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トランプがドゥテルテに明かした、北朝鮮核ミサイル開発への本音

ニューズウィーク日本版 2017年5月30日 14時30分

<最近明らかになったトランプとドゥテルテの電話会談の中身からは、北朝鮮がいずれ核兵器を保有するだろうとアメリカが見越していると同時に、まだ切迫した危機感を持っていないことが窺える>

北朝鮮は5月29日の午前5時40分ごろ、北朝鮮東岸のウォンサン付近から短距離ミサイル「スカッド」と見られるミサイルを発射した。ミサイルは6分ほど飛行した後に、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したようだ。

今回のミサイル発射は、先進7カ国首脳会議(G7サミット)が終了し、北朝鮮問題について首脳宣言で「新たな段階の脅威」と明記したすぐ後のことだった。毎度のことだが、国際的な動きの後にミサイル発射などで世界の出方を探る行動と見ていいだろう。

日本政府は激しく反発しているが、ドナルド・トランプ米大統領は、ミサイル発射のすぐ後から何度かツイートをアップしているものの、北朝鮮問題に一切触れていない。

トランプは初外遊となる中東や欧州を9日間で回り、G7を終えて5月27日の夜にアメリカへ帰国したばかりだ。大きな失態なく帰国したトランプだが、実は外遊に出る前に、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領と電話会談を行ったことがニュースになっていた。

というのも、ドゥテルテはその言動で「フィリピンのトランプ」などと揶揄されたこともあり、麻薬戦争で超法規的に殺人を行なっているとして国際的な批判を受けているからだ。

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最近、その両者の電話会談の詳細がフィリピン政府側から流出し、関係者の間で話題になっている。

会談が行われたのは4月29日で、5月23日に米ワシントン・ポスト紙が会話記録を入手して報じた。そこでトランプは、北朝鮮のミサイル開発について触れている。お互いを"仲間"と見ているトランプとドゥテルテの会話なだけに、トランプの「本音」が垣間見られる。

一体どんなやりとりだったのか。

トランプはまず、ドゥテルテの「殺人行為」を賞賛する。「あなたが麻薬問題で信じられないほど素晴らしい仕事をしていることを耳にして、おめでとうと言いたかった。多くの国が同じ問題を抱え、私たちもそうだ。だけど、君は素晴らしい仕事ぶりなので、電話して伝えたかった」とトランプは言う。



そして話は北朝鮮問題に。トランプがドゥテルテに、金正恩・朝鮮労働党委員長をどう見ているのかと聞くと、「安定はしていないですね、大統領閣下。ロケットが爆発する際も笑顔でいるでしょう。しかも、彼をたしなめるべき最後の国である中国にも楯突いている。彼の顔はいつも笑っているが、彼は人類すべてに多大な苦痛や苦しみを与える非常に危険な"おもちゃ"を手にしているんですよ」とドゥテルテは答える。

これを受けて、トランプはミサイル開発に言及する。「彼は爆薬を持っていても、それを発射する装置は持っていない。ロケットはすべて爆発している。素晴らしい知らせだよ」

トランプは続ける。「ただ最終的には発射装置を手にすることになるだろう」

米政府は2014年までに北朝鮮の核開発は止められないと認識し、その後はミサイル開発を阻止しようとしてきたが、電話会談のトランプ発言からはミサイル開発ももう既定路線にあり、米政府も止められないところに来ていると考えられる。北朝鮮が発射装置を手に入れると認めているからだ。

米政府はサイバー攻撃で北朝鮮のミサイル発射を妨害しているとの話も出ている。もちろんすべての失敗がサイバー攻撃によるものではないだろうが、ミサイル開発を遅らせる妨害作戦に乗り出している(いた)ことは十分に考えられる。

それでも、もう北朝鮮のミサイル開発は止められないところにまで来ているということなのだろう。トランプがいちいちミサイル発射にツイッターで反応しないことからも、それは分かる。

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そして中国に期待していると、トランプは語る。「中国が問題を解決してくれることを望んでいる。彼ら(北朝鮮)は多くのものを中国から入手しているので、中国は解決する手段を持っている。中国も(北朝鮮から)電話を受けない、というようなことをしている。ただ中国がやらないなら、われわれがやるまでだ」

そしてこうも述べている。「核兵器を持ったイカれた奴に、あんなふうに好き勝手させるわけにはいかない。われわれは、北朝鮮の20倍の火力を持っている。使いたくはないが......」

ドゥテルテは最後に「ASEAN(東南アジア諸国連合)のメンバーに会談内容を伝える」と述べ、こう確認する。「私たちは皆、平和を望んでいて、そこに秘密は何もない、ということで」。これに「GOOD」と返答したトランプだが、これが北朝鮮に対して武力行使は考えていないという意味なのかどうかは分からない。

とにかく日本をはじめとする北朝鮮の周辺国とは違って、トランプにあまり切迫した危機感がないことは確かなようだ。

山田敏弘(ジャーナリスト)

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