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ロンドン市長批判で、トランプの訪英反対運動が再燃

ニューズウィーク日本版 2017年6月6日 17時20分

<総選挙直前のメイ英首相に新たな打撃。イスラムに対する悪意が透けて見えるトランプのロンドン市長批判が、テロ直後のイギリスにとってあまりに酷過ぎる、と英政治家も反撃>

ドナルド・トランプ米大統領が1月に出したイスラム差別的な入国禁止の大統領令をきっかけにイギリスで盛り上がったトランプの訪米反対気運が、先週末のロンドンテロをきっかけに再び勢いが増している。

6月3日にロンドン橋でテロが発生した後、トランプはツイッターで、ロンドン市長のサディク・カーンを批判。その理不尽さに怒ったイギリスの大物政治家がテリーザ・メイ首相に対し、トランプの公式訪問招請を取り消すよう求めている。

野党・自由民主党のティム・ファロン党首は、「サディク・カーンは(テロ対応で)威厳とリーダーシップを示した」と述べた。「テリーザ・メイは、トランプ訪英の招待を断固取り消すべきだ。我が国が内省と服喪の時だというのに、トランプはわれわれの国家的価値を侮辱した」

トランプは、ロンドンでテロが発生した数時間後に次のようにツイートした。「(ロンドンでの)テロ攻撃で少なくとも7人が死亡し、48人が負傷したというのに、ロンドン市長は『心配する必要はない』と言っている!」

しかし、これは発言の文脈を無視した誤用だった。市長報道官によれば、カーンは実際には「市内に武装警官が増えるが、心配する必要はない」と言ったのだ。

【参考記事】トランプも黙らせたイスラム教徒、ロンドン新市長の実力

にもかかわらずトランプはその翌日、再びカーン批判のツイートを投稿した。

「ロンドン市長のサディク・カーンは、『心配する必要はない』と発言した後で、病的な言い逃れをした。主流メディアはそれを売り込むのに必死だ!」

こうしたトランプのツイートに対して、英最大野党・労働党の古参議員であるデービッド・ラミーは辛辣なツイートで批判した。

「トランプは軽蔑にも値しない人間だ。単なるトロール(誹謗中傷)だ。メイは勇気を見せて、トランプの公式招待を取り消し、限度を示してほしい」

トランプの息子も同じことをしていた

ラミーの投稿は続く。

「トランプは、テロ攻撃を受けたばかりの同盟国の首都の市長の言葉を誤って引用し、中傷することで、アメリカ政府を貶めている。大統領職を汚し、その振る舞いで歴代大統領の名誉を傷つけている。アメリカという素晴らしい国家とその国民に恥をかかせている」

カーン市長はイスラム教徒。「イスラム教徒だからテロを許したロンドン市長」とでも言わんばかりのレッテル貼りは、イギリスの当事者にとっては無責任極まりない。

奇しくも、と言うべきか、今年3月の英国会議事堂テロの直後には、トランプの長男ドナルト・トランプ・ジュニアが、こうツイートしている。「冗談だよな!? テロ攻撃は大都市の生活の一部と、ロンドン市長のサディク・カーンは言った」

これも、「テロへの備えは生活の一部」と言ったカーンの言葉を誤用したものだった。攻撃の仕方までが父子でこれほど似るとは驚きだ。

【参考記事】テロ直後にトランプの息子がロンドン市長を批判、でもなぜ?
【参考記事】戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」



今年2月、英議会の公式ウェブサイトでは、トランプ訪英の中止を求める署名活動が行われ、200万近くの署名が集まった。

これに対し、英政府は次のような声明を出した。「政府は、アメリカ大統領を手厚くもてなすべきだと考える。訪問の日程と詳細が決まり次第、トランプ大統領の訪英を歓迎する」

今回メイは、カーンに対するツイートについて直接のトランプ批判は避けながらこう言った。「サディク・カーンは立派な仕事をしている。それ以外のことを言うのは適切ではない」

6月8日に総選挙を控え、相次ぐテロと労働党の猛追でただでさえ崖っぷちのメイに、トランプの見当違いな横槍がとどめを刺すことにならなければいいが。

(翻訳:ガリレオ)



ジェイソン・ルミエール

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