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25日に何も起こらなくても、北朝鮮「核危機」は再発する

ニューズウィーク日本版 2017年4月24日 13時5分

<米国も北朝鮮も強硬姿勢を見せ、緊張が高まっているが、現時点では両者とも決定的な局面に突入するつもりはないように思える。しかし、それで北朝鮮クライシスは終わらない。負の連鎖を断ち切るために必要なのは――>

明日4月25日は、北朝鮮の朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の85周年だ。ドナルド・トランプ米大統領が北朝鮮に対する軍事的圧力を強める中で迎える記念日だけに、金正恩体制の出方に注目が集まっている。両者の本気度が試されるなか、双方になんらかの判断ミスが生じれば、一気に最悪の事態に突入する可能性もある。

米国が北朝鮮を攻撃すれば日韓の被害は避けられない

北朝鮮に対する先制攻撃を示唆しながら圧力を強める米国に対して、北朝鮮も強硬姿勢で対応している。

15日に行われた金日成生誕105周年を祝う軍事パレードで、金正恩朝鮮労働党委員長の側近中の側近である崔龍海(チェ・リョンヘ)は、「米国が無謀な挑発をしかけるなら、朝鮮革命武力は即時、せん滅的な打撃を加え、全面戦争には全面戦争で、核戦争には朝鮮式の核打撃戦で対応する」と述べた。さらに、軍事パレードの翌日(16日)には、中距離弾道ミサイルの発射を強行した。

アメリカのNBCテレビは、トランプ政権の複数の高官が「北朝鮮が核実験を行うと確信すれば先制攻撃する用意がある」と話したと伝えた。さらに軍事パレードの前には、原子力空母カール・ビンソンが朝鮮半島に派遣されるという情報が流れていた。

本稿執筆時点では、両者のにらみ合いが続いている状況だが、北朝鮮軍創建日を前に、まさに今日にでも金正恩が核実験を強行すれば、緊張状態はレッド・ラインに一気に近づく。

(参考記事:米軍の「先制攻撃」を予言!? 金正恩氏が恐れる「影のCIA」報告書)

こうした中、トランプが24日午前に、安倍晋三首相、中国の習近平国家主席とそれぞれ緊急の電話会談を行うと明らかにした。緊迫化する北朝鮮情勢について協議する見通しだという。電話会談で何が話されるのかは気になるところだ。とはいえ、先制攻撃も辞さない姿勢で臨んでいたトランプに対して、ここに来て「本当に攻撃できるのだろうか」という疑問も出つつある。

トランプの本気度を示す一つの根拠が、シリアへの攻撃だろう。アサド政権が化学兵器を使用したとしてシリアをミサイル攻撃したことにより、彼が主張する「力による平和」を世界に見せつけた。彼なら北朝鮮に対しても攻撃しかねないというイメージを植え付けた。一方、北朝鮮は相変わらず核・ミサイルを放棄する姿勢を一切見せていない。

しかし、筆者はよほどのことがないかぎり、「トランプは北朝鮮を先制攻撃できないだろう」という見方を示していた。その最大の理由は北朝鮮が「核保有国」だからだ。

北朝鮮は、米国を直接攻撃できるような核ミサイルを保有していないと見られている。ただし、5回の核実験を通じて核爆弾を持っていることはほぼ間違いない。核兵器も核関連施設についても全てが解明しているわけではない。



もし米国が北朝鮮を攻撃すれば、周辺国に甚大な被害が生じることは避けられない。同盟国である日本と韓国が核の報復を受ける可能性が大きくなる。

核の報復でなくとも、とくに韓国は通常火力による被害は避けられない。もちろん在日韓米軍、そして韓国に在住する15万人、日本に在住する5万人以上もの米国人が北朝鮮の脅威にさらされる。北朝鮮を攻撃することはシリアへの攻撃よりも、はるかにリスクが高いのである。

現時点で、両国に在住する米国人を避難させるような動きは見せていないことから、米国がいきなり北朝鮮を攻撃するのは現実的ではないと見られる。ただし、ここで厄介なのは、金正恩の側にもトランプは攻撃してこないだろうという目算があったと見られることだ。

13日、金正恩は平壌市内の高層マンション群「黎明(リョミョン)通り」の竣工式に現れた。こうした場に金正恩が現れるのは極めて異例だ。海外メディアを気にしたのか、それとも自分に対する攻撃に不安があったのか、落ち着きがなかったものの、15日には軍事パレードのひな壇で、最初から終わりまで軍事パレードを鑑賞した。

攻撃されるかもしれないという状況のなかで衆前に姿を現したということは、米国の攻撃はないと見ていたのか。それとも、米国を含む外国メディアが大挙押し寄せているなかで、攻撃できるものならしてみよという捨て身の姿勢なのか。

金正日時代と今では「核戦略」に大きな違いがある

トランプと金正恩の姿勢をつぶさに見ていると、両者は決定的な局面に突入するつもりはないように思える。現状では、一時的に緊張は高まっているが、しばらく経つと、何事もなかったかのように通常の対立関係にもどる可能性が高い。

2013年に北朝鮮がいきなり休戦協定の白紙を宣言した時は、今回以上に緊張したが、しばらく過ぎると南北も米朝も通常どおり(緊張状態だが)にもどったのだ。

ただし、両者が判断ミスをすれば、事態が急展開する可能性は捨てきれない。例えば、トランプが軍事的圧力を強めれば強めるほど北朝鮮の態度は軟化すると思い込んで、このまま強め続ける。また、金正恩があくまでもトランプの圧力はブラフと見越して、核実験や長距離弾道ミサイルの発射実験を強行する──となると、両者共々、引き際を見誤り、緊張状態がエスカレートして、思わぬ展開に突入するかもしれない。または、偶発的な小規模な衝突が、状況悪化に拍車をかけるかもしれない。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士...北朝鮮の地雷が爆発する瞬間)

また、この緊張状態が解けたとしても、問題が解決したわけではない。金正恩は25日前後の核実験やミサイル発射を見送ったとしても、遅かれ早かれ強行し、核武装国家に向けて着々と進んでいくだろう。その時、トランプは今回のように軍事的圧力をかけられるのだろうか。



なによりも今回の事態を通じて、金正恩が「やっぱり米国は攻めてこられない」という自信を深めるかもしれない。

金正日時代と金正恩時代における核戦略には大きな違いがある。父・金正日は、見返りがあれば核とミサイルを放棄することを想定していただろう。しかし、金正恩は米国を攻撃可能な「核武装国家」を目指している。核弾頭を搭載し、米本土に着弾可能な核ミサイルが完成すれば、今以上に米国は北朝鮮に手出しできなくなる。そうなれば、金正恩体制が続く限り、北朝鮮は日本に対して脅威を与え続ける国家となりうる。

断言するが、金正恩が核武装国を目指す限り、同じ事態は来年、または数年後に再発するだろう。そして、時が経てば経つほど金正恩にとって有利な環境が作られていく。この負の連鎖を断ち切るためには、理想論かもしれないが、金正恩体制が変革するしかない。

北朝鮮は、頂点に立つ指導者が全てを決定するという超独裁国家である。その姿勢を変えるためには、内部からの変革の要求とそれをサポートする外部からの働きかけが必要だ。

現在も、北朝鮮の民主化を目指す韓国の複数のNGOが、この命題に果敢にチャレンジしている。北朝鮮民衆の意識変化を促すために、硬軟織り交ぜた情報を北朝鮮国内へ流入させるなどの情報戦も展開している。その結果、多くの北朝鮮国民が海外の情報に接しながら、金正恩体制が極めてマズい方向へ進んでいるということをうすうす感じつつある。

(参考記事:「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民のキツい本音)

しかし、その意識変化が政治的な動きへ発展するにはまだまだ時間がかかるだろう。こうした動きに周辺国、とりわけ日米韓が本気で取り組むことができるのか。それとも何年かに一度のサイクルで発生する北朝鮮クライシスを甘んじて受け入れるのか。

国際社会、とりわけ日本、米国、そして韓国は、時が経てば経つほど、ソフト・ランディングの可能性が低くなっている状況を冷静に認める時が来ている。そのうえで、脅威であり続ける北朝鮮にどう対峙するのか、本気で考えなければならない。

【ニューストピックス】朝鮮半島 危機の構図

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。


高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)

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