<シリア・アサド政権の化学兵器使用疑惑をめぐって、トランプ政権が外交方針を180度転換。しかしこれまで異例だった外交方針が「正常化」に向かう兆候と考えれば、納得はいく>
今週4日から5日にかけて、「シリア内戦でアサド政府軍が化学兵器を使用か」というニュースが世界を駆け巡りました。5日朝には、例えば三大ネットワークの一つであるNBCテレビでは、中東特派員として長年シリア内戦を取材してきたリチャード・エンゲル記者が、「サリン攻撃の被害者とみられる人々を治療する様子」の動画を紹介しながら、事態の深刻さを解説していました。
これに関してトランプ大統領は、「オバマの弱腰な姿勢がこうした事態を招いた」という意味不明なツイートをしていました。意味不明というのは、つい先週、トランプ政権は「アサド政権のシリアには政権交代を求めない」という「新方針」を発表したばかりだったからです。
一方で、今週3日にロシアのサンクトペテルブルグで発生した地下鉄テロ事件に関しても、トランプ大統領は丁重なメッセージをプーチン大統領に対して送り、状況としては「トランプ=プーチン=アサド」という連携体制が強化されたような印象を与えています。
【参考記事】シリアの子供たちは、何度化学兵器で殺されるのか
この流れは、トランプ大統領自身が昨年の選挙戦を通じて主張してきた方針に沿っているものです。選挙戦の中では何度も、「シリアはアサドとプーチンに任せる」という発言が繰り返されました。それが「この政権の外交方針」だということが、賛成・反対の立場は別として、アメリカの政界やメディアの共通理解となっていました。
そこへ今回の「オバマの弱腰が招いた事態」発言が出てきたわけです。つまり自分はアサド政権を支持しておきながら、オバマ前大統領には「アサド政権を攻撃するべきだった」という非難をしているのですから、これでは激しい自己矛盾というか、意味不明としか言いようがないのです。
5日になると、その意味合いが段々と明らかになってきました。トランプ政権は、シリアのアサド政権への非難を開始したのです。これは、一見すると「矛盾の上に矛盾を重ねる」行動に見えます。確かに、「アサド政権を認める」という前週のコメント、そして「悪いのはオバマの弱腰」という発言、そして「アサド政権への非難」という格好で、短期間に発言がクルクル変わったのは事実で、一連の発言はお互いに矛盾しています。
ですが、これを「発言が矛盾している」のではなく、短期間に政権の方針が急速に転換していると考えれば、辻褄は合います。選挙戦から一貫していた、「シリアはアサド政権とプーチンに任せる」という方針を捨て、「アサド政権の退陣を求める」方向、つまり米外交をオバマの路線に戻すということです。
その理由として一つ考えられるのは、3月を通じて「トランプ陣営のロシアとの癒着疑惑」をずっとスッキリしないまま引きずってきたという問題があります。特に、この疑惑によって辞任に追い込まれたマイケル・フリン前安保担当補佐官が「一切の訴追を逃れるという条件(訴追免除=イミュニティ)なら議会証言をしても良い」とコメントした際には、「やはり不法行為があったのか!」という衝撃が走り、政権の支持率低下の原因になりました。
ですから、今回特に問題となっているシリア情勢に関して「アサド=プーチン」に距離を置くという方針転換をすれば、「政権がロシアと癒着している」とか「大統領はプーチンに弱みを握られている」といった疑惑をかわすことができるという思惑です。
さらに、この動きに重なるように5日にはNSC(国家安全保障会議)のメンバーから、スティーブン・バノン分析官が「外された」という報道がありました。いわゆる「オルタナ右翼」の代表として、保守本流から危険視されていたバノン氏がNSCの常任メンバーに入っていたのは、そもそも異例の処遇だったわけですし、与野党からかなり批判を浴びていたのですが、結果的にメンバーから外れることになりました。
【参考記事】対テロ軍事作戦に積極的なトランプが抱える血のリスク
こうした動きを全体的に捉えるのであれば、トランプ政権の外交路線が「極端な方向」に向かうことは阻止されて、「正常化」に向かう兆候だという見方が一番スッキリします。例えばNATOへの防衛責任を見直すといった「極端な路線」は消えたと見るべきなのでしょう。一部には、マティス国防長官とマクマスター安保補佐官が強く主張して、このような方針変更に至ったという報道もあります。
今回の急激な変化は、今週6日から始まるフロリダでの米中首脳会談の前に体制を整えたという見方もできます。そうであれば、同時に、切迫した北朝鮮の核危機への対処に関しても、「トランプの自己流軍事外交」ではなく、国務省と軍・諜報機関が一体となった「常識的な対応」が取られるという期待はできます。
今週4日から5日にかけて、「シリア内戦でアサド政府軍が化学兵器を使用か」というニュースが世界を駆け巡りました。5日朝には、例えば三大ネットワークの一つであるNBCテレビでは、中東特派員として長年シリア内戦を取材してきたリチャード・エンゲル記者が、「サリン攻撃の被害者とみられる人々を治療する様子」の動画を紹介しながら、事態の深刻さを解説していました。
これに関してトランプ大統領は、「オバマの弱腰な姿勢がこうした事態を招いた」という意味不明なツイートをしていました。意味不明というのは、つい先週、トランプ政権は「アサド政権のシリアには政権交代を求めない」という「新方針」を発表したばかりだったからです。
一方で、今週3日にロシアのサンクトペテルブルグで発生した地下鉄テロ事件に関しても、トランプ大統領は丁重なメッセージをプーチン大統領に対して送り、状況としては「トランプ=プーチン=アサド」という連携体制が強化されたような印象を与えています。
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この流れは、トランプ大統領自身が昨年の選挙戦を通じて主張してきた方針に沿っているものです。選挙戦の中では何度も、「シリアはアサドとプーチンに任せる」という発言が繰り返されました。それが「この政権の外交方針」だということが、賛成・反対の立場は別として、アメリカの政界やメディアの共通理解となっていました。
そこへ今回の「オバマの弱腰が招いた事態」発言が出てきたわけです。つまり自分はアサド政権を支持しておきながら、オバマ前大統領には「アサド政権を攻撃するべきだった」という非難をしているのですから、これでは激しい自己矛盾というか、意味不明としか言いようがないのです。
5日になると、その意味合いが段々と明らかになってきました。トランプ政権は、シリアのアサド政権への非難を開始したのです。これは、一見すると「矛盾の上に矛盾を重ねる」行動に見えます。確かに、「アサド政権を認める」という前週のコメント、そして「悪いのはオバマの弱腰」という発言、そして「アサド政権への非難」という格好で、短期間に発言がクルクル変わったのは事実で、一連の発言はお互いに矛盾しています。
ですが、これを「発言が矛盾している」のではなく、短期間に政権の方針が急速に転換していると考えれば、辻褄は合います。選挙戦から一貫していた、「シリアはアサド政権とプーチンに任せる」という方針を捨て、「アサド政権の退陣を求める」方向、つまり米外交をオバマの路線に戻すということです。
その理由として一つ考えられるのは、3月を通じて「トランプ陣営のロシアとの癒着疑惑」をずっとスッキリしないまま引きずってきたという問題があります。特に、この疑惑によって辞任に追い込まれたマイケル・フリン前安保担当補佐官が「一切の訴追を逃れるという条件(訴追免除=イミュニティ)なら議会証言をしても良い」とコメントした際には、「やはり不法行為があったのか!」という衝撃が走り、政権の支持率低下の原因になりました。
ですから、今回特に問題となっているシリア情勢に関して「アサド=プーチン」に距離を置くという方針転換をすれば、「政権がロシアと癒着している」とか「大統領はプーチンに弱みを握られている」といった疑惑をかわすことができるという思惑です。
さらに、この動きに重なるように5日にはNSC(国家安全保障会議)のメンバーから、スティーブン・バノン分析官が「外された」という報道がありました。いわゆる「オルタナ右翼」の代表として、保守本流から危険視されていたバノン氏がNSCの常任メンバーに入っていたのは、そもそも異例の処遇だったわけですし、与野党からかなり批判を浴びていたのですが、結果的にメンバーから外れることになりました。
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こうした動きを全体的に捉えるのであれば、トランプ政権の外交路線が「極端な方向」に向かうことは阻止されて、「正常化」に向かう兆候だという見方が一番スッキリします。例えばNATOへの防衛責任を見直すといった「極端な路線」は消えたと見るべきなのでしょう。一部には、マティス国防長官とマクマスター安保補佐官が強く主張して、このような方針変更に至ったという報道もあります。
今回の急激な変化は、今週6日から始まるフロリダでの米中首脳会談の前に体制を整えたという見方もできます。そうであれば、同時に、切迫した北朝鮮の核危機への対処に関しても、「トランプの自己流軍事外交」ではなく、国務省と軍・諜報機関が一体となった「常識的な対応」が取られるという期待はできます。