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「マーガリンじゃなくバターを使え」ダンキンドーナツを訴えた男

ニューズウィーク日本版 2017年4月7日 17時35分

<25セント払ってバターを塗ってもらっていたはずなのに、実際はマーガリンだった。トランス脂肪酸が規制されているアメリカで、そんな訴訟を起こした人物がいる。結審はまだだが、提出された示談条件も驚きだ>

アメリカと言えば、時々びっくりするようなことが裁判沙汰になる「訴訟大国」。そのアメリカで、今度は25セントの商品をめぐって訴訟が起きた。

ファストフードチェーンの「ダンキンドーナツ」に通ってベーグルを買っていた男性が25セントを追加注文して「バター」を塗ってもらっていたところ、実際に塗られていたのは「マーガリン」だったとして訴訟を起こしたのだ。

訴えたのは、マサチューセッツ州に住むジョン・ポラニック。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ポラニックは2012年6月~2016年6月の4年間、「バター」と表示された商品を買っていたら「マーガリン、もしくはバターの代用品」を塗られていたと、マサチューセッツ州のダンキンドーナツ23店舗のオーナーを相手取って訴訟を起こした。

裁判が最終的に結審するには数カ月かかるとみられるが、今週マサチューセッツ州の地方裁判所に提出された条件で示談が成立すれば、マサチューセッツ州内のダンキンドーナツ23店舗は、限定1400人を対象に(本物の)バター入りのマフィン、ベーグルなどの商品を3つまで無料で提供しなければならない。その際、客は過去のレシートを提示する必要はない。

これらの店舗は以後1年間マーガリンやバターの代用品を使用できなくなり、1年経ってバター以外のものを使用する際には代用品を使っていると明示する必要がある。集団訴訟を起こしたポラニックが代表者として受け取る額は500ドル、代理人である弁護士は9万ドルが見込まれている。

ポラニックの代理人はニューヨーク・タイムズに対し、提訴した動機を「ダンキンドーナツが人々を騙しているという状況を変えること」と語っているが、ダンキンドーナツ側にも言い分があるようだ。

訴訟に対して、ダンキンドーナツは「マサチューセッツ州内のダンキンドーナツの大半では、容器に入ったホイップ状のバターと、バターの代用品として植物性油脂で出来たスプレッドを扱っている」と声明を発表した。2013年には、ダンキンドーナツはボストングローブ紙の取材に対し、ベーグルなどのサイド商品として注文された場合は容器入りのホイップバターを提供し、店側が塗る場合は植物性油脂のスプレッドを使うことを推奨していると話していた。「バターをその場ですぐに塗るには室温にしておく必要があるが、食品衛生上、バターを室温で管理することはできないから」だという。

「バター」と表示してマーガリンを使ったら、「食品偽装」なのか。

ポラニックが訴訟を起こした真意は不明だが(代理人は「多くの理由で彼はバターを好んだ」と語った)、客の中にマーガリンを好まない人がいたとしても不思議ではない。

2015年には米食品医薬品局(FDA)が、一部のマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸は心臓疾患のリスクを高めるとして、トランス脂肪酸の原因となる油の使用を禁止すると発表した。逆に、動物性の食物をとらないベジタリアンは、バターではなくマーガリンと表示されているほうが有難いだろう。



大豆で出来た「ソイミルク」は「フェイク」食品?

「バターvs.マーガリン」に限らず、アメリカでは食品の正統性について至るところで論争が起きている。例えばミルク。現在は大豆で出来た「ソイミルク」やアーモンドで出来た「アーモンドミルク」といった商品を見かけることは珍しくないが、ミルク(牛乳)とは本来、「牛の乳」のこと。 AP通信によれば、今年に入って乳製品業界はFDAに対し、商品名の規制を強化するよう求め始めた。

乳製品業界からすれば、こうした「フェイク」商品は「ソイ・ミルク(soy milk)」ではなく「ソイミルク(soymilk)」と1つの単語にすることを抜け道にしている。

一方で植物性の代用品を作る側は、自分たちは「より安い代用品」を作って儲けようとしているのではない、と考える。動物由来の食物をとらない人たちは、乳製品の代用品がそれと分かるように売られていることを求めているからだ。

フェイク・バターか、フェイク・ミルクか。それが意図的な「偽装」かどうかに関わらず、今回訴えを起こしたポラニックでなくとも、客は自分たちが何を口にしているのかを知りたいと思うのは当然だ。

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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部 

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