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エクアドル大統領選に「介入」したアサンジの迷走

ニューズウィーク日本版 2017年4月4日 17時10分

<在英エクアドル大使館に匿われているアサンジが、エクアドル大統領選の期間中、ウィキリークスの内部情報を使って自分に有利な候補を応援していた。選挙への「介入」という批判が出ている>

今週2日、南米エクアドルで、大統領選の決選投票が行われた。

即日開票された結果によると、勝利したのは現職ラファエル・コレア大統領の後継者で、同じ反米左派の与党候補レニン・モレノ前副大統領(64)。

対抗馬だった野党で右派の元銀行頭取ギジェルモ・ラソは敗れたが、最近の選挙ではもはやお決まりの「不正操作」「再集計」という結果への疑義の声を上げている。それでも、モレノの勝利が揺るぐことはないだろう。

エクアドルの選挙は世界的にも大きな注目を浴びた。その最大の理由は、エクアドルが在英エクアドル大使館で、内部告発サイト・ウィキリークスの創設者であるジュリアン・アサンジを2012年から保護しているからだ。

大統領選でも、アサンジの処遇が取り上げられ、モレノは現状維持で保護、ラソは勝利すればアサンジを30日以内に大使館から追放すると息巻いていた。

今回の選挙によって、アメリカに身柄を引き渡されて起訴される可能性もあったアサンジは、命拾いしたことになる。

【参考記事】ウィキリークスはCIAを売ってトランプに付いた

ウィキリークスを私物化

エクアドル大使館に残れる気配が濃厚になってくると、強気になったアサンジは舌鋒なめらかになった。自分に否定的だったラソが敗れるという選挙結果を聞いたアサンジは、「心から」ラソに30日以内にエクアドルを去ることを勧める、とツイートした。

そんなアサンジだが、この大統領選ではウィキリークスを私物化しているのではないかと、専門家などからの指摘を受けた。

それはアサンジが、自らの処遇に多大な影響を与えることになるエクアドルの大統領選に、明らかに「介入」したからだ。大統領選の期間中、ウィキリークスはアサンジを追い出すと主張していたラソに対するネガティブ・キャンペーンを張った。

アサンジは、ウィキリークスが内部告発で入手した機密書類などを保身のために使ったのだ。つまり、内部告発の目的で提供された情報を自分の利益のために利用したことになる。



例えば2月初め、ウィキリークスが以前内部告発で手に入れた米外交公電の中に、ラソが米政府の情報提供者だったとされる記述があるとして、それをわざわざ選挙に合わせてツイートしている。しかも文書に蛍光ペンでラインを引いて、画像もアップした。

また選挙当日も、ラソの顔写真とともに「今日のエクアドルの大統領選に、パナマのオフショア銀行スキャンダルが」というツイートをした。確かにラソはパナマにいくつもの会社を所有していたことが判明しているが、現在のところ違法性があるかどうかは分かっていない。しかし、少なくともラソのイメージにマイナスになったことは間違いないだろう。

こうして、ラソの足を引っ張るようなツイートを続けたことで、ウィキリークスは明らかにエクアドル大統領選に介入した。しかもラソを貶めようとする意図は明らかで、「内部告発」の完全な私物化だ。

大統領選への介入と言えば、最近世界で大きな話題になったケースがある。アメリカの大統領選だ。

【参考記事】オランダ極右党首に巨額献金する「トランプ一派」の思惑とは

トランプ勝利に協力?

ロシアの諜報機関に指示を受けたハッカー集団が、民主党や共和党のネットワークに侵入し、選挙に不正に介入したとして、今では捜査の対象になっている。

この問題でも、ウィキリークスは民主党の内部情報を次々と暴露することで、結果的にドナルド・トランプの選挙戦を助け、トランプ大統領の誕生を望んで動いていたロシアに「協力」したと批判された。

アサンジは、ロシアが盗んだ情報を「内部告発」として暴露したことで、今ではロシアの手先だとまで言われるようになっている。さらに今回のエクアドル大統領選で、自分に好意的な候補者を支援するために内部告発を使ったのだから、迷走していると批判されても仕方がない。

もちろん、そもそもウィキリーク自体がそんな崇高なものではない、という指摘はあった。ただ物議を醸しながらも、外交公電のように公益性の高い情報を提供してきたことは事実だ。

もしウィキリークスが、アサンジの私的な目的を達成するための「道具」になりつつあるとしたら、それはアサンジを支援してきた人たちへの裏切りでもある。

山田敏弘(ジャーナリスト)

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