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ロシアの地下鉄爆破テロに自作自演説が生じる理由

ニューズウィーク日本版 2017年4月13日 10時50分

<サンクトペテルブルクの悲劇をめぐって、浮き彫りになる国際テロとロシアの関係>

ロシア第2の都市サンクトペテルブルクの地下鉄で先週、爆破テロが起こり、少なくとも14人が死亡した。捜査当局はキルギス生まれの犯人(自爆して死亡)を特定し、先週末までに共犯の疑いにより8人を拘束した。

だが、ロシア当局の対応が緩慢に感じられるのはなぜか。国営メディアも当初は、現場の映像をひたすら流すだけだった。

こうした姿勢が、今回の事件は「自作自演」だという噂に火を付けるのは間違いない。過去にも、ロシア政府が言い逃れしにくい噂がたびたび飛んでいる。

例えば14年には、99年に首都モスクワなどで発生した高層アパート連続爆破事件が、ロシア連邦保安局(FSB)の犯行だと主張する本が出版された。このテロは第2次チェチェン紛争の端緒となり、結果としてプーチンが大統領の座に就いた。

自作自演説は、ロシアとテロ組織の現実の関係から目をそらさせる。覆い隠される現実は、背筋が凍りそうなものだ。

【参考記事】大規模デモで始まったプーチン帝国の終わりの始まり

9.11テロ以来、ロシアはアメリカにテロ対策で協力すると言ってきた。今では中東地域で、「安定」のために軍事・外交上の影響を強めている。テロを抑え込むには国内の独裁体制の維持が必要だと言いたいようだ。

ロシア当局の行動は発言と一致しない。シリアのアサド政権にロシアが肩入れしたことは、逆に地域情勢を不穏にしている。しかも目的のために、いくつものテロ組織と手を結んだ。シリアではテロ組織ISIS(自称イスラム国)との戦いを口実に、レバノンの武装組織ヒズボラと、イラン・イスラム革命防衛隊の精鋭部隊を利用した。

だがアサドは、ISISから石油を買っているとされる。その上、FSBは北カフカスで、ISISの志願兵の募集とシリアへの入国を手助けしているという報道もある。

移住者を「兵器」にする

これらの支援は当初、ロシア側に成果をもたらした。ロシア語を話せるイスラム聖戦士がシリアに姿を現すと、戦いの中心はシリアからイラクに移った。アフガニスタンでは、ISIS拡大阻止を掲げてイスラム原理主義勢力タリバンと協力しているという報告もある。

ロシアのメッセージも明確になりつつある。テロリストになりたければロシアのテロリストになるべきだ。ただし、ロシア国外で――。



ロシアは自国民を移住させて兵器に仕立てる。情報を武器にし、欧米諸国のソーシャルメディアで情報戦争を仕掛ける。目を付けた特定の世代を孤立させ、取り込み、ロシアの目的にかなう大義に向かわせる。

悲惨なテロ事件が起きても、「対テロの協力態勢をより強固に」というロシアの声がむなしく響くのはこのためだ。アメリカはテロ組織を戦争の道具と考える国と共にテロと戦えるのか。

ロシアは核兵器に対する方針を変え、「通常兵器の1つ」と位置付けた。これに加え、テロリストを巧妙に利用するやり方を見れば、欧米との戦争で必要とあれば、どんな手段でも取ろうとしていることが分かる。

【参考記事】ロシアテロ、寿司バーで働いていた容疑者の被差別人生

一連の手法が生まれたのは、交渉力を高めるためだ。ロシアは経済力や世界への影響力を失ったが、悪役を演じることで有利な取引をしようとしている。

先週の地下鉄テロは悲劇だった。だが国外のテロ組織との結び付きについて、プーチンは説明すべきだ。

国営テレビが伝えるロシア政府のテロとの戦いの決意は完璧だったが、その裏にある真実に目を向けなくてはならない。

From Foreign Policy Magazine

[2017年4月18日号掲載]

モリー・マッキュー

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