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トランプ政治集会の中で聞いた、「優しい」支持者たちの本音

ニューズウィーク日本版 2017年8月24日 6時33分

<メキシコと国境を接し、ヒスパニックが人口の約31%を占めるアリゾナ州で行われたトランプの政治集会。会場の外で反対派が抗議の声を上げるなか、支持者たちに交じって行列に並び、「なぜ支持するのか」を聞いた>

「CNN, sucks! CNN, sucks!(CNNは最悪!)」――大手メディアは自分が差別主義者であるかのようなフェイクニュースばかりを伝えているとドナルド・トランプ大統領が非難すると、アリゾナ州フェニックスのコンベンションセンターに集まった大勢のトランプ支持者が、CNNをこき下ろす大合唱を始めた。

8月22日夜(現地時間)、メキシコと国境を接する南西部アリゾナ州で行われた大規模な政治集会での出来事だ。

この日は、バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者と抗議者の間で衝突が起きて死傷者が出た事件から10日後。トランプが白人至上主義を断罪しなかったことから共和党議員からも非難が相次いでいる最中に、トランプに熱狂する人々が大挙する政治集会が行われる――。ニューヨークから取材に向かったのは、白人ではないヒスパニックが人口の約31%を占めるアリゾナ州だ。

トランプは選挙戦中からメキシコとの国境に壁を築くと言い続け、就任後すぐに不法移民を拘束して国外退去させるよう求める大統領令に署名した。さらに、集会が行われる州都フェニックスでは、「全米一タフな保安官」との悪名が高い元保安官のジョー・アルパイオが移民を集中的に標的にしたパトロールを繰り返したとして7月に有罪判決が下されていたところ、トランプが自分の熱狂的な支持者であるアルパイオに恩赦を与えることを示唆していた。

今回の取材では、トランプが日頃から「メディアが伝えない」と批判しているトランプ支持者側の声を掘り下げることが第一目的だったが、この状況では、白人至上主義者とそれに反対する人が再び衝突するかもしれない。そうならないことを祈りつつ、午前11時にコンベンションセンターに向かうと、午後7時からの集会まで8時間もあるというのに早くも赤い帽子や星条旗の柄の服に身を包んだ人たちが列を作っていた。

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「トランプも私も、人種差別主義者じゃない」

この日は、午前11時の時点で気温は37度。暴動も心配だが熱中症も心配だなと思いながら、列の最初のほうで椅子に座って涼んでいるトランプ支持者の白人女性に話しかけると、ロレッタ・キャバレル(42)は「カンザス州から18時間、1人で車を運転してきて午前2時に着いたら、ここで倒れちゃったの。それで、椅子を貸してもらった」と言う。

「救急隊員に病院に連れて行かれそうになったけど、拒否した。トランプに、私たちは今もあなたを支持していると伝えに来たんだもの」と、集会に駆けつけた理由を教えてくれた。

キャバレルに「今日の集会でトランプからどんな言葉を聞きたいか」と尋ねると、「アメリカを1つにするようなことを語ってほしい」と言う。「9.11でアメリカは団結したのに、今はバラバラになってしまったから」と。

「アメリカを分断する原因を作っているのはトランプだという見方もあるが」と聞くと、すぐに否定する答えが返ってきた。「トランプはレイシスト(人種差別主義者)ではない。私もレイシストじゃないわよ。夫はメキシコ人だしね」



カンザス州から18時間運転して、午前2時に着いたロレッタ・キャバレル Satoko Kogure-Newsweek Japan

キャバレルがトランプを支持する理由は明快だった。

――自分は「不法滞在の」移民に反対だ。夫の姪2人が3歳と4歳のときにメキシコからやって来て、10歳と11歳で彼女たちの両親が強制送還されると2人を自分たち夫婦の養子にして育ててきた。自分たちはすべて合法的な手続きをして、米国市民として多額の税金を納めている。夫の叔父はメキシコで、アメリカへの移民希望者リストに17年間も名前を載せて合法的に入国できる日を待っている。(ニュースで見た、トランプの大統領令を受けて今年2月に強制送還されたメキシコからの不法移民の女性は)社会保障番号を偽装していた。もし私が同じことをやったら、家族と離れ離れになることなんて誰にも気にされず刑務所送りにされるのに、なぜ不法移民だと保護せよと言うのか。トランプが国境に壁を作るというなら私は支持する。

そこまで語り、星条旗の柄にマニキュアを施した爪を突き出して「見て!」と笑った。キャバレルとは、「聞きたいことがあったら、いつでも電話してね」と言われて別れた。

「トランプは、ジーザスと同じ」

午後4時、スマートフォンが気温42度を表示するなか、私も集会に入るための長い列に並び始めた。ジリジリと照り付ける日差しで、肌が痛いほど暑い。

サウナの中にいるような息苦しさの中、トランプ支持者たちは巨大なコンベンションセンターを6ブロック分ほど取り囲む長蛇の列にどんどん加わっていく。思わず脱落したくなるほどの暑さに、支持者たちの熱さを肌で感じる。

熱狂的なトランプ支持者が大挙する集会で「ニューズウィーク」の肩書を名乗るのは、少し緊張する。トランプ支持者にとってニューズウィークは、「フェイクニュースを伝えるリベラルメディア」の一角を成す存在だ。

あとどれくらいで集会会場に入れるか分からないなか、周りの支持者にいつ取材を切り出そうかと思案していると(あまり早すぎると険悪になった場合に待ち時間が辛くなると思った)、後ろに並んでいたヒスパニック系の女性に「どこのメディアなの?」と笑顔で話しかけられた。メモとペンを片手に持ち、赤いトランプ帽ではなく(熱中症予防に買った)「ARIZONA」と書かれた黒いキャップをかぶっているアジア人は、列の中ではかなり浮いた存在だ。

バレてしまった、と思いつつ、「リベラリズムは心の病気だ!」と書かれたプラカードを持った少年が通り過ぎるのを待ってから、話しかけてきたセリア・ゴンザレス(51)に所属を明かして取材を始めた。周りのトランプ支持者たちは、「ニューズウィーク」と言うと一様に顔をひきつらせるが、「日本語で発売している日本版だ」と付け加えるとかなり和む。

トランプの熱狂的な支持者だというゴンザレスは、フェニックスから東に車で30分ほどの都市メサから来ていた。セラピストであり、6歳のときにメキシコから来た移民だという。

ヒスパニックがトランプを支持する――これは、2016年の大統領選で想定外の「サプライズ」の1つだった。

アリゾナ州は1952年以降の大統領選で、96年にビル・クリントンが勝利した以外は共和党が赤に染めてきた"レッドステート"だ。それでも、ヒスパニックの人口が州の約31%を占めるなか、メキシコからの移民を「犯罪者」や「レイプ魔」と呼ぶトランプは苦戦するのではないか。そんな事前の予想を覆し、トランプは約49%の得票率で勝利し(ヒラリー・クリントンは約45%)、ピュー・リサーチセンターの調査では同州のヒスパニック票の28%を獲得していた(クリントンは66%)。ヒスパニックの有権者の4人に1人以上が、トランプに入れたことになる。

【参考記事】元大手銀行重役「それでも私はトランプに投票する」



「どこのメディアなの?」と笑顔で話しかけてきたセリア・ゴンザレス Satoko Kogure-Newsweek Japan

ゴンザレスにトランプを支持する理由を聞くと、「謙虚で、正直で、本心の言葉を話してくれるところ」だと言う。移民を集中的に摘発した「全米一タフな保安官」のアルパイオのことは嫌いだし、強制送還されるのはドラッグと家庭内暴力(DV)をする移民だけでいいと思う。でも......と言って、こちらに「あなたはどの神を信じているの?」と聞いてきた。

無宗教だと答えると、「トランプは、ジーザスと同じ。私たちを、外国も含めてあらゆる脅威から救ってくれる」と彼女は続けた。

ゴンザレスには政策面でトランプの何を支持するのかと何度か聞いたが、明確な答えはついに得られなかった。だが彼女はとても好意的で、終始にこやかで、持参した扇子でこちらを扇いでくれたりする。トランプに心酔しているようだが、レイシストには見えない。

「CNN、最悪!」「あいつらは嘘つきだ!」

並び始めてから2時間、やっとコンベンションセンターの入り口が見えてきた。入り口の反対側を見ると、道を挟んだフェンスの向こう側に大勢のデモ隊が詰めかけている。トランプはもちろん、白人至上主義やナチスなどあらゆる差別に反対する抗議者たちだ。抗議の嵐が始まり、集会場に入っていく私たちに憎悪の目と罵倒の声をぶつけてくる。

私は今までに経験したことのない恐怖を覚えたが、トランプ支持者たちは言い返すことなく淡々と歩を進める。ゴンザレスに「怖くない? レイシストと言われてどう思う?」と聞くと、「彼らは誤解しているだけ。誰かが真実を教えてあげないとね。それに、こちらが邪魔しなければ何もしてこないわよ」という答えだった。

集会会場前に大挙して怒号をあげるデモ隊 Satoko Kogure-Newsweek Japan

午後6時、やっと集会会場に入ると、そこにはトランプ支持者たちの「安全地帯」が広がっていた。憎悪の目と罵倒の声から逃れて、ホッとしている自分がいる。ゴンザレスは相変わらず優しくて、並んでいる間に友達になったらしい支持者のグループに私を入れてくれようとする。

会場内を見渡すと、白人とヒスパニックばかり。黒人とアジア系はほぼ皆無という状況で、私をステージ裏手のトランプが見える場所に誘導してくれた。

トランプの入場を待つ間、前に立っていた白人男性のビル・ウェーレン(62)に話しかけた。フェニックス郊外のグランデールから来た元警察官だという。ウェーレンがトランプを支持するのは、職業上の経験が理由だ。警察官は法を順守することが職務であり、不法移民は法を犯しているのだから取り締まって当然だとサラリと言う。

私が、「でも、この会場の外にいる人たちはそれをレイシストと呼ぶかもしれない」と言うと、「私がレイシストに見えるか? ばかげている。私の家族には、黒人もいればアジア人もいる。人種というのは、私にとっては何の意味も持たない」と一蹴された。

「白人至上主義者」や「KKK(クー・ クラックス・クラン)」、「ネオナチ」を面と向かって公言する人にはついに出会わないまま始まったトランプの政治集会(出会わなかっただけで、そうした人たちがいた可能性はある。会場の外には、イスラム教徒に差別的なプラカードを掲げる人がいた)。マイク・ペンス副大統領に続いて午後7時過ぎにトランプが登場すると、会場内はこの日一番の熱風に包まれた。

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鳴りやまない「トランプ!トランプ!」の大合唱に、「USA!」コール。1時間以上に及ぶスピーチで、トランプは「大統領候補」だったときのようなトランプ節を繰り広げた。メキシコ国境に壁を作ると言い、人種差別的な取り締まりで有罪判決を受けた元保安官アルパイオへの恩赦を示唆し、シャーロッツビルの衝突事件に対する自分の対応を擁護しながら、リベラルメディアはフェイクニュースばかりを流していると主張した。

トランプが語りかけるたびに、支持者たちは「CNN、最悪!」「あいつらは嘘つきだ!」と盛り上がる。その一方で、身長が低い私にトランプが見える位置まで場所を譲ってくれたりする。

今日のトランプのスピーチは、支持者から見れば「すべて真っ当」な言い分であり、支持しない人から見れば「大統領でありながら国家をますます分断するような発言」の連続だった。こうした見解の相違は、会場の外に一歩出ると体を張った対立へとエスカレートしていた。

「ラブの力でみんなを1つにできないかな」

外に出ると、トランプ支持者たちを待ち構えていた抗議者たちに囲まれた。総動員された警官や州兵が壁となってバリケードを作るなか、一触即発の状態があちこちで生まれていく。

私の目の前で、「ノーKKK、ノー人種差別のアメリカ、ノートランプ!」と合唱する若い女性たちに、トランプ支持者の白人男性が近づいていく。

「俺はKKKもナチスも支持しない。それでもトランプ支持者は全員レイシストだっていうのか?」と冷静に話をしようとする男性に対して、女性たちは「トランプを支持している限りレイシストだ!」と中指を立て、それでも話を続けようとする男性に叫び続けた。ここでは、抗議者の側が聞く耳を持たず、言葉の上では抗議者のほうが攻撃的に見える状況が繰り広げられていた。



ふと隣を見ると、この光景を見ていたメキシコ人のヘレナ・セッセーナ(21)が「どちらの側も、同じくらい熱心なだけなのに」と悲しそうな目をしていた。「政治上の意見の相違なんて、小さなこと。ヒッピーみたいな考えかもしれないけど、ラブの力でみんなを1つにできないかな」

メキシコからの合法的な移民だが、市民権は取得できていないヘレナ・セッセーナ Satoko Kogure-Newsweek Japan

おそらくもう、「小さなこと」にできる地点はどちらの側も通り過ぎてしまったのだろう。帰り道、すれ違う人々にハイタッチを求めていたトランプ支持者の男性はこう言った。「ラブのサインを掲げている人たちは、俺とは握手しないぜ」

ホテルに戻ってCNNをつけると、キャスターと保守派のコメンテーターが集会への感想として真逆の見解を怒鳴り合って収拾がつかなくなっていた。しばらくすると、テレビの画面はコンベンションセンター前で抗議者と警察が対立し、警察側が催涙弾を使う様子を伝え始めた。外の気温は夜10時の時点で35度。アメリカを蝕む熱風は、しばらく冷めやりそうにない。


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小暮聡子(アリゾナ州フェニックス)

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