニコラス・ロフレド

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