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アルカイダとISISの近くて遠すぎる関係

ニューズウィーク日本版 2017年8月25日 17時20分

<国際テロ組織の勢力図が変わり、ISISが追い込まれても「ジハード連合」は生まれない>

ここ1年でテロ組織ISIS(自称イスラム国)が支配地域を大幅に失っていることは、イスラム教スンニ派のジハーディズム(聖戦思想)にどのような影響を与えるだろうか。

ISISの「ブランド力」は一気に低下するだろう。それに乗じて、国際テロ組織アルカイダが自分たちこそジハードの旗手だと勝利宣言をするか、あるいはジハードの枠組みを存続させるためにISISと手を組むとの予測が、繰り返し語られている。

しかし、ISISの壊滅作戦が進むなか、アルカイダの勝利宣言も、「ジハード連合」の結成も、実際に起こりそうな気配はない。

【参考記事】香港のインドネシア人メイドたちが「ISISの過激思想に感化されている」

まず、アルカイダが再び先頭に立つという予測は、彼らがいまだに強い組織であり、情勢の変化に対応して生き延びられるという前提に立っている。周到な戦略で人々の支持を集め、地域の戦闘を自分たちに有利に運ぶことができるというわけだ。

しかし、本当にそうだろうか。確かにアルカイダは、北アフリカからインドまで関連組織のネットワークに対し、一定の支配力を維持している。だが、昨年夏にスンニ派武装勢力のアルヌスラ戦線(現シリア解放機構)を失ったことは、イデオロギー同盟の限界を象徴している。

同盟関係にある組織の中でも最強とされていたアルヌスラ戦線が、16年7月にアルカイダとの関係解消を宣言した際は、多くの人が策略の一部だと考えた。しかし後に、アルカイダの最高幹部アイマン・アル・ザワヒリがこの件で相談を受けておらず、承認もしていないことが明らかになった。



その2年前には、ISISの前身であるアルカイダ系スンニ派武装組織のISI(イラク・イスラム国)が、厳格なカリフ制のイスラム国家樹立を宣言した。アルカイダに聡明な長期戦略があるとは思えない。

さらに、アルカイダ自身のテロ遂行能力は明らかに低下している。ザワヒリは頻繁に声明を出し、欧米諸国への攻撃が最優先の使命だと宣言している。しかし、アルカイダが最後に欧米を攻撃したのは何年も前のこと。イギリスなどで相次いだ大規模なテロを見ても、手負いのISISのほうが、今もはるかに遂行能力は高い。

続いて、ジハードを掲げる2つのテロ組織が違いを乗り越えて手を組むことは、アルカイダの勝利宣言以上に実現が難しい。ISISとアルカイダの間に渦巻く憎悪は相当なものだ。

【参考記事】ポストISIS戦略に残る不安

アルカイダの忠実な信奉者は、ISISのゲリラ兵を「過激主義」「ハワーリジュ派(離脱者)」「タクフィール(背信者)」と罵倒する。対するISISは、アルカイダのメンバーを「ジハードのユダヤ人」、異端のタリバンを率いる「スーフィー派(イスラム神秘主義)」とさげすむ。

両者の亀裂に橋を架けることは不可能だ。つい最近のいがみ合いに思えるかもしれないが、ジハードをめぐる神学的および戦略的な違いに根差す数十年来の対立なのだ。

ISIの時代から10年以上、組織を変え名前を変えてきたISISは、末期的な状態とはいえ、ほぼ確実に生き延びるだろう。アルカイダとISIS――どちらかが相手を吸収して一つになることも、敵対しつつ連携を探ることも、まずなさそうだ。

From Foreign Policy Magazine


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[2017.8. 1号掲載]
コール・ブンゼル

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