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コミー前FBI長官が反トランプの議会証言 何がわかったのか

ニューズウィーク日本版 2017年6月12日 21時30分

<5月に電撃解任されたコミーFBI前長官が解任後初めて議会の公聴会で証言。クビになる前からトランプとの会話を周到にメモしていたコミーの反撃が始まった。今週には、疑惑の人物として証言から浮かび上がったトランプの腹心、セッションズ司法長官の議会証言もある>

先週木曜は、2000万人のアメリカ人がテレビにくぎ付けになった。先月、ドナルド・トランプ米大統領に電撃解任された前FBI長官ジェームズ・コミーが初めて米議会の公聴会で公に証言したのだ。そしてトランプ大統領を公然と「嘘つき」呼ばわりした。コミーを解任した後トランプは、FBIは混乱状態でコミーの信望も失われたと言ったが、それは「真っ赤な嘘」だと、反撃した。

【参考記事】FBIコミー長官解任劇の奇々怪々

そして視聴者は、ロシアの米大統領選関与疑惑やトランプが自分をクビにした理由について、3時間にわたってコミーが証言するのを驚きをもって見守った。以下はポイントごとにまとめたその記録だ。

■FBIの捜査対象

FBIの捜査は、大統領選の民主党候補だったヒラリー・クリントン陣営や民主党全国委員会(DNC)にサイバー攻撃を仕掛けて大量のメールを流出させたとされるロシア政府だけでなく、そのロシアとトランプ政権幹部が共謀関係にあったかどうかにも及んでいる。トランプは自分にも捜査が及ぶのを恐れていた。

コミーによれば、トランプは大統領就任から1週間後の1月27日にコミーをホワイトハウスに招いて2人きりで夕食をとり、コミーを味方にしようとした。ロシア政府と接触していないと嘘をついて辞任したマイケル・フリン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の捜査をやめさせようとしたうえ、捜査当局として独立の立場にあるべきコミーにトランプへの「忠誠心」を要求した。

■証拠のメモと「録音テープ」

コミーはトランプとの会話をメモに残していた事実を認め、その理由はトランプに対し強い不信感を抱いたためだと言った。ホワイトハウスでの夕食や、数回にわたった会合、電話での会話もメモに記録した。「正直言うと、我々の会合の性質についてトランプが嘘をつくかもしれないという懸念があった」とコミーは言った。

【参考記事】米政権幹部に襲いかかる、トランプの執拗な怒りの病

会話をばらされて困るのは

トランプはコミーを解任した後ツイッターで、コミーとの会話を録音したテープが存在するように匂わせて、コミーがメディアに2人の話を漏らさないよう牽制した。コミーは公聴会で、テープが存在してくれたほうがすべて明らかになる、あるなら公開すべきだ、と言った。

トランプの弁護士マーク・カソウィッツは公聴会と同日に会見を開き、トランプは一度もコミーに忠誠を要求したことはないと反論し、捜査を止めるようトランプの圧力があったとするコミーの証言を全面的に否定した。カソウィッツはコミーを、「トランプ政権の弱体化を企てる」米政府内の勢力に加担した「情報漏洩者」だと批判した。



■セッションズ司法長官も悪なのか

コミーは明かしたトランプとの会話は驚くべきものだったが、捜査に関する情報は明かさなかった。興味深いのは、ジェフ・セッションズ司法長官がなぜロシア疑惑の捜査から外れたのか問われて、公開の場では答えられないとコミーが言ったことだ。トランプの腹心でもあるセッションズは3月、トランプ選対幹部だったことを理由に捜査から外れた。だがコミー証言の結果新たな疑惑が浮上したとして、13日に公聴会で証言する予定だ。

■国家安全保障責任者に刑事捜査

トランプの右腕という触れ込みの問題児マイケル・フリンは、就任後1カ月ももたずに国家安全保障担当大統領補佐官を辞任させられた。政権発足前にロシアのセルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使と電話で話した内容について、マイク・ペンス副大統領に嘘をついたからだ。

コミーは、フリンが辞任前からFBIによる事実上の刑事捜査の対象であり、FBIはロシア当局との接触の内容を具体的に捜査していたと述べた。

弾劾の理由に迫れ

フリンはアメリカの国家安全保障と情報機関に関する最高度の機密情報を扱う国家安全保障担当という立場にありながら、FBIによる刑事捜査の対象にされていたことが裏づけられた。

■「フリンはいい奴だ」疑惑

トランプは2月14日の会合で、大統領執務室から司法長官らを退室させコミーと2人きりになった上で、フリンの捜査から手を引くよう圧力をかけてきた。コミーはトランプから「フリンはいい奴だ。いろいろ大変な思いをしてきた」「この件はやり過ごしてほしい」と言われたと証言した。

民主党議員は、FBIが進めていた捜査をトランプが邪魔しようとしたのではないか、とコミーに問いただした。それが事実なら司法妨害として弾劾理由になる。それは自分が話すことではないと、コミーは言った。

■司法妨害か否か

ロシア疑惑を捜査する特別検察官には、すでにロバート・ムラー元FBI長官が指名されている。報道によれば、フリンの疑惑も特別検察官による捜査対象に加わった。コミーはトランプとの会話のメモをムラーに提出したことを明らかにしたうえで、今後ムラーはトランプの行為が司法妨害に当たるかどうかの捜査を始めるだろうと言った。「(司法妨害となるかどうかを)判断するのはムラーの仕事だ」

【参考記事】司法妨害って何? FBI前長官の議会証言の見どころ

コミーは先月FBI長官を解任された時点で、ロシアが大統領選に介入した問題でトランプは捜査対象ではなかったと明言した一方、トランプのやったことが結果的に司法妨害の捜査対象になる可能性にも言及した。



■リーク:作戦勝ちか機密漏洩か

コミーは解任後、トランプとの会話のメモを、米コロンビア大学ロースクールのダニエル・リッチマン教授の友人に共有してもらったことを認めた。その後メモはリッチマンからニューヨーク・タイムズにリークされたとみられる。メモを共有したのは、FBIの捜査を率いる特別検察官の任命につながると考えたからだ、とコミーは述べた(そしてムラーが任命された)。

カソウィッツはコミーが友人にメモを渡したと認めた点をやり玉にあげ、機密情報を漏洩したと批判した。コミーは公聴会で、メモは機密情報に当たらないと証言した。

(翻訳:河原里香)

From Foreign Policy Magazine



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エリアス・グロル

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