<ユナイテッド航空の株価は下がり、過去の「約束」が明るみに出され、ライバル社に揶揄され......。謝罪声明を出しても、まだ終わりそうにない危機>
米ユナイテッド航空で4月9日に起こった「事件」の火は、いまだ消える気配がない。
場所はシカゴのオヘア空港。ケンタッキー州ルイビルへ向けて出発予定のユナイテッド航空3411便の機内で、乗客が座席から暴力的に引きずり出された様子がソーシャルメディアに投稿され、瞬く間に拡散していった。
【参考記事】オーバーブッキングのユナイテッド航空機、乗客引きずり出しの一部始終
同社はその後、2度にわたって謝罪声明を出したが、それでも鎮火とならず、いまも火力は増しているようだ。その後に起こったこと、わかったことを整理する。
株価急落、一時は10億ドルを失った
炎上を受け、持ち株会社であるユナイテッド・コンチネンタル・ホールディングスの株価は11日、4%急落した。企業価値10億ドル以上に相当する額だ。終値は前日比1%安で収まったが、フォーチュンによれば、大株主であるウォーレン・バフェットはこれで2400万ドルを失っている。
ただし、世界屈指の投資家であるバフェットは、ライバル社のアメリカン航空やデルタ航空などの株も所有しており、それらは値上がりしたため、トータルでは1億400万ドルの利益を得たと、同誌は計算する。
「乗客全員に座席を保証する」と約束していた
遡ること3年前、ユナイテッド航空は規制当局にこんな約束をしていた――航空券を購入した乗客は全員、座席を保証される。
2014年9月のことだ。IBTの報道によれば、当時、航空会社が乗客に課す各種手数料をもっと開示せよという提議がなされており、ユナイテッド航空は反対を表明する意見書を米運輸局に提出。その中で、「航空券を購入したすべての乗客は追加料金なしで座席を割り当てられる」から、座席割り当ての手数料を開示するルールは必要ないとしていた。
実際には座席が保証されていなかったことが今回、明白になった。
強制的な搭乗取り消しは年間4万人もいた
オーバーブッキングが決して珍しいものでないことは、統計からも明らかだ。
米運輸局のレポートによれば、昨年アメリカで予約していた航空便を取り消された人は50万人近くに上るが、そのうち強制的に(非自主的に)取り消されたのは約4万600人。昨年の米航空会社の全乗客数は約6億6000万人なので、強制的なケースは1万人あたり1人未満(0.62人)という計算になる。
ワシントン・ポストの調べでは、ユナイテッド航空の取り消し数は他社と比べて特段に多いわけではない。昨年、約6万300人が同社の航空便取り消しに遭い、うち3765人は強制的なケースだった。
ユナイテッド航空を擁護する声も出ている
今回の乗客引きずり出し騒動では、ユナイテッド航空に多くの批判が寄せられた。非難するツイートを出したセレブもいたし、ボイコットの呼び掛けも行われているが、必ずしもアンチ・ユナイテッドの声ばかりではない。
FOXニュースには「ユナイテッド航空は無実だ」と題するコラムが。責任は、ユナイテッド航空の職員ではなく、乗客を暴力的に引きずり出したシカゴの警察官にあると主張している(現在、停職処分を受けている)。
ソーシャルメディア上では、降機を拒否し、警察官に抵抗して怪我をした乗客デイビッド・ダオに対して「当然だ」といった声も散見された。ケンタッキー州ルイビルの地元紙クーリエ・ジャーナルは州民であるダオに関する記事を掲載しているが、この件と関係ないにもかかわらず、ドラッグ関連での逮捕歴があることを伝えている。
海外の航空会社が自社のPRに活用している
注目はアメリカ国内からだけではない。ここぞとばかりにユナイテッド航空を揶揄するツイートを出したのは、なんと海外の航空会社である。
We are here to keep you #united Dragging is strictly prohibited pic.twitter.com/CSjZD7fM4J— Royal Jordanian (@RoyalJordanian) 2017年4月10日
「わが社の機内では引きずり出しが禁止されていることをお伝えします。乗客によるものも、乗務員によるものも」――ロイヤル・ヨルダン航空
Fly the friendly skies with a real airline. pic.twitter.com/wE5C5n6Lvn— Emirates airline (@emirates) 2017年4月11日
エミレーツ航空は動画で。ユナイテッド航空のオスカー・ムニョスCEO(最高経営責任者)が3月に中東湾岸諸国の航空会社は「航空会社ではない」と語ったことを持ち出して、「ムニョスさん、トリップアドバイザーによれば、われわれは本物の航空会社であるだけでなく、最高の航空会社なのですが」と最高のひと言。
これらの航空会社がライバル社の苦境をPRに最大限活用しているのは、トランプ米政権が3月、中東と北アフリカの空港を出発する便で電子機器の機内持ち込み禁止を打ち出したことと、おそらく無関係ではないだろう。
【参考記事】ロイヤル・ヨルダン航空、米の電子機器禁止に神対応
◇ ◇ ◇
出回った映像が衝撃的だったこともあり、ユナイテッド航空にとっては悪夢のような炎上事件となっているが、火はまだ消えそうにない。なかでも大きな火種は、人種差別問題だろう。
今回の騒動はアメリカ国外でも大きく報じられているが、引きずり出されたデイビッド・ダオが中国・ベトナム系だったことから、とりわけ中国で大きな話題となっている。「人種差別ではないか!」というわけだ。しかも、中国側での騒ぎの底流には中国人の黒人差別意識もあるようだ(参考記事:ユナイテッド機の引きずり出し事件に中国人激怒、の深い理由)。
いずれにせよ、今回のような暴力的な乗客引きずり出し「事件」が、二度と起こらないことを願いたい。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
米ユナイテッド航空で4月9日に起こった「事件」の火は、いまだ消える気配がない。
場所はシカゴのオヘア空港。ケンタッキー州ルイビルへ向けて出発予定のユナイテッド航空3411便の機内で、乗客が座席から暴力的に引きずり出された様子がソーシャルメディアに投稿され、瞬く間に拡散していった。
【参考記事】オーバーブッキングのユナイテッド航空機、乗客引きずり出しの一部始終
同社はその後、2度にわたって謝罪声明を出したが、それでも鎮火とならず、いまも火力は増しているようだ。その後に起こったこと、わかったことを整理する。
株価急落、一時は10億ドルを失った
炎上を受け、持ち株会社であるユナイテッド・コンチネンタル・ホールディングスの株価は11日、4%急落した。企業価値10億ドル以上に相当する額だ。終値は前日比1%安で収まったが、フォーチュンによれば、大株主であるウォーレン・バフェットはこれで2400万ドルを失っている。
ただし、世界屈指の投資家であるバフェットは、ライバル社のアメリカン航空やデルタ航空などの株も所有しており、それらは値上がりしたため、トータルでは1億400万ドルの利益を得たと、同誌は計算する。
「乗客全員に座席を保証する」と約束していた
遡ること3年前、ユナイテッド航空は規制当局にこんな約束をしていた――航空券を購入した乗客は全員、座席を保証される。
2014年9月のことだ。IBTの報道によれば、当時、航空会社が乗客に課す各種手数料をもっと開示せよという提議がなされており、ユナイテッド航空は反対を表明する意見書を米運輸局に提出。その中で、「航空券を購入したすべての乗客は追加料金なしで座席を割り当てられる」から、座席割り当ての手数料を開示するルールは必要ないとしていた。
実際には座席が保証されていなかったことが今回、明白になった。
強制的な搭乗取り消しは年間4万人もいた
オーバーブッキングが決して珍しいものでないことは、統計からも明らかだ。
米運輸局のレポートによれば、昨年アメリカで予約していた航空便を取り消された人は50万人近くに上るが、そのうち強制的に(非自主的に)取り消されたのは約4万600人。昨年の米航空会社の全乗客数は約6億6000万人なので、強制的なケースは1万人あたり1人未満(0.62人)という計算になる。
ワシントン・ポストの調べでは、ユナイテッド航空の取り消し数は他社と比べて特段に多いわけではない。昨年、約6万300人が同社の航空便取り消しに遭い、うち3765人は強制的なケースだった。
ユナイテッド航空を擁護する声も出ている
今回の乗客引きずり出し騒動では、ユナイテッド航空に多くの批判が寄せられた。非難するツイートを出したセレブもいたし、ボイコットの呼び掛けも行われているが、必ずしもアンチ・ユナイテッドの声ばかりではない。
FOXニュースには「ユナイテッド航空は無実だ」と題するコラムが。責任は、ユナイテッド航空の職員ではなく、乗客を暴力的に引きずり出したシカゴの警察官にあると主張している(現在、停職処分を受けている)。
ソーシャルメディア上では、降機を拒否し、警察官に抵抗して怪我をした乗客デイビッド・ダオに対して「当然だ」といった声も散見された。ケンタッキー州ルイビルの地元紙クーリエ・ジャーナルは州民であるダオに関する記事を掲載しているが、この件と関係ないにもかかわらず、ドラッグ関連での逮捕歴があることを伝えている。
海外の航空会社が自社のPRに活用している
注目はアメリカ国内からだけではない。ここぞとばかりにユナイテッド航空を揶揄するツイートを出したのは、なんと海外の航空会社である。
We are here to keep you #united Dragging is strictly prohibited pic.twitter.com/CSjZD7fM4J— Royal Jordanian (@RoyalJordanian) 2017年4月10日
「わが社の機内では引きずり出しが禁止されていることをお伝えします。乗客によるものも、乗務員によるものも」――ロイヤル・ヨルダン航空
Fly the friendly skies with a real airline. pic.twitter.com/wE5C5n6Lvn— Emirates airline (@emirates) 2017年4月11日
エミレーツ航空は動画で。ユナイテッド航空のオスカー・ムニョスCEO(最高経営責任者)が3月に中東湾岸諸国の航空会社は「航空会社ではない」と語ったことを持ち出して、「ムニョスさん、トリップアドバイザーによれば、われわれは本物の航空会社であるだけでなく、最高の航空会社なのですが」と最高のひと言。
これらの航空会社がライバル社の苦境をPRに最大限活用しているのは、トランプ米政権が3月、中東と北アフリカの空港を出発する便で電子機器の機内持ち込み禁止を打ち出したことと、おそらく無関係ではないだろう。
【参考記事】ロイヤル・ヨルダン航空、米の電子機器禁止に神対応
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出回った映像が衝撃的だったこともあり、ユナイテッド航空にとっては悪夢のような炎上事件となっているが、火はまだ消えそうにない。なかでも大きな火種は、人種差別問題だろう。
今回の騒動はアメリカ国外でも大きく報じられているが、引きずり出されたデイビッド・ダオが中国・ベトナム系だったことから、とりわけ中国で大きな話題となっている。「人種差別ではないか!」というわけだ。しかも、中国側での騒ぎの底流には中国人の黒人差別意識もあるようだ(参考記事:ユナイテッド機の引きずり出し事件に中国人激怒、の深い理由)。
いずれにせよ、今回のような暴力的な乗客引きずり出し「事件」が、二度と起こらないことを願いたい。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部