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母子の絆をより強くするという「優しい帝王切開」 とは?

ニューズウィーク日本版 2017年7月12日 16時50分

英米でgentle C-section「優しい帝王切開」あるいはnatural C-section「自然な帝王切開」と呼ばれる新しい手術スタイルが浸透しはじめている。

安全で、余計なコストもかからず、家族の意向を大切にするこの「優しい帝王切開」は母親により強い満足感を与え、授乳率も上がると報告されている。

経腟分娩の疑似体験

従来の帝王切開といえば、産婦は半身または全身麻酔を受けたうえ、下半身はカーテンで仕切られて、(たとえ意識があっても)見ることができなかった。胎児は引っ張り出された後に各処置のために別室に連れて行かれ、対面するのは数時間後という場合もあった。

優しい帝王切開では、透明ビニールのカーテンを用い、母親が誕生の瞬間を目にすることができるようになっている。また、心電図モニターなどの機材を移動させて母親の胸元と片腕をあけておき、生まれた子供をすぐに抱きしめることができるようにする。その場での授乳もOKだ。さらに、従来のように医師が胎児を引っ張り出すのではなく、小さな切開口から胎児がなるべく自分のペースで外に出られるよう手助けもするという。そう、ふつうの経腟分娩のように。

ちょっと想像できないが、より自然な分娩に近い形にするという、イギリスですでに浸透しつつあったこの新しい手術スタイルへの要望は2年前にもNPRが報じている。 また先月のCNNの報道によると、イギリスでは約25%、アメリカでは32%の妊産婦がなんらかの理由で帝王切開を受けるが、ほとんどの女性が経腟分娩できなかったことへの敗北感や罪悪感、また産声や誕生の瞬間の記憶がないことによる出産体験全般への不満をあげている。



安全で母親の満足度は向上、授乳率も上昇

筆者もドイツで2度帝王切開手術を受けたが、自然な方法でこの世に送り出してやれなかったことで母親失格のような罪悪感に苛まれるものだ。2度目3度目の出産で優しい帝王切開を受けた多くのそんな女性たちが、従来の帝王切開に比べて高い満足感を得られたと述べている。また、自然な分娩を擬似体験できることにより多くのメリットがあることも報告されている。

CNNによると、ドイツの病院で行われた調査では、従来の帝王切開と優しい帝王切開のあいだに医学的違いはなく、母子ともに合併症なども認められず、両者とも等しく安全と確認された。

【参考記事】女性は妊娠で脳の構造を変え、「子育て力」を高める:神経科学の最新研究

そのうえ、授乳率の上昇や母親の満足度の向上が確認され、生まれたばかりの赤ん坊の体温や心拍数の安定にも役立つという。生まれてすぐに母親の温かい肌に触れることは自然の理にかなっていると、ボストンのブライハム・アンド・ウィメンズ病院のキャシー・トレイナーは語っている。



帝王切開を奨励する試みではない

とはいえ、優しい帝王切開も手術であることには変わりないため、手術室での安全上のルールに従う必要はある。また、看護師の数を増やしたり、新生児担当者を手術室に入れたりといった変化もある。

6月3日〜5日にスイスのジュネーブで行われた欧州の麻酔学会ユーロアナスタジアにて研究発表したフェリシティ・プラット博士によると、優しい帝王切開には脊柱と硬膜外麻酔を混合することにより、下半身を十分麻痺させながらも上半身は子供を抱ける状態にしておくことが可能だという(CNN)。これは 初めから大量の麻酔を与えるのではなく、少量から始めて必要に応じて量を調節するからだという。

ロンドンのインペリアル・カレッジ・ヘルスケア・NHSトラストの麻酔学者であり、2008年に優しい帝王切開の論文を書いているプラット博士はまた、従来の帝王切開手術は母親を「受け身の患者」にしてしまうとも指摘(デイリーメール)。

アメリカでは、脊柱と硬膜外麻酔の混合は従来の帝王切開・優しい帝王切開にかかわらずすべての手術で用いられていると、この2年ほど優しい帝王切開を実行しているブライハム・アンド・ウィメンズ病院産科麻酔サービスのディレクター、ウィリアム・カマン博士は言う。とはいえ、一連の取り組みは帝王切開手術を受けなければならなくなった母親たちの体験をより満足のいくものにするための試みであって、決して帝王切開を奨励するものではないと、ハーバード医学学校でも教える同博士は強調する。

また先述のプラット博士は、2010年の時点では同手術の要素はイギリス全土の55%で可能だったが、おそらく現在はもっと多くの施設で可能だろうとデイリーメールに語っている。


モーゲンスタン陽子

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