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「今日は赤」と意識するだけ 「カラーバス」で見える世界が変わる

ニューズウィーク日本版 2017年3月31日 22時27分

<気になっていることに関する情報はなぜだか目に飛び込んでくるもの。それを意識的な作業とするのが「カラーバス」だ。アイデア本のロングセラー『考具』より>

ビジネス書の世界には、定番と呼ばれるものがある。古い本なのに内容が古びず、読者のニーズに応え続け、ロングセラーとなっている。

いわゆるアイデア本でいえば、ジェームズ・W・ヤングの『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)や、フレドリック・ヘレーンの『スウェーデン式アイデア・ブック』(ダイヤモンド社)などがそれに当たる。前者は原書の初版が(なんと!)1940年、後者も2003年の刊行だ。

【参考記事】「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ」とヤングは言った

もちろん翻訳書だけではない。日本人の著者による本では、おそらく最も有名なのがこの本、『考具』(CCCメディアハウス)だ。

大手広告代理店の博報堂に勤める加藤昌治氏が「考えるための道具、持っていますか?」と問いかけた本書は、2003年に刊行された。現在までに37刷、15万部のロングセラーとなっている。

カラーバスやマンダラート、オズボーンのチェックリストなど、発想術のさまざまなテクニックをこの本で知ったという読者も少なくないようだ。翻訳書にありがちな小難しさがなく、読みやすいのも人気の理由だろう。

といっても「考具(こうぐ)」なんて知らない、という人は多いはず。これまでアイデア本を手に取る人は、企画などを仕事にしている人が主だったからだ。

時代は変わった。右肩上がりの経済成長は消え去り、多くの業界が激しい競争にさらされるなか、ビジネスパーソン1人1人の「考える力」がより一層問われるようになってきた。さらに今後は、人工知能(AI)の発展により、単純作業など、多くの仕事が失われるとも言われている。

そこで人間に残された生き残る道は......などと小難しいことを考えずとも、これだけは確かだ。ビジネスの世界で生きていくのに、ベテランも若手も、考える道具があるに越したことはない。

このたび『考具』のサブテキストとして基礎編『アイデアはどこからやってくるのか』と応用編『チームで考える「アイデア会議」』(いずれも加藤昌治著、CCCメディアハウス)が刊行されたのを機に、『考具』から一部を抜粋し、5回に分けて転載する。第1回は「【考具その1】カラーバス」。

◇ ◇ ◇

【考具その1】カラーバス

色につられてヒントになるアイテムが集まってくる

 カラーバス。聞いたことがありますか? バスはBATH。色を浴びる、ということです。

 方法は簡単。朝、家を出る前に「今日のラッキーカラー」を決めます。赤? 青? 黄色? 何色でも構いません。例えば「今日は赤だ!」と決めます。そしていつものように会社まで通勤してください。

 すると「今日は赤いクルマが多いなあ」......何だかよく分からないけど妙に赤いクルマが目につくんです。屋外看板広告も赤いのが目に入る。これがカラーバス効果。

 たぶん統計学的には赤いクルマの通行量はいつもと同じはずです。違っても数パーセントでしょう。ところが自分が「今日は赤」と意識しただけで、やたらと目につくんですね。不思議です。

 見えるから見る、へ。SEEからLOOKに変わるんです。

 これは色に限りません。自分が気になっていることに関する情報ってなぜか向こうから自分の目に飛び込んでくる気がします。そんな経験はないですか?

 わたしたちの頭や脳は「これが知りたいな」となかば無意識に思っていることを命令として捉えているのかもしれません。勝手に探してくれている感じがするほどに。その経験を意識的な作業として変換してみるだけです。



 このカラーバス、どうやって使うか。大きく分けて2つの使い方があります。

 普段の使い方は特にアテなく、自分にとって使えそうな何かを探すとき。そしてかなり切羽詰まっていて、目前の問題解決につながりそうなヒントを探すとき。どちらの場合も、通勤とか、どこそこへの移動とか、街中を動くときに有効な考具です。

 普段使いのときには、意識するものを1つ、決めておきます。最初に「色」を取り上げました。カラーバスというくらいなので色が一番分かりやすいというか、気がつきやすいことは確かです。

 赤色を意識していると、赤い色に塗られたものが次々と目に入ってきます。家の中にも結構あるはずです。ペンに本の表紙、靴下にパソコンソフトの箱。外に出るとさらに赤いものだらけ。クルマはもちろんですが、歩いている人たちが身につけている洋服にバッグ、冬ならマフラー。商店街のお店の看板にも赤色って多いです。もしもどこかのお店に入るチャンスがあったらさらに赤色旋風......。

 こんなにあるんだ......とまずは素直に驚いてください。

 驚いた次に、赤いものが何だったのか? を見てください。

 心の中でブツブツつぶやきながら列挙していくことをわたしはよくやってます。するとどうなるか? 赤色、それだけの共通項で括られると、自分の想像をはるかに越えたアイテムたちが集結することになるんです。靴下と回転寿司の看板、なんて一緒にして想起することって日頃はないんじゃないですか?

 この、一見関係なさそうなものたちが自然に集まってしまうことがカラーバスの不思議なところ。街をぶらつくだけで新鮮なアイテムがあなたの目の前に登場してくれます。

 もう一度「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」の原則を思い出してください。既存の要素......ここに落とし穴があります。

 アイデアを考えることに慣れていない場合、既存の要素を探す範囲が狭くなってしまうことが多いのです。クルマならクルマ周りのことだけで考えようとしてしまうパターンです。

 アイデア稼業の広告会社にいてもよくこの穴には落ちてしまいます。そんなの関係あるの? と思ってしまうようなことをあえて引っ張り出してくるところに新しさの芽があります。そして悲しいかなわたしたちは「よし、いつもと違うことを見つけよう」と張り切ってみても視線の使い方を変えられずに終わってしまうのです。少なくともわたしはダメです。強制的に「○○色」に決めることで注意力の方向をうまくずらしてもらえるのが、カラーバスのありがたさですね。

 普段使いのときには「そうかあ、赤いものって結構たくさんあるなあ。△△寿司の看板もそうか。そういえばトロ食ってないなあ......赤貝も食べたいなあ」などと、一応"赤縛り"で吞気(のんき)にぼやーっと連想して、終わりです。

 それ以上のことをする必要はありません。翌日は色を変えてみるぐらいです。目についたアイテムたちを強く覚えようともしていません。いざ鎌倉のときにフッと思い出したらラッキー! くらいの気持ちです。一度しっかり意識した、この事実だけで十分です。必ずいつか役に立ってくれます。



 白状すると、最初は面白くて延々とやっていましたが、今では毎日なんてやってません。やるときも1回あたり数分とか信号1つ分、200メートルぐらいで終わりにしていることも多いです。それでもやる度に発見の連続です。いつでも何かが新発売されてますし、お店や看板は頻繁に変わっています。カラーバスは、注目する視点をいつもと違うジャンルで絞ると発見の幅が広がることを教えてくれる考具ですね。

 当たり前ですが「色」だけだと飽きます。次は「形状」「位置」「音」......なんでもいいです。「形状」であれば、丸いもの、先の尖とがったデザインのもの......など。「位置」というのは、視線の高さを変えてみることなど。

 面白いと思うのが天井。空、電車の車両、部屋の天井。どんなだったか覚えてないですよね。おばあちゃんの家の天井が木製の板張りで、うねうねした模様が動物やら何やらに見えてきたりした、あの体験を通勤時にやってみるわけです。ニヤニヤすると周りの人に怖がられますからご注意あれ。

 それから「音」。情報とは目で見えるものだけではありません。音だけでなく「臭い」「手触り」など五感をできる限り使いたいものです。目→耳→鼻→手→舌の順で情報を得るために必要となる距離が近くなってしまいますから、通勤時などは舌までは使えないかもしれませんが。

 場所によって応用もできます。デパートでやってみるのも面白いです。

 やり方は全く同じ。色を決めたら最上階から、または地下から順繰りにウロウロしていきます。百貨店と言うくらいなので、商品のジャンルも広いです。女性向け/男性向けフロアもありますから、男女ペアだと緊張せずに回れるかも。あるいは「プレゼントを探しているんだよ」オーラで乗り切りましょう。デパートのいいところは、デザインに優れているものが多く揃えられていること。やはりいいものはいいです。目を肥やすチャンスでもあります。

 郊外型の大きなショッピングモールもお薦め。専門店も多くてバリエーションに富んでいます。自分に縁遠かった売場やお店の中にも入ってみてください。

 本屋さんもいいですね。小説、ビジネス書、マンガと通常はジャンルで選んでしまうところを、色で縛って店内を横断します。1冊ぐらいは「こんなのがあったんだ」と思う掘り出し物が見つかります。すかさずパラパラめくってみてください。あなたの頭の中の情報の幅が格段に拡がった瞬間です。

 こういうことって、実際やってみるのは大変です。まずもって面倒くさい。その面倒くささをゲームにする、あるいは自分自身を説得する材料として、「色」を使っているのですね。

 およそアイデア・企画を考えることにおいては、このような「すり替え」と「言い訳」、そして「ほんの少しの強制力」がものすごく力になってくれます。これらのパワーをうまく使ってアイデアを思いつくまでの階段の高さを低くしていくことが大事なのだ、と最近分かりました。心理と真理を突いている気がしているのですが、どうでしょうか?



 閑話休題。

 急いでないときはそうやって遊んでいればいいんですが、13時までに5案考えなきゃいけないのに、2つしか思いついてない......って日もあります。カラーバスはそんなときにも効果を発揮します。

 方法は基本的には同じです。

 朝、家を出る前にその日のキーワードを決めます。普段使いでは気の向くままでよかったのですが、さすがにそれだと不安。抱えている課題に絡んで3つぐらい決めます。ダイエットに関する書籍を売るための方法を考えなくてはいけない場合は、「本のタイトルに使われている言葉」「その本の表紙の色」、ダイエット後の自分を想像して「棒のようなやや細くて長いもの」とか。

 コツとしてはあまり真っ正面から決めないこと。カラーバスのいいところは一見関係ないものが、色を共通項にして集まってくる、でした。なので「色」とか「タイトルワードの一部分」など、ちょっとだけ外しておくと、意外に集まりがいいみたいです。このあたりの勘ドコロは個人差もあるので、要調整。

 そして出発。すると不思議にヒントになりそうなものが見えてきます。見えてくるアイテムたちは、割合下らなかったり、一見意味不明だったりしますが、全て受け入れてください。なんせアイデアに良し悪しはなく、ひとまず何でもありですから何がヒントになるか、分かりません。勝手に自分で可能性にフタをするのはやめましょう。まずは拡げて。絞るのはその後。この原則はアイテム探しの段階でも同じです。使えるかどうかは後でじっくり検討するとして、まずはたくさん拾います。

 こうして集まったアイテムたちをどうするのか、は第3章で詳しくお伝えしますが、基本的には「組み合わせる」ことに尽きます。カラーバスは組み合わせるための要素をたくさん持っておくための考具。街は情報の宝庫だ、なんてよく聞きますが、宝の掘り出し方を知らないと、損します。色に注意するだけです。早速お試しください。

※第2回:お客さんの気持ちを「考える」ではなく「演じて」みたら?


『考具』
 加藤昌治 著
 CCCメディアハウス



『アイデアはどこからやってくるのか 考具 基礎編』
 加藤昌治 著
 CCCメディアハウス



『チームで考える「アイデア会議」 考具 応用編』
 加藤昌治 著
 CCCメディアハウス



ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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