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空爆から救出されたオムラン君、回復してもつきまとう独裁者の影

ニューズウィーク日本版 2017年6月8日 19時55分

<血と埃まみれの姿で世界に衝撃を与えた少年が、見違えるように元気な姿でメディアに登場した。だがシリアの独裁者アサドは、そもそも空爆で傷ついた昨年の動画からして反体制側の捏造だと主張する>

昨年8月、シリア北部の要衝アレッポでの空爆で、負傷した男の子を覚えているだろうか。オムラン・ダクニシュ(5)は、ロシア戦闘機によるとされる空爆の後、瓦礫のなかから救い出された。救急車の中で呆然としたまま一点を見つめる姿は「アレッポの惨状」の象徴として瞬く間に世界中に拡散された。


(救出直後のオムラン)


笑顔を見せるオムラン

今回報じられたのは、あの傷ついた少年からは想像できない、遊びまわるまでに回復したオムランの姿だ。ふっくらした頬に浮かぶ子供らしい笑顔は、恐ろしい体験をしたことを感じさせないほどだ。

Alive, well & smiling again!Fantastic. #Omran #Syria https://t.co/dY3dMwl7TD pic.twitter.com/MZeT0zSdNW— Piers Morgan (@piersmorgan) 2017年6月6日





空爆の際はオムランの両親と兄弟を含む家族6人は重症を負いながらも全員無事とされたが、AFPによると、重症を負った兄のアリ(10)は空爆の3日後に亡くなった。ロイター通信が伝えた匿名の目撃証言によると、死因は内出血と臓器破損だったという。

アレッポは昨年12月に、独裁者アサド政権率いる政府軍が制圧した。6年にわたる内戦の当初は反体制派が優勢と見られていたものの、ロシアやイランなどの親アサド派から支援を受けた政府軍が武力でねじ伏せた。

【参考記事】「アレッポの惨劇」を招いた欧米の重い罪
【参考記事】シリアの真の問題は化学兵器ではない



プロパガンダだと批判するプロパガンダ?

だが、オムランの怖い話はまだ終わらない。

独裁者のアサド大統領が、空爆直後の動画も最近の動画も、オムランの物語は反体制派のプロパガンダだと非難しているからだ。

そもそも最初の動画は、反体制派活動家団体「アレッポ・メディアセンター(AMC)」が人命救助活動に携わるボランティア団体「ホワイト・ヘルメット」の活動促進を目的に公開したもの。

「アレッポの惨状」が世界中に拡散されると、アサドはテレビに出演するたびに「偽装映像だ」とか「反体制派のプロパガンダだ」と反論し続けた。

Le boucher de la #syrie Bachar al-assad dit que la photo du petit #Omran est fausse; sa femme affirme le contraire!#Alep pic.twitter.com/ez0zCUJIlg— abdulrahman alhwemil (@Abadi1Abadi) 2016年10月22日

(人権メディアAJ+のインタビュー)


オムラン君の父親モハマド・へール・ダクニシュもアサドに同調する発言をしている。「救助されたオムランは勝手に連れて行かれた。私はまだ2階にいたし、私の意思は無視された」とイラン国営テレビのインタビューで語った。

ニューヨークタイムズによれば、シリア、ロシア、イラン、レバノンで放送された番組(シリア国営テレビ)では父親は、「AMCが空爆を操作し、同意なしに息子を撮影した」と言った。

オムランと家族が、アサド政権から圧力を受けているかどうかはわからないが、家族が住むアレッポがアサド政権の支配下にあるのは事実だ。

シリアの著名な活動家アブドゥル・カフィ・アルハマドはこう問いかける。「オムランの父親がアサド政権に『ノー』を言えると思いますか?」

【参考記事】「ホワイト・ヘルメット」を無視するノーベル平和賞の大罪
【参考記事】シリアの子供たちは、何度化学兵器で殺されるのか


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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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