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ラマダン中の「全面戦争」をISISが宣言した

ニューズウィーク日本版 2017年6月1日 10時0分

<昨年の断食月には欧米で大規模テロが続発。イギリスは警戒レベルを最高度に引き上げた>

テロ組織ISIS(自称イスラム国)が先週末のラマダン(断食月)開始に合わせ、欧米との「全面戦争」を呼び掛けた。彼らは数日前、死者22人を出したマンチェスター自爆テロ事件の犯行声明を出したばかりだ。

昨年8月に米軍の空爆で殺害されたISISの報道官アブ・ムハンマド・アル・アドナニも過去2年間、同様の呼び掛けを行っていた。ただし、今年のメッセージが後任のアブ・ハサン・アル・ムハジルのものかどうかははっきりしない。

暗号化メッセージアプリ「テレグラム」を使って配信されたアラビア語の音声ファイルは、ISISの「兵士たち」に「家、市場、道路、広場」への攻撃を呼び掛けている。「民間人を標的にすることはわれわれの好むやり方であり、最も効果的だ。諸君が大いなるラマダンの報酬を手に入れることを願う」

今回のメッセージもこれまでと同様、イラクとシリアのISIS支配地域以外での攻撃を要求している。イギリスの軍事情報サービス「IHSコンフリクトモニター」によると、ISISの支配地域は昨年12月の時点で約6万400平方キロ。同年1月の約7万8000平方キロからさらに減少している。

過去の例では、実際にメッセージが出た後、欧米でラマダン期間中のテロ攻撃が相次いだ。アドナニは昨年、ラマダンを「征服とジハード(聖戦)の月」と呼び、国外の支持者にイラクとシリアへの渡航を試みる代わりに、自国で攻撃を実行するよう呼び掛けた。

【参考記事】フィリピンが東南アジアにおけるISISの拠点になる?

「本国」では劣勢が続くが

「ISISはジハードを最も尊いイスラム教徒の行為の1つと見なしている。そのため、ラマダンの重要性がさらに増す」と、ロンドンに拠点を置く対過激派専門のシンクタンク、戦略対話研究所のアマーナス・アマラジンガム上級研究員は言う。「ラマダン中の攻撃は、来世の報酬が特に大きいと考えられている。それがラマダン中にテロ攻撃が増える理由の1つだ」



昨年のラマダン期間中、ISISの支持者は米フロリダ州オーランド(死者49人)、フランスのニース(同86人)、バングラデシュのダッカ(同22人)、トルコのイスタンブール(同41人)、イラクのバグダッド(同323人)で大規模なテロ事件を起こした。

フランス北部のルーアン近郊で2人の男がキリスト教の司祭を刃物で殺害した事件も、ラマダン中に発生した。ISISのオンライン週刊誌アルナバは、この期間に500人以上を殺害したとして成果を誇った。

欧米とアラブ諸国の有志連合は、イラクとシリアの両方でISISを軍事的に追い詰めている。今もISISの支配下にあるシリアの主要都市はパルミラとラッカのみ。イラクでは第2の都市モスルの一部を押さえているだけだ。しかも米軍当局者によれば、夏の終わりにはラッカとモスルも奪回できる見込みだという。

【参考記事】ISのテロが5月27日からのラマダーン月に起きるかもしれない

それでもISISは、国際テロの戦線を逆に拡大させようとしている。ISISが犯行声明を出したイギリス国内のテロ事件は、先週のマンチェスター自爆テロで2度目だ。ISISの支持者は既にフランス、ベルギー、ドイツ、イギリスの首都でテロ攻撃を成功させている。

イギリスのメイ首相はマンチェスターでの事件後、テロ警戒レベルを最高の「危機的」に引き上げた。この措置によって、イギリス政府は最大5000人の兵士を国内の要所に配備できるようになる。

[2017.6. 6号掲載]
ジャック・ムーア

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