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潜在的未成年性犯罪者の入国を許すな インドネシア 上半期で100人を阻止

ニューズウィーク日本版 2017年7月14日 18時40分

<インドネシアやカンボジアには、世界中の小児性愛者が好んで訪れ犯罪を起こす場所がある。そこへ至る前に水際で捕まえる努力が始まった>

インドネシア法務司法省と入国管理局は今年1~6月、海外からインドネシアに入国しようとした幼児・未成年を対象とした性犯罪の履歴のある常習者107人を摘発、入国を阻止したことを明らかにした。

インドネシアのバリ島、ロンボク島などは幼児・未成年の少年少女を対象とした「小児性愛者」「異常性愛者」による性犯罪が多く発生する地域として知られ、その手の性癖のある成人が好む場所として有名だという。

インドネシア当局が国際的な性犯罪被害者人権団体や国際刑事警察機構(インターポール)などの協力を得てこの半年で入国を水際で阻止したのは、オーストラリア人、フランス人、ポルトガル人、南アフリカ人、米国人など92人を含む107人。過去の性犯罪容疑者、現在も監視下にある要注意人物などのインターネットのソーシャルネットワークでの発言や書き込み、旅行日程、行動予定などから動向に関する情報を入手するとともに「ブラックリスト」を作成して、インドネシア各地の国際空港、港湾都市などの入管施設で監視を強化していたという。

オーストラリアから800人が海外に

今年5月にはオーストラリアのメディアが過去1年間に約800人のオーストラリア人性犯罪履歴者が海外に渡航しているとの報道が流れたこともあり、特にオーストラリアからの渡航者に目を光らせていたという。

インドネシアでは2016年2月にスマトラ島ブンクル州ルジャン・ルボン郡の村で14歳の中学2年生の少女が未成年を含む少年ら14人のグループに集団暴行を受けた後に殺害され、その遺体が裸で木に縛り付けられるという悲惨な事件が起きた。

こうした少年少女が犠牲となる事件を重視したジョコ・ウィドド大統領は自身のツイッターで「犯人を厳しく処罰し、子供と女性を守らなければならない」と厳罰化を支持、ただちに「未成年者保護のための性犯罪者への罰則強化」の大統領令を発した。

この大統領令に準じる形で国会の場で関連法案の厳罰化に関する審議が始まり、同年10月に未成年者が被害者となる性犯罪事件の厳罰化法案を賛成多数で可決。最低でも禁錮10年以上、ケースによっては薬物を使用した化学的去勢や被害者が死亡した場合などは死刑もありうる厳しい内容となった。

昨年、11人の少女に対する性犯罪で逮捕された70歳のオーストラリア人男性は裁判で禁固15年の実刑判決を受けている。



こうした厳罰化にも関わらず、今年上半期で100人以上がインドネシア入国を試みたとことが判明したことは関係当局に衝撃をあたえた。網の目を潜り抜けて入国した「小児性愛者」や「異常性愛者」も少なからずいるとみて、警察や入管当局が監視体制を強化している。

東南アジア全体での取り組み強化へ

インドネシアと並んで東南アジアで少年少女が犠牲となる性犯罪が多いのがフィリピンとカンボジアとされ、特にカンボジアは未成年幼女、少女売春で知られていた。首都プノンペンから北へ車で約30分、スワイパー村は1990年代には世界中の幼児・小児性愛者が集まり、時には10歳未満の少女、少年が5ドルから30ドルで売られていたという。そのスワイパー村も2000年頃から人権擁護団体が介入、カンボジア政府も本腰を入れて摘発に乗り出した結果、2003年には完全に悪名を返上したとされている。

2015年にはフィリピンで未成年少女とみだらな行為をしてそれを撮影していた横浜の市立中学校元校長が児童買春、ポルノ禁止法違反容疑に問われ、同年12月に横浜地裁で懲役2年、執行猶予4年(求刑・懲役2年)の有罪判決を言い渡されている。元校長は裁判の中で少女を含む約1万人以上とわいせつ行為、撮影に及んだという。

インドネシアでもジャワ島東部の都市スラバヤのドーリー、そして首都ジャカルタ北部のカリジョドなどのその名を知られた売春街がそれぞれの州知事の強い指導力で次々と閉鎖に追い込まれている。

それでもなお、これらの国には貧困から少年少女が売春をせざるを得ない環境が残っている。各国とも経済格差の早期解消が困難な現実を抱える中で、犯罪被害の意識や性病感染のリスクを深く考えられない幼児、未成年が金銭で自らの性的欲求を果たそうとする成人の被害者となっている。

こうした被害を少しでも減らそうとインドネシアが積極的に取り組んでいる「性犯罪を起こす可能性のある人物の水際での発見、入国を拒否する対策」は、フィリピンやカンボジアでも取り組みを本格化させようとしている。入国拒否者の情報は各国間での情報交換ネットワークで関係国に迅速に伝達され、東南アジア全体から締め出す方策がとられようとしている。

訂正)本文中「横浜市立高校校長」とあったのは、「横浜市立中学校校長」の誤りでした。

[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



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大塚智彦(PanAsiaNews)

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