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大胆不敵なトランプ税制改革案、成否を分ける6つのファクター - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年4月27日 15時40分

<法人税の大幅引き下げや所得税の簡素化など、かなり大胆な税制改革を提案したトランプ。もし成功すれば「名大統領」という称賛も得られるが>

トランプ政権は、今週末29日に就任100日を迎えますが、支持率は41%前後と低空飛行が続いています。そんな今週、思い切った税制改正案を発表しました。アメリカでは、大統領本人が確定申告書を公開していないのに税制改革を提案する資格はないという批判も出ていますが、それはともかく、中身を見ると何とも大胆不敵な提案です。

まず連邦(国の)法人税率ですが、現在の最高35%から最高15%へ減税するという思い切った提案がされています。ストーリーとしては、企業にアメリカ回帰を促す正攻法ということになります。税収減の問題に関しては、将来の経済成長を見込むということですが、果たして「最終的に内需も国内生産も拡大して財政的にニュートラル」な水準まで経済状況を持って行けるかどうか、非常に気になります。

ちなみに、ムニューチン財務長官によれば、多国籍企業が国外で溜め込んでいる何兆ドルというカネに対しては、米国企業の海外資産課税というのを「一回だけ発動」する計画をしているそうで、こちらの詳細は後日「最も効果的な税率」を決めて発表するとしています。

一方で、連邦の個人所得税では基礎控除を倍増することで、夫婦合算申告の場合、年収2万4000ドルまでは無税、税率も3段階で最高は35%となります。その代わり、州税も市町村税(固定資産税が主)は連邦税の控除から外すなど、細かな税額控除は住宅ローン金利と寄付金以外かなりバッサリと切り、こちらも思い切った簡素化になります。また相続税に関しては制度そのものを廃止するとしています。

【参考記事】米株急落、トランプ手腕を疑問視し始めたウォール街

これは大胆不敵、ギャンブル性(税収減から財源状況が悪化する)の高い税制改革としか言いようがありません。成功すれば名大統領に、失敗すれば一気に支持率低下は免れません。政治的にもギャンブルです。というのは、6つのファクターが絡んでくるからです。

一つ目は議会です。議会共和党は、その多くのメンバーが財政規律の実現を最優先の政策に掲げています。その良い例が2010年からの「ティーパーティー運動」であり、彼らの関心の核にあるのは財政再建でした。その議会が、これほどまでにギャンブル性が高く、失敗すれば財政悪化に直結するような法案を通すかどうか、全てはこれからの駆け引きにかかってきます。

ライアン下院議長は「(簡素化と経済成長など)目指すものは我々と一致する。基本的には歓迎("We see this as a good thing.")と非常に微妙なコメントを出していますが、全てはこれからです。



二つ目は景気です。大胆な案ですが、経済成長が着実に進めば成功する可能性はあります。しかし景気が悪化すれば税収の落ち込みは激しくなり、財政出動の余力も落ちて大変なことになります。現在のアメリカはオバマ以来の好景気が続いていますが、これが仮に調整局面に入るとして、どの程度になるかは今回の案の成否を左右する重要なファクターです。

三つ目は地政学的なリスクです。景気は循環して自然に悪化するだけでなく、地政学的なリスクでも大きく足を引っ張られます。このような大胆な財政改革を成功させるには、基本的には「平和な世界」というのが前提条件になるわけで、反対に国際社会に紛争リスクが高まるようですと成功は難しくなります。

四つ目はFRB(連邦準備制度理事会)の動きです。仮に景気の勢いが弱くなっているのに利上げを行えば、一気に市場は調整へと向かい、実体経済にもマイナスの影響が出ます。その一方で、過熱感があれば引き締めが必要で、現在は非常に判断の難しい状況に入っています。例えばですが、多少の副作用があっても、思い切った利上げをする判断があって、それで短期的に市場や実体経済が「引き締められて」しまうと、今回の税制改革の導入は難しくなります。

【参考記事】透明性に大きな懸念、情報を隠すトランプのホワイトハウス

五つ目は市場の動きです。市場の税制への反応というのは、これら多くのファクターを反映したものとなるわけで、今回の改正案に対して最終的には市場が信認するかどうかが、大きな判断要素になると思います。NY市場は小幅な下げとなりましたが、これは議会での審議が難航しそうだという観測を織り込んだものです。今後の動向を注視しなければなりません。

六つ目は世論です。今回の税制改革は「非常に簡素化された分かりやすい」ものですが、おそらく「全ての納税者に影響がある」ものです。当然、不利益を被る人も出てきます。その点で、あえて「全納税者に関心を持ってもらう」という一種の「世論への挑戦状」を突きつけた格好にもなっています。アメリカは成人した住民のほぼ100%が確定申告をする納税意識の高い社会ですが、その世論が果たして納得するのか、そこが一番のポイントになります。

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