<国鉄の分割民営化から30年を経た今、JR北海道とJR四国は構造的な問題から経営難に陥っている。高速道路の例を手本に、インフラと運営を分割するスキームを採用するという手もある>
1987年4月1日に旧国鉄が分割民営化されてから、ちょうど30年を迎えました。この間、全国の新幹線網整備や、大都市の通勤輸送体制は大きく進歩しました。また、経営面でもいち早く株式上場を果たしたJR東海、東日本、西日本に続いて、JR九州も上場して経営基盤を安定させています。
その一方で、JR北海道とJR四国は苦境に陥り、明暗がハッキリ分かれています。JR北海道に関しては、2011年5月の石勝線ディーゼル特急脱線炎上事故を契機に多くの不祥事が明らかとなり、社長経験者2人が自殺するという異常な事態になっています。さらに2016年には観測史上初という台風被害によって、全道の設備がダメージを受けました。
JR北海道は昨年11月に「維持困難路線」を公表するなど、自主再建は不可能という宣言をするに至っています。
一方のJR四国は、経営上の不祥事などが報じられているわけではないですし、また台風等の自然災害のダメージを受けたわけでもありません。ですが、経営の厳しさという点では、北海道と同様の状況にあります。一部の報道によればJR四国もこの4月以降に有識者懇談会を立ち上げて、「鉄道ネットワークを維持する方策」の検討が始まると伝えられています。
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北海道と四国の鉄道の衰退は、「過疎高齢化のせい」だとか「デフレ経済など日本経済の低迷のため」という解説があります。確かに厳然たる事実で否定のしようはないですが、それだけではありません。
これに加えて、人為的な問題、つまり「国土計画の失敗」とでも言うべき問題があるように思います。
まず北海道には、札幌一極集中という問題があります。何が起きているかというと、まず若者が進学や雇用の関係で全道から札幌に集まってきています。これに加えて、引退した高齢者が医療体制の完備された札幌圏に集まってくる現象も顕著です。結果として、全道540万人の人口のうち、64%が札幌市に集中するという極端な偏りが生まれ、人の流れも札幌圏で完結してしまっています。
一方で四国の場合は「ストロー効果」という問題があります。四国の人々は、長年「本四架橋ができれば経済が活性化する」そして「本四架橋はできれば3本欲しい」ということを悲願としてきました。
ですが、夢が実現した後、実際に起きたのは全く予想外のことでした。架橋の前には、多くの全国企業が高松に「四国支店」を構えていたのですが、橋ができて便利になると岡山などに「中四国支店」として拠点を統合してしまい、四国の「支店経済」は衰退しました。また、徳島や香川の消費者は簡単に梅田までバスで行けるので、百貨店など地域の小売業も衰退したのです。
さらに道路網の整備があります。まず四国では四県を結ぶ高速道路網が整備され、そこに廉価な高速バス網ができています。それが3つの本四架橋によって本州と結びついています。また軽四などによるモータリゼーションも進んでいるので、これでは、鉄道が衰退するのは当たり前です。
北海道の場合は、まだ未整備の区間が残っていますが、四国と同じように高速道路の整備が進んでいます。また、地元への経済支援ということで、完全立体交差の高規格道路を通行料無料で整備している区間もあり、モータリゼーション加速を後押ししている格好です。
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簡単に言えば、北海道の場合は札幌一極集中、四国の場合は本州への「ストロー効果」によって、周辺部の経済が衰退していったにもかかわらず、鉄道網に加えて高速道路網や地方空港の整備を進めて、交通手段が多角的に整備された。そこで、固定費の高い宿命を抱えた鉄道事業に、大きなシワ寄せが及んでしまったという構図です。
これは、一鉄道事業者の責任を問うようなレベルを超えた話で、「国土計画の深刻な失敗」としか言いようがありません。つまり、国鉄民営化の「影の部分」というような、鉄道行政だけの問題ではないのです。
では、具体的な対策として何が考えられるか、ということになります。
まず、北海道の高橋はるみ知事が指摘しているように、直接の赤字補てんのような形で公的な支援をすることは得策ではないと考えられます。経営の健全性を確保する観点からも、永続性という観点からも避けるべきでしょう。
私は「上中下分離方式」を提案したいと思います。鉄道事業を「上」つまり実際の鉄道運行とメンテナンス、「中」として車両や電化設備など償却期間の比較的短い固定投資、そして「下」は線路や橋梁、トンネル、さらには駅舎など償却期間の長い固定設備の3つに分割して、「下」は国や道県が保有する、「中」は地元資金や企業・個人などの自発的支援を募って資金を調達するという考え方です。
その代わりとして「上」の部分、鉄道運行とメンテナンスは専門家集団である鉄道事業者が経営健全化の責任を負うというスキームです。こうすれば、JRの負担は軽減されます。だからと言って健全経営が簡単に実現できるとは思えませんが、こうした新たなスキームを真剣に考える時期だと思います。
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こう申し上げると「JRへの甘やかしではないか」とか「税金のムダ使いだ」という声が出るかもしれません。しかし、現在の日本の高速道路網は全国を3社のNEXCO(ネクスコ)という運営会社に分割民営化していますが、そのネクスコ3社は道路を一切保有していません。完全な「上下分割方式」で健全経営ができるスキームとなっているのです。
それを考えれば、少なくとも北海道と四国については、鉄道についても上下分離、あるいは私がここで提案したような「上中下の分離」というスキームを採用してみるのが、有効な解決策ではないでしょうか。
1987年4月1日に旧国鉄が分割民営化されてから、ちょうど30年を迎えました。この間、全国の新幹線網整備や、大都市の通勤輸送体制は大きく進歩しました。また、経営面でもいち早く株式上場を果たしたJR東海、東日本、西日本に続いて、JR九州も上場して経営基盤を安定させています。
その一方で、JR北海道とJR四国は苦境に陥り、明暗がハッキリ分かれています。JR北海道に関しては、2011年5月の石勝線ディーゼル特急脱線炎上事故を契機に多くの不祥事が明らかとなり、社長経験者2人が自殺するという異常な事態になっています。さらに2016年には観測史上初という台風被害によって、全道の設備がダメージを受けました。
JR北海道は昨年11月に「維持困難路線」を公表するなど、自主再建は不可能という宣言をするに至っています。
一方のJR四国は、経営上の不祥事などが報じられているわけではないですし、また台風等の自然災害のダメージを受けたわけでもありません。ですが、経営の厳しさという点では、北海道と同様の状況にあります。一部の報道によればJR四国もこの4月以降に有識者懇談会を立ち上げて、「鉄道ネットワークを維持する方策」の検討が始まると伝えられています。
【参考記事】日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由
北海道と四国の鉄道の衰退は、「過疎高齢化のせい」だとか「デフレ経済など日本経済の低迷のため」という解説があります。確かに厳然たる事実で否定のしようはないですが、それだけではありません。
これに加えて、人為的な問題、つまり「国土計画の失敗」とでも言うべき問題があるように思います。
まず北海道には、札幌一極集中という問題があります。何が起きているかというと、まず若者が進学や雇用の関係で全道から札幌に集まってきています。これに加えて、引退した高齢者が医療体制の完備された札幌圏に集まってくる現象も顕著です。結果として、全道540万人の人口のうち、64%が札幌市に集中するという極端な偏りが生まれ、人の流れも札幌圏で完結してしまっています。
一方で四国の場合は「ストロー効果」という問題があります。四国の人々は、長年「本四架橋ができれば経済が活性化する」そして「本四架橋はできれば3本欲しい」ということを悲願としてきました。
ですが、夢が実現した後、実際に起きたのは全く予想外のことでした。架橋の前には、多くの全国企業が高松に「四国支店」を構えていたのですが、橋ができて便利になると岡山などに「中四国支店」として拠点を統合してしまい、四国の「支店経済」は衰退しました。また、徳島や香川の消費者は簡単に梅田までバスで行けるので、百貨店など地域の小売業も衰退したのです。
さらに道路網の整備があります。まず四国では四県を結ぶ高速道路網が整備され、そこに廉価な高速バス網ができています。それが3つの本四架橋によって本州と結びついています。また軽四などによるモータリゼーションも進んでいるので、これでは、鉄道が衰退するのは当たり前です。
北海道の場合は、まだ未整備の区間が残っていますが、四国と同じように高速道路の整備が進んでいます。また、地元への経済支援ということで、完全立体交差の高規格道路を通行料無料で整備している区間もあり、モータリゼーション加速を後押ししている格好です。
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簡単に言えば、北海道の場合は札幌一極集中、四国の場合は本州への「ストロー効果」によって、周辺部の経済が衰退していったにもかかわらず、鉄道網に加えて高速道路網や地方空港の整備を進めて、交通手段が多角的に整備された。そこで、固定費の高い宿命を抱えた鉄道事業に、大きなシワ寄せが及んでしまったという構図です。
これは、一鉄道事業者の責任を問うようなレベルを超えた話で、「国土計画の深刻な失敗」としか言いようがありません。つまり、国鉄民営化の「影の部分」というような、鉄道行政だけの問題ではないのです。
では、具体的な対策として何が考えられるか、ということになります。
まず、北海道の高橋はるみ知事が指摘しているように、直接の赤字補てんのような形で公的な支援をすることは得策ではないと考えられます。経営の健全性を確保する観点からも、永続性という観点からも避けるべきでしょう。
私は「上中下分離方式」を提案したいと思います。鉄道事業を「上」つまり実際の鉄道運行とメンテナンス、「中」として車両や電化設備など償却期間の比較的短い固定投資、そして「下」は線路や橋梁、トンネル、さらには駅舎など償却期間の長い固定設備の3つに分割して、「下」は国や道県が保有する、「中」は地元資金や企業・個人などの自発的支援を募って資金を調達するという考え方です。
その代わりとして「上」の部分、鉄道運行とメンテナンスは専門家集団である鉄道事業者が経営健全化の責任を負うというスキームです。こうすれば、JRの負担は軽減されます。だからと言って健全経営が簡単に実現できるとは思えませんが、こうした新たなスキームを真剣に考える時期だと思います。
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こう申し上げると「JRへの甘やかしではないか」とか「税金のムダ使いだ」という声が出るかもしれません。しかし、現在の日本の高速道路網は全国を3社のNEXCO(ネクスコ)という運営会社に分割民営化していますが、そのネクスコ3社は道路を一切保有していません。完全な「上下分割方式」で健全経営ができるスキームとなっているのです。
それを考えれば、少なくとも北海道と四国については、鉄道についても上下分離、あるいは私がここで提案したような「上中下の分離」というスキームを採用してみるのが、有効な解決策ではないでしょうか。