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プーチンが軍拡宣言、ヨーロッパだけでなく極東アジアでもアメリカに対抗

ニューズウィーク日本版 2017年6月5日 18時43分

<冷戦終結で終わったと思った軍拡競争にまた火がついた>

ロシアが、ヨーロッパとアジアの両方で軍事プレゼンスを拡大すると警告している。米軍が海外で軍備を増強していることに対する対抗措置だという。

ロシアのNATO大使、アレクサンドル・グラシコは先週木曜、ヨーロッパのロシア国境沿いでアメリカ主導の軍備増強が行われていることに対して対抗措置を取る、と語った。NATOは米政府の計画に沿って昨年、バルト3国とポーランドに4つの戦略戦闘グループを配備。数千人規模の部隊と広範な軍事資源を投じて多国籍軍の防衛力を強化してきた。ロシアはこれを、ロシア国境にアメリカが既にもつ十分過ぎるほどの軍事インフラに追加するものだとして敵対視している。グルシコは、報復措置を取ると言ったが、具体策は明かさなかった。

【参考記事】バルト3国発、第3次大戦を画策するプーチン──その時トランプは

Why does Russia keep putting its borders so damn close to NATO's ever-expanding network of military bases? Why?! ?? pic.twitter.com/OP5LRdcmcJ— Sarah Abdallah (@sahouraxo) 2017年4月30日

(青い国の上から、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国とポーランド。国旗は、各国に駐留するNATO多国籍軍への参加国。すぐ右側はロシア)



AP通信によるとグルシコは、「NATOが看過できない新たな軍事的安全保障問題を作り出している以上、我々も軍事的手段を使って対抗すべきだと考える」と語った。

【参考記事】ドイツが独自の「EU軍」を作り始めた チェコやルーマニアなどの小国と

きっかけはクリミア併合

NATOの軍備増強は嘘ではないが、それには理由がある。2014年にロシアがウクライナのクリミアを併合してから、ロシアと国境を接するバルト3国などでロシアの侵攻に対する危機感が強まったのだ。NATOはロシアのクリミア侵攻を非難したが、ロシアはウクライナ危機からロシア系住民を守るためだったと正当化している。

【参考記事】英「ロシアに核の先制使用も辞さず」── 欧州にもくすぶる核攻撃の火種

さらにアジア太平洋地域についても、アメリカの軍事的野心に対抗する用意があるとロシアのウラジーミル・プーチン大統領は言う。

サンクトペテルブルクでの記者会見でプーチンは、日本が返還を求めているクリル諸島(北方領土を含む千島列島)における最近のロシア軍増強の動きは、アメリカのミサイル防衛に対抗するものだと言った。ロシア政府は長年、アメリカが世界に展開するミサイル防衛網は、潜在的にロシアの核戦力を無効にしかねない脅威だと言ってきた。ロシアが千島列島に軍事資産を送ると決めたのは、アメリカがまたロシア国境近くにミサイル防衛を食い止めるためだ、とプーチンは言う。



以下は、プーチンが記者たちに語った言葉だ。「ロシア極東、とりわけクリル諸島での軍備増強に関して言えば、ロシアが始めたことではない(アメリカだ)。ヨーロッパも同じだ。NATOの軍事拠点はかつてないほど我々の国境に近づき、部隊は増強されている。他に選択肢はない。ただ見ているわけにはいかない。我々は正しいことをしている」 

米軍機関紙スターズ・アンド・ストライプスによると、ロシア軍は北方領土に2個師団を送る予定のほか、ミサイル防衛システムを搭載した2種類の艦船は既に派遣済みだ。

アメリカも、極東の同盟国である日本と韓国に軍事基地をもっている。アメリカがアジアとヨーロッパにこれほど高度な防衛力を持つことは到底正当化できないと、プーチンは言う。国際社会やメディアがアメリカの世界的な軍備拡大を無視し、ロシアばかり非難するのはおかしい、と。

プーチンは言う。「状況は悪化している。アメリカは軍拡競争を新たな次元へと押し上げようとしている。ならば我々は対抗措置を考える。ミサイル防衛システムも改善しなければならない。まさに軍拡競争の新ラウンドだ」

トム・オコーナー

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