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ヒューストン豪雨災害に見る、「線状降水帯」の恐ろしさ - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年8月29日 16時15分

<大都市ヒューストンに洪水被害をもたらしたのは今年日本の九州北部に豪雨災害を引き起こしたのと同じ「線状降水帯」。局所的な豪雨が発生するため避難措置を取るのが難しい>

メキシコ湾を発達しながら西北へ向かっていたハリケーン「ハービー」は、現地時間の8月25日(金)にテキサス州のコーパスクリスティ付近に上陸しました。ところが、今回の「ハービー」による深刻な被害は、このコーパスクリスティではなく、そこから北東へ200キロ離れた巨大都市ヒューストンで起きたのです。

ヒューストンは、この「ハービー」に直撃されたわけではありません。ですが、近郊を含めた広域圏では500万人という大きな人口を抱えた地域に、ハリケーンに伴って発生した線状降水帯が居座ったのです。そこに、水温摂氏30度のメキシコ湾から、連続的に水蒸気が送り込まれるメカニズムが働き、降水量は累計で700ミリ近くになりました。

問題は、「いったん止んだ豪雨が再び襲う危険」です。一旦はアメリカに上陸して熱帯低気圧になった「ハービー」ですが、大陸の高気圧に押し返される格好で、メキシコ湾に戻り、海水温の水蒸気と上昇気流がエネルギーを供給しているのです。ですから、今後のコースによっては、ヒューストン都市圏を直撃するか、あるいは再度強力な線状降水帯がヒューストンを襲う可能性もあります。

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こうした事態を受けて、ヒューストンでは冠水した住宅地に多くのボートを繰り出して、各住宅の二階に取り残された人はいないか、確認と救助の作業が続いています。同市のシルベスタ・ターナー市長は、「高い義務感に支えられたボランティアが活動し、続々と被災者が救助されている」としています。

その一方でターナー市長に対して、「どうして強制避難命令が出せなかったのか?」という批判も出ています。これに対して市長は、「まず、ヒューストンはハリケーンの進路から大きく外れていたので、直撃コース上にあったコーパスクリスティと違って、先週木曜の時点では避難命令は出せなかった」。その後、豪雨の予報が出たときには、「対象となる600万人を移動させるには、もう時間の余裕がなかった。」つまり、巨大な交通渋滞を起こしたまま豪雨で被災したら最悪の事態になっていたという反論をしています。

ここで思い起こされるのが、同じように線状降水帯によって今年日本で甚大な被害があった「九州北部豪雨」であり、また3年前の「豪雨による広島市の土砂災害」です。九州北部豪雨では、福岡県の朝倉市、大分県日田市などで、広島市の土砂災害では安佐北区、安佐南区で共に土砂災害によって深刻な被害が出ました。

今回のヒューストンの場合は、平地に大量の雨が降って洪水となり、多くの家屋や建物が浸水すると同時に、道路も浸水して交通網が寸断され都市機能が完全に麻痺しています。一方で、九州や広島の場合は主として山間部や、山が平野に迫る場所での土砂災害でした。ですから双方の被害の形態には違いがあります。



ですが、その原因が「線状降水帯」という点では共通しています。細い帯状に積乱雲が連なって次々に移動する現象です。結果的に、限定された地域で長時間に渡って連続して大量の降水量を記録することになります。大変に恐ろしい現象です。

恐ろしいというのは、実際に線状降水帯に襲われて豪雨の被害が発生する恐ろしさということもありますが、同時に、少し離れた場所では降水量は限定的だったりするため、深刻な被害を受ける地域がなかなか特定できないという問題があるからです。

今回の「ハービー」が典型的な例ですが、雨雲レーダーの画像によれば、ハリケーンを取り囲む大きな「渦巻きの腕のようなもの」が何本か発生しています。そして、ヒューストンにかかった「腕」は直径が500キロ近くある外周円で、部分的にはほとんど直線が南北に連なった形を形成していました。ですから、その「腕」が通っている部分は激しい雨が続き、その東西に外れた地域では降雨はそんなに深刻ではないという差が生じていました。

そこで何が問題かというと、ハリケーンや台風、あるいは低気圧による「線状降水帯の発生」が予測できたとしても、その「帯がどこを通るのか?」という詳しい予報は、実際に雲が形成されないと分からないことです。

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ですから、仮に「線状降水帯による集中豪雨の危険がある」ことを、物理的に避難が可能になるリードタイムを計算して指摘し、危険のある地域の強制避難勧告を出した場合に、「それが外れる可能性もある」ことになります。

避難勧告を出しておいて、それが外れると「結果オーライで良かった」ではなく「予想が外れてムダな避難をさせられた」という批判が出てしまうのは、アメリカでも同じです。相当に早期に整然と避難が可能になるカルチャーがある一方で、「豪雨直撃の確率が40%とか60%」というレベルでの避難勧告はそう簡単に出しづらいのです。

ヒューストンに関しては、まだ被害が現在進行形であって、もしかすると再度の豪雨被害が発生するかもしれない危険な状況です。ですが、この「線状降水帯」による被災という問題は、どこかできちんと考えておかねばならないように思います。一つの考え方は、確率が40%程度でも避難勧告を出せる体制づくりということであり、同時に、予報が外れて被害が回避できた場合でも、「ムダになった避難のコスト」が洪水保険等で弁済される仕組みを考えることだと思います。

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