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透明性に大きな懸念、情報を隠すトランプのホワイトハウス

ニューズウィーク日本版 2017年4月24日 20時55分

<1月のトランプ政権発足以来、ホワイトハウスは外部からの情報開示請求や問い合わせを無視するようになった。透明性の低さは途上国並みだ>

先週金曜、米議会で予算が成立せず4月28日にも政府機関が閉鎖に追い込まれる可能性を問われたドナルド・トランプ米大統領は、いつものトランプ節で質問を軽くあしらった。「万事、順調だ」

だが言葉とは裏腹に、ホワイトハウスは現代アメリカでも最も深い闇に覆われつつある。

米政府は4月中旬、トランプ大統領や政府高官をホワイトハウスに訪ねた人の記録を非公開にすると決定した。オバマ前政権では例外的な場合を除いて公開しており、ジャーナリストや市民がホワイトハウスの内情を知る手がかりになっていた。

それだけではない。ホワイトハウスの情報隠しは米議会にも及んでいる。トランプが大統領に就任した1月以降、ホワイトハウスと連邦政府機関は、議会から寄せられた200件以上の情報開示請求を放置している。その内容は核戦力の近代化からトランプがフロリダ州に所有する豪邸「マール・ア・ラーゴ」の警備、通信網の不備など公共の安全に関わる問題、トランプの長女で政権入りしたイバンカ・トランプや、ロシアとの不適切な関係が明らかになったジェフ・セッションズ司法長官の倫理規定違反をめぐるFBI(連邦捜査局)の捜査に関することまで、ありとあらゆる事案を含む。

メディアも議会も締め出す

トランプ政権の最初の数カ月だけでも、情報公開を阻害したりジャーナリストを目の敵にした事例は数知れない。政府機関に電話をしても返事はない。EPA(環境保護局)であれ教育省であれ、メディアからの問い合わせに対応するはずの職員がそもそもいないからだ。

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上下両院の民主党議員らは、政府機関から回答が得られなかった質問状を公にしている。質問の宛先はEPAやFBI、大統領のシークレットサービス、労働省、国家安全保障省、教育省、内務省など多岐に渡る。ホワイトハウス自身も情報公開を求められて回答しなかったものが数十件ある。

「トランプ政権は我々の問い合わせに応じず、外部の関係者を締め出す傾向を強めている」と危惧するのは、ジョン・サーベンス下院議員(メリーランド州、民主党)だ。「政権の上層部からの指示があったから、職員が意識的に質問を無視しているのかどうかは分からない。だが現状を見る限り、政府機関はまるでドアに鍵をかけて窓のブラインドを下ろすかのごとく、外部を締め出している」

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3月半ばまでに、政府機関とホワイトハウスは、個人や下院民主党からの手紙100通を無視している。また上院民主党の情報通信委員会は、3月下旬までに上院議員がトランプや政府高官に送った手紙で回答がなかった147通を本誌に開示した。

なかには国家の安全保障を左右する重要な質問もある。代表格は、民主党上院議員のダイアン・ファインスタイン(カリフォルニア州)とロン・ワイデン(オレゴン州)が連名で2月27日にジェームズ・マティス国防長官に送った、国防科学委員会が提案した新型核兵器の開発や核実験再開への反対を訴える書簡だ。



政権側が放置している質問の多くは、トランプや側近らの透明性を疑問視する内容のもの。民主党の上院議員8人は3月6日付けで、ホワイトハウスとマール・ア・ラーゴの訪問者の記録を公表するよう求めたがかなわなかった。トランプ本人をはじめとする政権関係者の利益相反疑惑についての質問もあった。

公共の安全やサービスなど日常的な問題を取り上げた書簡も同じ憂き目を見ている。例えば3月22日に民主党のエイミー・クロブシャー上院議員(ミネソタ州)が連邦通信委員会(FCC)のアジト・パイ委員長に宛てた質問書は、緊急通報用の電話番号「911」が携帯電話で不通になった問題についての情報と、今後同様の事態が起きるのを防ぐための改善策を求める内容だった。カリフォルニア州選出の下院議員らが3月、暴風雨で壊滅的な被害を受けた同州の一部地域を対象に非常事態宣言を発令するようトランプに要求した。だがいずれも政権側から回答はなかった。

政府機関に電話をしても応答がなく、担当者として責任をもつ職員もいないというまるで発展途上国のような光景で、現代のアメリカでは前例がない。だが前兆はあった。トランプの側近で極右のスティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問はかねてから、レーガン流に政府の機能を縮小するだけでなく、「行政国家の解体」を政権の優先課題に掲げていた。

バノンは2月下旬に首都ワシントン近郊で行われた「保守政治活動会議」の全米大会に登壇すると、トランプはその目標を推進できる閣僚を厳選して組閣したのだと誇らしげに語った。「閣僚候補の顔触れを見れば、理由あって選出されたことが一目瞭然だ。そしてその理由とは、解体だ」

能力不足ではなく故意

バノンのようなイデオロギーがない場合でも、トランプやニューヨークの著名投資家カール・アイカーンのような富裕なトランプ支持者らは、政府の活動を自分たちのビジネスに対する素人的な介入とみなし、憎悪してきたという共通点がある。

これまでも政権交代があれば、政府機関の混乱や対応の遅れが生じるのはいつものことだ。オバマ前政権も、発足して最初の数カ月は、議会からの手紙への回答が遅れることも時々あった。だがトランプ政権の対応の遅れは度を越しており、原因は職務能力や経験の不足というより、むしろ故意ではないかと疑われる。

「どんな政権でも、あからさまに政治的動機の文書が送られてきたと感じれば、最初は自己防衛的になるだろう」と、サーベンスは言う。「だが我々が調べた未回答の質問には、ごく一般的な有権者の問い合わせも含まれていた。それこそが政権側に協力姿勢がないと感じる理由だ。透明性欠如の背景には、何らかの組織的な意図があると思えてならない。政権や政府機関を乗っ取ってやろうという集団的な意思が幅を利かせつつある」

ニナ・バーレイ

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