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「ネットうつ」に責任感じた?グーグルが「自己診断ツール」提供

ニューズウィーク日本版 2017年8月25日 18時40分

<受診が遅れたせいで最悪の結果を招くこともあるうつ病について、米グーグルが9つの質問に答えるたけで誰でも自己診断できるツールを用意する。ネットを使った「素人診断」でうつ病になる現代病「サイバーコンドリア」も防げそうだ>

米グーグルのユーザーは、今後はいつでも簡単にうつ病の自己診断ができる。「うつ病(depression)」や「臨床的うつ病(clinical depression)」というキーワードを入力して検索すれば、1ページ目の最上部にPHQ-9テストという自己診断ツールが表示される。ユーザーは9つの質問に答えるだけでメンタルヘルスを自己測定し、典型的なうつ症状の有無を確認できるのだ。

「グーグル上で自己診断ツールを利用できるようにすることで、より多くの人がうつ病に対する意識を高め、生活の質を改善するための治療に積極的に取り組んでほしい」と、精神疾患の患者と家族を支援する米非営利団体ナショナル・アライアンス・オン・メンタル・イルネス(NAMI)のメアリー・ギリベルチ最高経営責任者はグーグルのホームページで声明を発表した。NAMIはグーグルの取り組みに協力している。

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PHQ-9は、一般的に初期のうつ病チェックに利用され、うつ症状の有無を比較的正確に診断できる。グーグルが最終的に期待する効果は、この自己診断ツールを通じてより多くの人が医療機関を受診するよう後押しすること。NAMIは声明で、「PHQ-9の結果を知れば、患者は医師とより踏み込んだ会話ができるようになる」と述べた。

受診を遅らせて自殺も

米国立精神衛生研究所(NIMH)によれば、2015年に少なくとも1つ以上のうつ症状を患ったとされるアメリカ人は、全体の約6.7%。うつ病になると、不安が増す、無感情になる、日常的な活動に関心を持てなくなる、集中力の維持が難しくなる、気分の浮き沈みが起きる、といった症状が出る。食欲の減退や増進、全身の痛み、体重の減少や増加など、身体的症状が出る場合もある。臨床的うつ病の患者の多くは、不眠や異常な眠気といった睡眠障害も併発する。

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残念ながら、自分はうつ病ではないかと疑う人の半数しか、医療機関を受診しない。うつ症状のある人は、実際に受診するまで6~8年も疾患を放置することも統計で分かっている。そのせいで患者は健康面で大きな犠牲を払い、家庭とのいさかいや失業、自傷、自殺など、深刻な結果を引き起こす恐れもある。NIMHによれば、アメリカの25~34歳の若年層の死因は、1位の事故及び怪我に続き、自殺が2位だ。



一方で、今では多数の研究者が、ひっきりなしにグーグル検索をする行為が、メンタルヘルス悪化の一因になる可能性を指摘している。

中でも特に悪いのは、健康関連の情報を検索することだという。この現代病は「サイバーコンドリア」として知られる。1990年代前半に登場した造語で、体調が悪くなるとインターネットで検索し、素人判断する行為だ。アメリカ医療情報学会(AMIA)の年次大会で発表された研究によれば、症状をグーグルで検索した後に不安感が増したと回答した人の割合は、5人に2人だった。

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テクノロジーがうつ病の原因になるのは、グーグルを使った素人判断だけではない。パソコンやスマートフォンの画面を見過ぎるだけで心の病気を発症しやすくなり、特に不安感や憂鬱が増すという研究はたくさある。ソーシャルメディアの使い過ぎが、ユーザーの孤立感や深める原因だとする研究結果も多い。学術誌「コンピューターズ・イン・ヒューマン・ビヘイビア」に掲載された研究によれば、SNSをほとんど利用しない(0~2種類)グループに比べ、最もよく利用する(7~11種類)グループは、うつ病を発症し不安感を抱くリスクが3倍以上高かった(うつ病は3.08倍、不安感は3.27倍)。

医師より素人診断を好む

学術誌「アーカイブス・オブ・ペディアトリックス・アンド・アドレッセント・メディシン」に掲載された、10代の若者1000人以上を対象にした研究では、インターネットを使い過ぎる若者はそうでない若者よりも、うつ病を発症する可能性が約2.5倍高かった。

ネット検索が便利になったことで素人判断に頼る人が増えたとみられるが、専門知識の裏付けをもつ自己診断ツールの利用が広がれば、多くの人が救われるかもしれない。うつ病のように未だ受診を恥じる傾向が強いメンタルヘルス問題であればなおさらだ。

(翻訳:河原里香)

ジェシカ・ファーガー

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