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ノルウェーの極右ポピュリスト政党は政権の座を維持できるか

ニューズウィーク日本版 2017年5月13日 10時0分

<厳しい移民・難民政策を訴える進歩党が歴史的な政権入りを果たして4年、ノルウェーは9月に総選挙を迎える。果たしてどんな評価が下されるのか>

オランダやフランスの選挙で極右政党が敗退して話題になったが、ノルウェーでは2013年の国政選挙ですでに右翼ポピュリスト政党「進歩党(FrP)」が連立政権に参加している。

5月5~7日、進歩党は年に一度の大事な総会をオスロ郊外で開催した。ノルウェーの各政党はこの時期に総会を開催。全国各地の代表たちが、多数決で党の新たな政策やリーダーを決めていく。そして今年の場合は9月の国政選挙へ向け、本格的な選挙運動がスタートする。


進歩党の総会。党のシンボルマークのリンゴは「知恵」を意味する Photo:Asaki Abumi

ノルウェー政治の歴史的転換点

今回の選挙で注目されているのは、進歩党が政権の座に座り続けられるかどうかだ。移民や難民に厳しいことで知られる進歩党は、第三政党として支持を集めている。

ノルウェーでは社会主義的で寛容な政策が長く浸透してきた。異色の進歩党は他政党から距離を置かれ、支持率は高くとも、連立政権や閣外協力という形は過去実現することはなかった。

だからこそ、2013年の進歩党の政権入りは、ノルウェーの政治の歴史において大きな転換点となるものだった。

ノルウェーの報道陣の間でも、編集者や記者に、進歩党支持者がほぼいないことはこれまでの調査で何度も明らかになっている。右派系メディアがほとんどないこともあって、報道傾向は進歩党により批判的だ。結果、進歩党支持者は伝統メディアへから離れ、Facebookの党員ページへ流出している(この党はTwitterは好まない)。

総会会場の廊下に掲げられた巨大ポスター「ブルカとニカブ反対」 Photo:Asaki Abumi

進歩党は、あえて論争となるような極端な言動やメディア演出を好み、他党やその支持層と対立しやすい。

「国内での分断や軋轢をうみだす党」、「ムスリムだけではなく、外国人全体を異端者として危険視するマイナスな傾向を強める党」、「お金持ちの味方で、格差問題を悪化させる党」などとして嫌がられやすい。

一方、「移民や難民の増加が不安」、「北欧の福祉制度が悪用されているのでは」と正直に発言すると、「人種差別者」と誤解される傾向もあることから、「支持者とは公言しないが、こっそりと投票する」=「隠れ支持者」も多い。

進歩党は厳しい移民・難民政策だけではなく、減税、国家公務員の削減、防衛強化や警察官の増員などの政策でも知られている。

筆者が進歩党を取材していると、「イスラム教徒などの文化が異なりすぎる一部の移民を問題視しているのであり、日本人やアメリカ人などを指しているわけではないよ」と党員に言われることがある。とはいえ、そのことがメディアなどの公の場で明示されることはなく、進歩党の言論の拡大はその国に住む外国人全体にじんわりと影響があるであろうことは否定できない。



北欧と言えば「環境政策に熱心な国」という綺麗なイメージが国際的には浸透しているが、ノルウェーは石油・ガス資源のおかげで成り立っている。それは同時に、「石油発掘=排出ガス増加=環境破壊を招く国内の最大要因」を意味する。「石油エネルギーからグリーンなエネルギーへシフト」という議論が以前から続いているが、現実と理想の距離は大きい。

進歩党には、「温暖化はそもそも人間が原因なのか」という温暖化懐疑論者が多く、「石油はこれからも、どんどん掘っていこう!」という政党だ。

温暖化対策より渋滞解消を重視「さらに多くの道路を!」 Photo:Asaki Abumi

同時に、「車の運転手の味方」としても人気がある。通行料金やガソリン料金の減税などを提言。「車をオスロ中心部からなくそう」という「緑の環境党MDG」とはまさに両極にあり、互いを毛嫌いしている。

進歩党の支持率はある程度一定している。特に、シルヴィ・リストハウグ移民・社会統合大臣は、移民や難民に厳しい言動で物議を醸す一方、5月8日の世論調査では国民の約半数の49%がその移民政策を支持した(Dagsavisen紙依頼によるIpsos調査)。

ノルウェーの国境の番人として、厳しい政策を打ち出すリストハウグ移民・社会統合大臣 Photo:Asaki Abumi

つまり、進歩党の次期党首候補であり、「党のプリンセス」といわれるリストハウグ大臣のポピュリスト政策が大きく支持されていることになる。同時に、45%は不支持を表明し、国論は二分している。

ポピュリスト政党が政権で影響力を持つとどうなるのだろう。

進歩党は与党となって以降、他党と連立し、政策の一部では妥協しなければならなくなった。有料道路の料金は上がり、国家公務員の数が約千人も増加したことなど、公約破りも大きく批判されている。「期待していたほどではなかった」と、がっかりした有権者が、他党に逃げる傾向もある。

責任ある与党という立場になることで、これまで過激だった発言はトーンダウンした。リストハウグ移民・社会統合大臣を除いて、他の進歩党閣僚たちの言動は明らかに以前より過激でなくなっている。もし、今年の選挙結果次第で野党となった場合は、遠慮のない「進歩党節」が復活するだろう。

他党から嫌がられる傾向にある進歩党だが、アーナ・ソールバルグ首相率いる連立相手の保守党は、進歩党との協力体制の継続を望んでいる。



ノルウェーは政権交代が頻繁に起こる国だ。今年の選挙で与党入りできなかった場合、ポピュリスト政党はノルウェーでは成功できず、左派陣営が勝った、ということになる。

同時に、報道陣や小政党が指摘しているのは、「左派政権になっても、ポピュリスト政党が必要になる」ということだ。左派ポピュリスト政党の>「中央党(Sp)」は様々な要素が絡み、大きく支持率を伸ばしている。最大政党「労働党(Ap)」との連立政権となる可能性が高い。

中央党はもともと「農民の味方」といわれている愛国主義が強い党だ。農産物をはじめとして、なによりも「国産」を好む。環境政策に強くこだわらない党員もおり、留学生など外国人の支援には消極的だ。首都中心の政策を嫌い、地方に住む人々を味方につける。「実は、隠れポピュリスト政党だ」と昨年から警報が鳴らされているのだ。筆者も、中央党に関しては、「たまに進歩党みたいなことを言うな」と不思議な感触を以前から覚えていた。

「実はポピュリスト」と言われ始めた中央党のヴェドゥム党首。特徴的な笑い方が有名で人望があり、報道陣からの好感度は高い Photo:Asaki Abumi

移民に寛容なイメージが強い左派・労働党も、「我々の移民政策は進歩党とほとんど変わらない。違うのは、移民や難民に対する表現方法だ。我々はあのような言い方はしない」と主張している。意外かもしれないが、移民政策の方針が実は大きく変わらないのは本当だ。「労働党のほうが、まし」という戦略で有権者を説得する。

「ノルウェー・ファースト」、「我々にも進歩党のような厳しい移民政策が可能だ」と主張する傾向が強まりつつあるノルウェーの各政党。進歩党は、少しずつ他党に影響を与えているようだ。今年の選挙の行方が注目される。Photo&Text: Asaki Abumi


[執筆者]
鐙麻樹(ノルウェー在住 ジャーナリスト&写真家)
オスロ在住ジャーナリスト、フォトグラファー。上智大学フランス語学科08年卒業。オスロ大学でメディア学学士号、同大学大学院でメディア学修士号修得(副専攻:ジェンダー平等学)。日本のメディア向けに取材、撮影、執筆を行う。ノルウェー政治・選挙、若者の政治参加、観光、文化、暮らしなどの情報を数々の媒体に寄稿。オーストラリア、フランスにも滞在経歴があり、英語、フランス語、ノルウェー語、スウェーデン語、デンマーク語で取材をこなす。海外ニュース翻訳・リサーチ、通訳業務など幅広く活動。『ことりっぷ海外版 北欧』オスロ担当、「地球の歩き方 オスロ特派員ブログ」、「All Aboutノルウェーガイド」でも連載中。記事および写真についてのお問い合わせはこちらへ


鐙麻樹(ノルウェー在住ジャーナリスト&写真家)

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