ドナルド・トランプ米大統領は5日、就任後2回目となる外遊に出発した。ドイツで7、8日に開催される主要G20カ国・地域(G20)首脳会談に出席する予定だが、その前にまず立ち寄ったのはポーランドだ。今回の外遊は逆風が吹き荒れるなかでの厳しい旅となる。国際世論はトランプに対し、イラク侵攻後に世界中からバッシングを浴びた時期のジョージ・W・ブッシュ元大統領よりも、さらに厳しい評価を下している。
特に西欧諸国ではトランプは不人気で、アメリカが今年1月に約4千人の兵士を派遣したポーランドを最初の訪問先に選んだのはただの偶然ではない。EU懐疑派の極右政党「法と正義」が政権を握るポーランドはEU加盟国の中では例外的にトランプに好意的だ。ポーランドはまたNATO加盟国の中で、GDPの2%を国防費に充てる共通目標を達成しているたった4カ国(アメリカ以外)の1つだ。
似た者同士
反移民で石炭火力発電を推進し、多国間の枠組みに懐疑的なポーランドの現政権とトランプには共通点が多い。ポーランドのベアタ・シドゥウォ首相自身、難民受け入れを拒否し、法治を危うくする法改正で、EUと激しく対立している。トランプ歓迎は今や愛国行事で、木曜の演説には全国からバスを仕立てて支持者たちが集まるという。
【参考記事】ポーランドの「プーチン化」に怯えるEU
大陸西側の「古いヨーロッパ」と東側の「新しいヨーロッパ」というドナルド・ラムズフェルド米元国防長官が提唱した概念を踏まえ、トランプはポーランドのブロツワフで開催される「3つの海イニシアチブ」にも出席する。この会議には中欧と東欧の12カ国の首脳が参加する。
だがトランプはポーランド政権とは友好ムードを演出できても、ポーランド国民は必ずしも彼を歓迎していない。国民の多くはロシアの拡張主義を警戒しており、過去にNATOに懐疑的な姿勢を示し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を褒めそやすような発言をしたトランプを不信の目で見ている。
【参考記事】ヨーロッパを遠ざけロシアを引き寄せたトランプのNATO演説
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それでも週末に逆風の吹きすさぶG20に乗り込む前に、ポーランドで足慣らしをしたかったのだろう。G20ではトランプの「アメリカ第一主義」が槍玉に上がるはずだ。具体的には、気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱、メキシコとの「国境の壁」の建設、イスラム教徒が多数を占める国からの一時的な入国制限に批判が集中するだろう。
調査機関ピュー・グローバル・リサーチが先週発表した調査結果によると、トランプの国際的なリーダーシップと政策に対して、国際世論の75%がほとんど、ないしはまったく信頼感を抱いていない。
多くの国々でトランプの支持率は2004年時点のブッシュ(息子)よりも低かった。予想どおりイスラエルとロシアではトランプの評価は高いが、この2国は例外的で、アジア太平洋諸国から南北アメリカ大陸まで、ほぼ世界中がトランプにノーを突きつけている。
【参考記事】トランプ、抗議デモ避けてイギリスに「密入国」?
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先週のピュー・リサーチ・センターの調査結果が明らかにしたように、ブッシュ元大統領以降で初めて反米感情が多くの国で急増したことから、トランプは現代史で最も海外で不人気のアメリカ大統領になる可能性が出てきた。
それにより、バラク・オバマ前米大統領がアメリカのイメージを変えようとした8年にわたる努力のほとんどが無駄になるかもしれない。
オバマが2009年に大統領になって直面したのは、ベトナム戦争以来の最悪レベルにあった反米感情だ。その主な原因は、「テロとの戦い」と称したブッシュ政権の外交政策が、国際的に評判が悪かったからだ。
オバマが上げたアメリカのブランド価値
オバマ前政権は反米感情を逆転させるために様々な手を打った。ある研究によれば、オバマ前政権1年目だけで、「オバマ効果」はアメリカのブランド価値を2兆1000億ドルも押し上げた。ブッシュから政権を引き継いだ後、アメリカを世界で最も素晴らしい国とみなす外国人がかなりの割合が増加したことを示している。
国際社会でアメリカのイメージが改善したことを、米政府のみならず米企業も歓迎した。アメリカに本社を置く多国籍企業は、ブッシュ政権になってから海外ビジネスで反発を受けるなど、反米主義のはけ口になる懸念も生じていたからだ。
オバマは数々の成功を収めたが、成果は偏っていた。恐らくオバマの世界的なパブリック・ディプロマシー(大衆外交)における最大の失敗は、イスラム世界への対応だろう。
例えば、オバマは1期目にエジプトの首都カイロで有名な演説をし、イスラム教が多数派を占める国々との関係を修復すると約束したが、パキスタンやエジプトなどのイスラム同盟国でさえ、今も反米主義が根強く残っている。
それでもオバマ前政権末期に彼の国際問題に関する指導力を信頼すると回答した人の割合は、全世界で64%に上った。今のトランプをはるかに上回る数字だ。
世界の大多数の人々が、昨年11月の米大統領選で民主党候補だったヒラリー・クリントンに勝利してほしかったと感じている。クリントンは敗北したが、大統領選前の昨年10月に世界の人口の75%を占める45カ国、約5万人を対象に実施したWIN/ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションの国際世論調査では、クリントンが支持率でトランプに圧勝した。ロシアを除く全ての国で、トランプでなくクリントンの勝利を望んでいた。
WIN/ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションの結果は、昨年独紙ハンデルスブラットが20カ国・地域(G20)の2万人を対象に行った世論調査結果とそっくりだ。この調査でも、トランプの支持率がクリントンを上回ったのはロシアのみだった。
全体的に見て、トランプは国際社会から益々軽蔑されていることを考えれば、ポーランド訪問は彼にとって良い息抜きになるはずだ。世論調査結果が示すように、トランプは現代史上海外で最も不人気なアメリカ大統領になるかもしれず、今後の外交政策を成功させるうえで足かせになりそうだ。
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アンドリュー・ハモンド(英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス准教授)
特に西欧諸国ではトランプは不人気で、アメリカが今年1月に約4千人の兵士を派遣したポーランドを最初の訪問先に選んだのはただの偶然ではない。EU懐疑派の極右政党「法と正義」が政権を握るポーランドはEU加盟国の中では例外的にトランプに好意的だ。ポーランドはまたNATO加盟国の中で、GDPの2%を国防費に充てる共通目標を達成しているたった4カ国(アメリカ以外)の1つだ。
似た者同士
反移民で石炭火力発電を推進し、多国間の枠組みに懐疑的なポーランドの現政権とトランプには共通点が多い。ポーランドのベアタ・シドゥウォ首相自身、難民受け入れを拒否し、法治を危うくする法改正で、EUと激しく対立している。トランプ歓迎は今や愛国行事で、木曜の演説には全国からバスを仕立てて支持者たちが集まるという。
【参考記事】ポーランドの「プーチン化」に怯えるEU
大陸西側の「古いヨーロッパ」と東側の「新しいヨーロッパ」というドナルド・ラムズフェルド米元国防長官が提唱した概念を踏まえ、トランプはポーランドのブロツワフで開催される「3つの海イニシアチブ」にも出席する。この会議には中欧と東欧の12カ国の首脳が参加する。
だがトランプはポーランド政権とは友好ムードを演出できても、ポーランド国民は必ずしも彼を歓迎していない。国民の多くはロシアの拡張主義を警戒しており、過去にNATOに懐疑的な姿勢を示し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を褒めそやすような発言をしたトランプを不信の目で見ている。
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それでも週末に逆風の吹きすさぶG20に乗り込む前に、ポーランドで足慣らしをしたかったのだろう。G20ではトランプの「アメリカ第一主義」が槍玉に上がるはずだ。具体的には、気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱、メキシコとの「国境の壁」の建設、イスラム教徒が多数を占める国からの一時的な入国制限に批判が集中するだろう。
調査機関ピュー・グローバル・リサーチが先週発表した調査結果によると、トランプの国際的なリーダーシップと政策に対して、国際世論の75%がほとんど、ないしはまったく信頼感を抱いていない。
多くの国々でトランプの支持率は2004年時点のブッシュ(息子)よりも低かった。予想どおりイスラエルとロシアではトランプの評価は高いが、この2国は例外的で、アジア太平洋諸国から南北アメリカ大陸まで、ほぼ世界中がトランプにノーを突きつけている。
【参考記事】トランプ、抗議デモ避けてイギリスに「密入国」?
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先週のピュー・リサーチ・センターの調査結果が明らかにしたように、ブッシュ元大統領以降で初めて反米感情が多くの国で急増したことから、トランプは現代史で最も海外で不人気のアメリカ大統領になる可能性が出てきた。
それにより、バラク・オバマ前米大統領がアメリカのイメージを変えようとした8年にわたる努力のほとんどが無駄になるかもしれない。
オバマが2009年に大統領になって直面したのは、ベトナム戦争以来の最悪レベルにあった反米感情だ。その主な原因は、「テロとの戦い」と称したブッシュ政権の外交政策が、国際的に評判が悪かったからだ。
オバマが上げたアメリカのブランド価値
オバマ前政権は反米感情を逆転させるために様々な手を打った。ある研究によれば、オバマ前政権1年目だけで、「オバマ効果」はアメリカのブランド価値を2兆1000億ドルも押し上げた。ブッシュから政権を引き継いだ後、アメリカを世界で最も素晴らしい国とみなす外国人がかなりの割合が増加したことを示している。
国際社会でアメリカのイメージが改善したことを、米政府のみならず米企業も歓迎した。アメリカに本社を置く多国籍企業は、ブッシュ政権になってから海外ビジネスで反発を受けるなど、反米主義のはけ口になる懸念も生じていたからだ。
オバマは数々の成功を収めたが、成果は偏っていた。恐らくオバマの世界的なパブリック・ディプロマシー(大衆外交)における最大の失敗は、イスラム世界への対応だろう。
例えば、オバマは1期目にエジプトの首都カイロで有名な演説をし、イスラム教が多数派を占める国々との関係を修復すると約束したが、パキスタンやエジプトなどのイスラム同盟国でさえ、今も反米主義が根強く残っている。
それでもオバマ前政権末期に彼の国際問題に関する指導力を信頼すると回答した人の割合は、全世界で64%に上った。今のトランプをはるかに上回る数字だ。
世界の大多数の人々が、昨年11月の米大統領選で民主党候補だったヒラリー・クリントンに勝利してほしかったと感じている。クリントンは敗北したが、大統領選前の昨年10月に世界の人口の75%を占める45カ国、約5万人を対象に実施したWIN/ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションの国際世論調査では、クリントンが支持率でトランプに圧勝した。ロシアを除く全ての国で、トランプでなくクリントンの勝利を望んでいた。
WIN/ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションの結果は、昨年独紙ハンデルスブラットが20カ国・地域(G20)の2万人を対象に行った世論調査結果とそっくりだ。この調査でも、トランプの支持率がクリントンを上回ったのはロシアのみだった。
全体的に見て、トランプは国際社会から益々軽蔑されていることを考えれば、ポーランド訪問は彼にとって良い息抜きになるはずだ。世論調査結果が示すように、トランプは現代史上海外で最も不人気なアメリカ大統領になるかもしれず、今後の外交政策を成功させるうえで足かせになりそうだ。
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アンドリュー・ハモンド(英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス准教授)