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共和党議員銃撃、「左派」支持者の凶行に衝撃 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年6月15日 13時0分

<共和党の下院議員が銃撃される事件が発生。昨年の大統領選でサンダース陣営に参加していた「左派」支持者の犯行には違和感が>

今週14日の朝、ワシントンDC郊外のバージニア州アレクサンドリアで、連邦議員らが野球の練習をしていたところ、男性が銃撃を始め、共和党のスティーブ・スカリス下院院内幹事や他の議員のスタッフ、警官らが撃たれました。スカリス議員をはじめ5人が負傷し、狙撃犯は銃撃戦の結果死亡したそうです。(編注:スカリス議員は病院で治療を受けているが重体)

ちなみに、議員たちが野球の練習をしていたのは、恒例の「民主党チーム対共和党チーム」の野球の試合に備えるためでした。この試合には長い伝統があり、超党派的な親睦イベントとしてワシントンの名物になっているものです。

多くのメディアが一斉に報じたところでは、狙撃犯はイリノイ州在住で、短期間バージニアに来ていた、66歳のジェームズ・ホッジキンソンと特定されています。ホッジキンシンが書いたと見られるSNSの書き込みには「トランプは民主主義を壊した」として、トランプ大統領や共和党への攻撃を示唆する内容が記されているようです。

またホッジキンソンは、昨年の大統領選ではバーニー・サンダースを支持し、サンダース陣営でボランティア活動をしていたのは事実のようです。

私は、発生の時点である種の違和感を持ちました。

【参考記事】黒人射殺事件の連鎖を生む元凶は

まずホッジキンソンがサンダース派であるならば、アンチ・エリートであるはずで、どちらかと言えば、ヒラリーを嫌ってトランプは理解するはずだと思ったのです。また、左派カルチャーの中でこの種の暴力は70年代の新左翼以降は避けられてきました。

また、ライフルを使ったテロということから、南部民主党由来の宗教や人種的な怨念を抱えた左のポピュリズムが根っこにあるかもしれない、そんなことを考えました。だとしたら、サンダースというユダヤ系を支持するのは不自然です。

ただ一部の報道ではホッジキンソンは、長年勤務していた「家屋評価士」の仕事を失っているそうです。自殺の「道連れ」に「大嫌い」な共和党の野球チームを選んだ、つまり雇用の敵だからという勝手な憎悪から凶行に至ったというストーリーは成立するかもしれません。



考えてみれば、昨年2016年を通じてサンダース派というのは決して「お行儀が良い」とは言えないムードを漂わせており、一部には暴力を匂わせる雰囲気もあったのと、ホッジキンソンの場合は年代的にベトナム反戦運動が過激化した時代の記憶を残していた可能性もあります。

それにしても、66歳というのはアメリカ人が楽しみにしている「ソーシャル・セキュリティ」つまり公的年金の標準支給開始年齢です。そこまでたどり着いた人間が、そこで悲観するというのは、何か特殊な事情があるのかもしれません。

もしかしたら「家屋評価士」という仕事が正社員の専門職ではなく、契約ベースの自営業であって、毎年の確定申告を過小にやっていたために公的年金への積立が十分でなかったなど、66歳時点で「老後への悲観」をしたのかもしれません。

いずれにしても、衝撃的な事件です。渦中のバーニー・サンダース議員は、直後に上院で演説して遺憾の意を表明しています。下院民主党のペロシ院内総務も同様です。一方で、トランプ大統領もすぐにテレビ演説を行いました。

【参考記事】放言止まらないトランプが歩む自滅への道

事件を受けて、2011年に同じように銃撃されて奇跡的に一命を取り留めたガブリエレ・ギフォード元下院議員は、彼女の手がけている銃規制運動の一環として、銃規制のメッセージを発信しています。ですが、今回の事件は「銃容認派の共和党が被害者」で「銃規制派の民主党支持者が加害者」という構図に「はまって」しまっており、銃規制推進の文脈にはつながりそうもありません。

まだ直後の時点ですから、今後この事件がどう展開していくか分かりませんが、とりあえず民主党の側では、「トランプ弾劾へ」という追及の勢いは当分の間「しぼみ」そうな情勢です。反対に共和党や大統領の周辺からは、「被害者の正義」という立ち位置を得たようなニュアンスが感じられます。

一方で、そうした微妙な空気に抗するかのように、ムラ―特別検察官の周囲からは「大統領も捜査対象」だというリークが出ているようで、トランプ政権の周囲では難しい駆け引きが続いているのも事実です。

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