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英国議会のテロ、密かに行われた訓練の直後に事件が発生していた

ニューズウィーク日本版 2017年9月4日 16時45分

<今年3月、ロンドンの国会議事堂近くのテロ事件で歩行者ら5人が死亡したが、その直前、国会議事堂を標的にしたテロを想定した訓練が密かに行われ、分析の結果、5分で議会に侵入でき、100人以上の議員が犠牲になると指摘されていたことが明らかになった>

下院議員100人以上が5分以内に殺される!?

イギリスでは2017年、テロ攻撃が相次いでいる。しかし一連のテロ攻撃発生前の3月の時点で、英国国会議事堂(ウェストミンスター宮殿)を標的にしたテロとの想定で実は密かに訓練が行われていた。この時の分析結果が最近になって明らかになったのだが、警備上の欠陥が指摘されている。というのも、テロリストはものの5分もしないうちに議会に侵入でき、100人以上の下院(庶民院)議員が犠牲になるだろうとのショッキングな内容だったのだ。

英紙サンデー・テレグラフによると、訓練は国会が休会中だった時期の夜間、極秘に行われた。複数の警察官が過激派役としてボートに乗り込み、テムズ川から議会に侵入するという筋書きだった。議会に入り込んだ犯人役はその後、廊下から下院本会議場へと進むことができたという。さらにシミュレーションの結果、そこにいた下院議員100人以上が殺害される「大虐殺」になっていただろう、と分析では結論づけている。

同紙は、多くの議員がこの結果を聞かされていなかったとし、詳細を知ってショックを受けているという数人の議員の生々しい声を伝えている。「なんてこった、もし私たちがいるところだったら...それに会期中だって起こり得る。そんなことになったら国民は恐怖におののくだろう」と発言した人や、「安全じゃない。私たちはまるで議会に座っている無防備な標的だ」と表現した議員などがいた。

訓練の直後にテロ発生か

サンデー・テレグラフはこの「極秘訓練」が3月のいつ行われたものなのか明記していないのだが、3月19日にはテムズ川で大々的なテロ訓練が実施されている。19日は日曜日で、しかも観光客も多くいるであろう午前11時に行われており、報道陣も詰め掛けた模様だ。ガーディアンは記事の中で映像も公開している。武装警察官200人以上が参加し、ロンドンの観光名所でもあるテムズ川の遊覧船からテロリストが攻撃するというシナリオだった。

サンデー・テレグラフが報じた極秘訓練と時期や内容(3月にテムズ川からボートでという筋書き)が類似しているので、同じ時期に行われたものである可能性もある。いずれにせよ、ウェストミンスター橋およびウェストミンスター宮殿(国会議事堂)で発生し死者6人を出したテロ事件は、テムズ川での公開訓練のわずか3日後のことだった。

3月22日、テムズ川にかかるウェストミンスター橋で車を暴走させ人をなぎ倒した犯人は、その後刃物を持ってウェストミンスター宮殿に向かった。このテロ攻撃で警備中の警察官を含め5人が犠牲となり、49人が負傷した。



議会のセキュリティ見直しは実施済み

この事件を受けてウェストミンスター宮殿のセキュリティの見直しが行われ、前述のサンデー・テレグラフや英紙インディペンデントによると、「テムズ川から議会にボートで近づけないようバリアの設置」、「テムズ川からの入り口に武装した警備員を配置」、「高さ1メートル足らずの境界フェンスは乗り越えられるため危険」、「ホログラムを掲載した新しい入館証1万5000枚以上を再発行」などが7月、指摘・提案された。

国会議事堂のセキュリティに関する一連の報道を受け、英国議会は、報道官の発言として公式ウェブサイトに次のような声明を発表している。

「議会にとって、議員や職員、訪問者の身の安全の確保が最優先事項です。議事堂のセキュリティについて具体的に述べることはできませんが、警察や警備機関などと密に協力し、議会が直面する安全上のリスクに対応できる、効果的な安全対策とするよう取り組んでいます。また、安全対策の見直しは常に行っています」

3月にウェストミンスター橋で起こったテロ事件の他にも、英国では今年、複数のテロが発生している。5月には、マンチェスターで行われたアリアナ・グランデのコンサート会場で自爆テロが発生、23人が死亡した。6月にはロンドン橋でバンと刃物によるテロ攻撃が発生し8人が犠牲になった。また8月25日には、刀を持った男が車でバッキンガム宮殿外に乗り付け、テロ未遂で逮捕されている。


松丸さとみ

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