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バルセロナ自動車テロを回避する方法はあった

ニューズウィーク日本版 2017年9月2日 11時10分

<社会的に孤立した若者が、過激な宗教指導者に感化され、ジハーディストになる3つの理由と3つの防止策>

スペイン北東部バルセロナなどで8月17~18日に起きたイスラム過激派のジハーディスト(聖戦士)によるテロ事件は、死者15人、負傷者130人の大惨事となった。その直後にテロ組織ISIS(自称イスラム国)が犯行声明を出したが、この事件はテロ対策の専門家が警告してきた「感化型ジハーディスト」によるテロ攻撃の典型だ。

テロ組織とのつながりが薄い人間が犯行に走る「テロの脅威の拡散」は、皮肉にも過去15~20年間の組織テロ対策の成果の表れとも言え、感化型テロという新たな問題がかえって深刻化している。スペインのテロ対策部門は優秀との評判だが、今回の事件を事前には察知できなかった。

このような感化型ジハーディストはなぜ次々に生まれるのか。理由は大きく分けて3つある。

第1に、感化型ジハーディストの集団には明確な組織構造がない。例えば、今回の事件では4人の容疑者が逮捕されたが、「テロ・ネットワーク」には何の影響もない。それ自体が、容疑者たちの間で共有されている概念にすぎないからだ。

現在のジハーディストによるテロの主体は、分散した人的ネットワークだ。ほとんどの場合、彼らは感受性の強い、社会的に孤立した若者たち。サッカーチームや家族、あるいはモスク(イスラム礼拝所)の集まりのような社会集団に属しているが、ある時点で狡猾なカリスマ的人物に感化され、過激化する。

バルセロナの事件でカリスマ役を果たしたのは、アブデルバキ・エス・サティという40代の過激派イスラム教指導者だったようだ。この人物はバルセロナの事件の直前、爆弾製造中の爆発事故で死亡した。

第2に、ジハーディストは痛みを伴う社会変化の副産物だ。グローバル化の波には誰も逆らえない。急激な変化にさらされた社会のごく一部は、暴力による浄化に訴えて、古いもの、つまり彼らにとっての「本物」の世界を守ろうとする。

【参考記事】アルカイダとISISの近くて遠すぎる関係

信仰のために他者を殺す

第3に、人類同士の争いと殺戮の根底には、絶対主義的な宗教上の信念があることが多い。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、いずれも中東に生まれた一神教であり、「他者」の殺害を正当化したり、時には強要する傾向があった。

ユダヤ教とキリスト教は、今では殺人につながる絶対主義を否定している。だがイスラム教だけは今も神の教えと、植民地主義やグローバル化がもたらす文化の破壊、現代世界の相対主義と意見の多様性、科学技術の融合に苦しんでいる。バルセロナの事件の若者たちは、信仰を守るためには他者を殺さなくてはならないと考えた。



このような感化型ジハーディストの脅威は、いくつかの対策によってかなり減らせそうだ。

まず、危険な集団についての地域社会の情報に注目すること。多くの場合、地域を巡回する警官は誰がカリスマなのか、若者をジハーディストに変える恐れがあるのかを突き止めることができる。また、感化型ジハーディストになる前兆として、急に「敬虔」になった個人を特定することもできる。

【参考記事】ISISが生んだ新時代の伝播型テロ

第2に、伝統的な権威や慣習がグローバル化によって崩壊しつつある今、基礎的な教育(特に女子教育)、経済改革、法律の厳格な適用に力を入れること。貧困と腐敗が必ずしもテロリストを育てるわけではないが、社会の混乱を緩和し、あらゆる人間を受け入れる社会のつながりを強化することは、罪なき人々を殺害する「感化型」テロリストになる若者を徐々に、だが確実に減らすはずだ。

そして最後に、テロリストの追跡はひっそりと進め、必要な場合は人知れず殺害すべきだ。神を否定する社会や顔の見えない権力と戦うある種の「英雄」にしてはならない。

現在の多様化したメディアの関心をテロの恐怖からそらし続けるのは容易ではない。だが、テロリストが世間の注目を浴びれば浴びるほど、テロ攻撃は起きやすくなる。


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[2017.9. 5号掲載]
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA諜報員)

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