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レイプ事件を届け出る日本の被害者は氷山の一角

ニューズウィーク日本版 2017年5月25日 16時10分

<日本の強姦事件の発生率は各国比では極端に低いが、実際にはその20倍以上の事件が発生していると推測される。被害者の届け出を阻んでいるのは家族による犯行だ>

2012年12月にインドで起きた集団強姦事件の被告4人に対し、死刑判決が下った。この事件をきっかけにインドだけでなく世界中で性犯罪の厳罰化を求める声が高まっている。

強姦は殺人・強盗・放火と並ぶ凶悪犯だが、2013年に日本で起きた強姦事件は1409件とされている(警察庁『犯罪統計書』)。これは警察に届けられ、公的に認知された事件の数だ。人口10万人あたりにすると1.1件になる。

この数値は日本の強姦事件の発生率として、国際統計にもなっている。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の資料から2013年の主要国の数値を取り出し、グラフにすると<図1>のようになる。



スウェーデンが58.5と飛び抜けて高く、日本が最も低い。意外というか、強姦事件が多発しているイメージがあるインドも、日本と同じくらい低くなっている。

しかし、この統計を額面通りに受け取ることはできない。これは警察に被害届が出され、公的に認知されて記録された事件の数だ。被害に遭っても、恐怖心や羞恥心などから警察に届け出ない女性もいる。公にならずに闇に葬られた事件はかなりあるだろう。いわゆる「暗数」という実態だ。日本やインドでは、それが特に多いと考えられる。

【参考記事】レイプ事件を隠ぺいした大学町が問いかけるアメリカの良心

2012年1月に法務総合研究所が実施した犯罪被害調査によると、16歳以上の女性の強姦被害経験率(過去5年間)は0.27%で、同年齢の女性人口にこの比率を乗じると15万3438人となる。これは実際の被害女性の推計数だが、2007~2011年の5年間に認知された強姦事件数(7257件)よりはるかに多い。

警察統計は、被害女性の推定数の4.7%ほどしか拾えていない。飛躍を覚悟で言えば、公的統計の背後には約21倍の暗数があると推測される。インドでは、この乖離がもっと大きいのではないだろうか。

上述のように、被害を訴えるのをためらう女性が多い。男性の警察官に事件当時のことを根掘り葉掘り聞かれる「セカンド・レイプ」もその原因なっていると見られている。



ところで、強姦事件の加害者の内訳を警察統計と被害女性の申告で比べると、どういう事件が闇に葬られやすいかが見えてくる。<図2>は、2014年中に警察に検挙された事件(1029件)と、被害女性117人の申告を対比させたものだ。



両者では内訳がかなり違う。警察統計では「知らない人」が半数を占めるが、被害女性の申告では1割しかいない。被害女性の声によると、家族・親戚や知人が警察統計よりもだいぶ多くなっている。家族の名誉を重んじる日本では、家族の犯行は公になりにくい。

【参考記事】インドの性犯罪者が野放しになる訳

家族という「私」の領域に、公が介入するのは望ましい事ではないが、野放しでもいけない。統計には表れにくい家族の病理に対し、社会は絶えず注意を払わなければならない。

<図1>をもう一度見ると、スウェーデンでは強姦事件の発生率(正確には認知率)が飛び抜けて高い。女性が被害届を出しやすい環境が整っているのだろう。国家機関として犯罪被害者庁があり、警察官の女性比率も3割と日本(7.2%)よりずっと高い(2013年)。

日本の犯罪捜査の問題点は明らかだ。


<資料:UNODC「Crime and criminal justice statistics」、
    法務省『第4回犯罪被害者実態(暗数)調査』(2013年)、
    警察庁『犯罪統計書』、
    内閣府『男女間における暴力に関する調査』(2014年度)>

舞田敏彦(教育社会学者)

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