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終息に向かうIS、モスル解放の次に待つのは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年7月6日 15時30分

<イラク、シリアでのISの組織的な活動が終息に向かっても、ポストISの中東には宗派対立やクルド自治など難題が残る>

イラク領内のテロ組織IS(自称イスラム国)の拠点モスルの解放が最終段階に入っています。現地に入っていたNBCのリチャード・エンゲル記者の報告によれば、ISはイラク軍に押されて最後の1ブロックを死守しているということです。ただその最後の拠点には、モスルの非戦闘員を「人間の盾」、つまり人質として拘束しており、イラク軍としては現時点では突入を見合わせている状況です。

このイラク軍ですが、現在のイラクを構成するシーア派イラクと、クルド人の連合軍で、米軍の軍事顧問団がアドバイザーとして加わっています。ISは6月下旬の時点で軍事的には完全に追い詰められ、6月22日には市の中心にありISの支配を象徴していた「ヌーリ・モスク」が陥落してモスクは破壊されています。

エンゲル記者によれば、このモスクはISの指導者と言われるバグダディが「イスラム国を建設して自分はカリフに就任する」と宣言した場所で、その象徴的な建物が「敵の手に渡る」ことを潔しとせず、ISが自分たちの手で破壊した可能性が高いと言います。また、バグダディに関しても、まったく公の場に姿を見せていないことから、死亡説が様々な形で流れています。

仮にこの勢いでモスルが陥落した場合、ISはシリアのラッカを拠点として抵抗を続けるのでしょうが、ラッカに関してもシリアの反政府勢力が市内に突入したという報道もあり、ISは劣勢のようです。仮にモスルが陥落し、ラッカでの組織的な抵抗が終わって、バグダディの死亡が確認されるようですと、中東の世界に「カリフ復権を狙ったイスラム国」を実現しようというISの活動はひとまず収束に向かうことが考えられます。

【参考記事】ISISの終焉:支配地域は縮小、資金も枯渇

では、それでこの地域が平和になるのかというと、イラクにしても、シリアにしても依然として難しい問題が残ると考えなくてはなりません。

まずイラクですが、ISの組織的抵抗が終わるということは、現在のイラクとしては「治安確保」に成功したということになります。ですが、この現在のイラクというのは、シーア派とクルド人が主導しています。共通の敵であるISが存在して、一緒に戦っている間は先送りできていた問題がどうしても浮上してくることになるでしょう。

それは、クルドの自治権をどうするかという問題です。イラク領内における現在のクルド自治区は、治安をかなり安定させており、米国・米軍との関係も良好です。ですが、同時にこのクルドの人々は、自治をさらに強めていく中で、最終的には独立が悲願であるわけです。



しかし、クルドの独立には、まずトルコが厳しく反対し、イランもシリアのアサド政権も同じスタンスです。それぞれが、領内にクルド人の居住区を抱える中で、隣り合う「イラク領内のクルド人」の独立には、自国内のクルド系にも影響がある中で、絶対に容認できないという立場です。

加えて、ISという敵がイラク国内から消えたとして、シーア派イラクの体制はどうなるかという問題があります。今後も親米で穏健な姿勢を維持できるのか、それともサドル師などの急進派の影響力が拡大するのか、イランへの接近が強まるのか、こちらも注意が必要です。特にブッシュ、オバマ時代と比べて、イランとサウジの間の関係がはるかに悪化している現在、イラクの将来像もまた揺れていく可能性があります。

【参考記事】シリア東部はアサドとイランのものにすればいいーー米中央軍

もっと難しいのがシリアです。IS制圧というスローガンは、現時点では「アサド政権」「自由シリア軍」「クルド系」「トルコ系」といったシリアの各勢力が「唯一共通のテーマ」として取り組める問題でした。仮に、ISが本当に弱体化した場合は、残った勢力は「どうしても直接対立する」ことになります。

「ポストIS」のイラク、シリアには、次元の違う問題が残っていくことが避けられません。仮に「領土を支配しているイスラム国」としてのISが消滅しても、アルカイダと同じような地下テロ組織としては、現在でもフィリピンやアフガニスタンでの活動を強めているわけで、引き続き警戒が必要です。

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