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サウジ皇太子交代でトランプの中東外交はどう動く

ニューズウィーク日本版 2017年6月23日 15時19分

<トランプ政権が中東戦略をサウジに丸投げすることになるリスクは相変わらず>

今週サウジアラビアのサルマン国王(81)は、自分の甥のムハンマド・ビン・ナエフ皇太子(57)を解任し、自分の息子のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子兼国防相(31)を皇太子に昇格させた。新皇太子は名前の頭文字から「MBS」という呼び方で知られている。

ナエフ元皇太子は「MBN」と呼ばれていたが、皇太子の称号と政府内での役職を剥奪され、即座に31歳の若き新皇太子への忠誠を誓った。

だが皇太子の交代劇には誰も驚かなかった。

2人はこれまでも緊張関係にあった。ナエフは西側諸国との友好関係を深め、イスラム過激派のテロを直視する姿勢を評価されていたが、解任は近いと見られていた。

サルマン新皇太子はサウジアラビアの経済改革プラン「ビジョン2030」を策定し、それほど成功とは言えないイエメン内戦への軍事介入を指揮してきた。

アラブ首長国連邦(UAE)の指導層とも近い関係で(多くの人がサルマンの政策の「親玉」はムハンマド・アブダビ皇太子だと考えている)、最近のサウジ、UAEのカタールとの断交の黒幕もサルマンと考えられている。

サウジの近代化を進める

筆者は今年リヤドで新旧皇太子の両方と会談した。2人とも素晴らしい人物だが、サルマンの方が、サウジアラビアをリードするのに必要だと誰もが考える、活動力と想像力を持ち合わせていることは明らかだった。

【参考記事】国交断絶、小国カタールがここまで目の敵にされる真の理由

問題は、サルマンの経済的、戦略的ビジョンに、一貫性があり、維持できる現実性を持っているかどうかという点だ。

「ビジョン2030」に示された改革案は、経営コンサルの手が入った劇的な提案で、サウジのエリート階級の現状をひっくり返すものだけに、支持者は少ない。補助金や給与の改定は一旦実施されたもののすでに撤回された。

【参考記事】大胆で危険なサウジの経済改革

誇大に強調された湾岸協力会議の協調関係は現実というより象徴的なものだ。イエメン内戦への軍事介入に対する国内での支持は低く、イランが支援する反政府勢力ホーシー派を首都サナアから撃退する見通しは立たない。

それでもサルマンが現状の改革に挑んでいることは大いに評価できる。宗教警察の捜査権を縮小し、宗教指導部を改編し、サウジの日常生活の近代化を進める――そうした改革は現実に実行されているし、今後も続くかもしれない。

【参考記事】サウジ国王御一行様、インドネシアの「特需」は70億ドル超



アメリカ、特にトランプ政権にとって問題なのは、イスラム教スンニ派の盟主サウジを軸にしたアメリカの対イラン包囲網が成果を上げるかどうかだ。

皮肉なことに、中東地域へのオバマの「放置」外交と同様、トランプ政権の「サウジ・ファースト」外交は、アメリカの中東戦略をサウジに丸投げすることになるリスクを抱えている。

オバマの「イラン優先」政策が正しかったとは言えない。またサウジやUAEと連携することが間違いというのでもない。しかし結局のところ、サウジに新しい皇太子が就任しようが、サウジの対外政策が変化しようが、アメリカ独自の外交戦略と代替できるものではない。

だが肝心のトランプの中東外交戦略は、まだ示されていない。

This article first appeared on the American Enterprise Institute site.


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ダニエル・プレトカ(米アメリカン・エンタープライズ研究所、外交・安全保障担当)

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