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「共産党の闘争は文革の再演」

ニューズウィーク日本版 2017年8月4日 15時30分

<秋の党大会を前にした突然の次期トップ候補失脚は嵐の前兆か? 在米中国人評論家が語る「習近平独裁」の行方>

今年秋に19回目となる党大会を開く中国共産党が揺れている。その最大の震源は、ニューヨークに住む中国人富豪で、ツイッターと動画を使って連日、高官たちの腐敗情報を暴露している郭文貴(クオ・ウエンコイ)だ。

郭の最大のターゲットは、習近平(シー・チンピン)国家主席の盟友で反汚職運動の先頭に立つ共産党最高指導部の1人、王岐山(ワン・チーシャン)。王は暴露が始まった4月から約3カ月間、公の場から姿を消した。先日、中国のテレビでようやく「復活」したが、その姿はやつれ、以前の精彩をすっかり欠いていた。

党大会を前にした政治闘争の中心にいるのは、独裁体制を固めつつあるとされる習だ。国内政治だけでなく、外交的にも岐路に立つ「習近平の中国」はどこへ向かうのか。独自の中国政治分析で知られる在米政治評論家の陳破空(チェン・ポーコン)に、長岡義博・本誌編集長が聞いた。

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――郭文貴が共産党幹部のスキャンダルの暴露を続けている。どう評価するか。
中国にはこのような詩がある。「坑灰未冷山東乱 劉項原来不読書」。秦の始皇帝が「焚書坑儒」によって知識人を弾圧し支配を固めようとしたが、結局秦を倒したのは書物を読まない劉邦や項羽のような人物だった、という意味だ。

共産党は知識人である(反体制活動家の)劉暁波(リウ・シアオポー)を葬り去った。しかし、劉邦や項羽と同様に知識人ではない郭は、共産党にどう批判されても全く気にしない。そして高官批判を続け、その暴露情報は彼らを脅威にさらしている。この詩は中国の歴史の教訓だ。

――彼の暴露情報は秋の党大会に影響するか。
可能性はある。王は従来の観測どおり最高指導部に残留する、引退する、あるいは習と政治闘争を始める、という3つの可能性がある。いずれにせよ、党大会へ向けた「変数」が大きくなっている。

【参考記事】中国共産党のキングメーカー、貴州コネクションに注目せよ

――次期トップ候補の1人だった孫政才(スン・チョンツァイ)前重慶市党委員会書記の最近の失脚は、郭と関係があるのか。
郭がネットで孫の「政治的才能」を称賛した直後、孫は失脚した。もともと習と孫の関係は悪くなかったとされる。習に続く「第6世代」の指導者とみられた孫が失脚したのは、(独裁体制を固めようとする)習が後継者は不要だと考えるようになり、孫が恨みを抱くようになって、それを習に知られた......というのが1つの見立てだ。

習に恨みを抱くようになった孫の下に、習に反感を持つ政治家が集まるようになり、習がそれを疑った可能性もある。

こういった動きは文革を彷彿させる。毛沢東(マオ・ツォートン)にとって後継者は大問題だったが、最初に選んだ劉少奇(リウ・シャオチー)(国家主席)、林彪(リン・ピアオ)(国防相)をいずれも死に追いやった。習は最初の任期が終わらないうちに後継者問題を起こしている。それだけ権力闘争が激しくなっている。



――孫に代わって重慶市トップの座に就いた陳敏爾(チェン・ミンアル)は新たな後継者候補なのか。
習にはまだ後継者がいない。陳は4人いる腹心の1人にすぎない。

――今回、郭はアメリカで腐敗を告発している。5年前に中国国内で起きた薄煕来(ボー・シーライ)事件より影響力は限定的ではないか。ネット規制で簡単には国外の情報が国内に伝わらない。
いかに規制しようと、情報は中国国内に伝わる。実際、知識人はこの郭文貴事件に強い関心を寄せている。

最近、アリババのジャック・マー(馬雲)が所有する香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙が、習の腹心である栗戦書(リー・チャンシュー)(党中央弁公庁主任)の娘と娘婿の金銭スキャンダルを報じ、すぐに記事を削除した。これは、マーが習に対して「私を攻撃するな、すれば郭のように暴露情報を公開する」と警告した、とも読める。

【参考記事】焼身しか策がないチベット人の悲劇

――中国外交からも目が離せない。ドナルド・トランプの米大統領選勝利を予測できず、翻弄される習は「愚か」なのか。
習は愚かではない。彼はトランプを恐れつつも、リスクを冒してでも取引をしようとしている。彼が本当に恐れているのは、アメリカとロシアが連携すること、そしてアメリカと台湾が手を結ぶことだ。

72年、リチャード・ニクソン大統領訪中でアメリカは「聯中抗蘇(中国と連携してソ連に対抗する)」政策に舵を切り、そこでアメリカと台湾との外交関係はなくなった。しかし、トランプは政権をスタートしてから、ロシアとの連携、そして台湾との関係見直しという歴史をひっくり返す政策を打ち出した。

この2つの外交政策は習を驚かせた。ところが、トランプはロシアによる米大統領選介入疑惑で国内政治の身動きが取れず、対ロ関係を改善したくてもできない。そこで習はアメリカを訪問してトランプに近づき、極力譲歩・妥協した。

ただ、北朝鮮問題で中国は石炭以外の貿易制限に応じず、かえって貿易量は増えた。怒ったトランプは南シナ海で「航行の自由」作戦を実施し、中国国内で北朝鮮と取引のある銀行を対象にした経済制裁に踏み切った。習もまた、報復しようとしているのだ。

米中ロ3国の関係は非常に興味深い。まさに「三国志」と言っていい。

――近著『米中激突 戦争か取引か 』(邦訳・文春新書)で「習近平は北朝鮮を恐れている」とも主張している。
かつて漢は大国だったが北方の小国である匈奴を、また唐は西方の小国である吐蕃をそれぞれ恐れていた。宋はモンゴル民族に、明は満州族に滅ぼされた。現在の中国も北朝鮮に滅ぼされる可能性がある。核戦争は「先んずれば制す」。先に攻撃を仕掛ければ勝つことができる。

中国は大国であり、アメリカやロシアの目もあるから簡単には動けない。一方、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は暗に中国を指して「破局的結果を覚悟せよ」と警告した。つまり北朝鮮が中国に核の先制攻撃を行う可能性がある、ということだ。

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長岡義博(本誌編集長)

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