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アメリカ版「七光」政治家にも、建国の理念は揺るがない

ニューズウィーク日本版 2017年9月27日 11時0分

<親族が有力政治家だった候補者は選挙で有利な面も多いが、時に輝かしい「名字」に足を引っ張られる場合も>

私は大学の学生たちに、アメリカの政治システムにおいて最も重要な文書は、1776年の独立宣言だと教えている。その1つの理由が、「全ての人間は生まれながらにして平等である」という一節だ。

奴隷制という深刻な矛盾を忘れるべきではないが、ほかの多くの国が家系やカーストに拘泥していたなかで、「機会の平等」の理念は異彩を放つものだった。全ての人が社会に貢献し、自らの人生について決定し、政治に参加できる国では、繁栄と安定が実現する。

ハリウッド映画にもしばしば描かれてきたように、アメリカは、誰でも成功できる可能性がある「アメリカン・ドリーム」の国として知られてきた。この点は、国のトップである歴代の大統領に最もよく表れている。

現大統領のドナルド・トランプこそ裕福な家庭の出身だが、バラク・オバマ、ビル・クリントン、ロナルド・レーガン、ジミー・カーター、リチャード・ニクソン、リンドン・ジョンソンはいずれも中流階級(もしくは「中の下」)の出身だ。

国政で目覚ましい活躍をした親族もいない。1940年代以降の大統領の中では、父親(ジョージ・H・W・ブッシュ)が大統領だったジョージ・W・ブッシュだけが例外だ。

人気を「相続」できる?

ジョン・F・ケネディは確かに名門一族の出身だったが、家系の恩恵に浴したというより、自身が「ケネディ王朝」の創始者という面が大きい。ジョン以降、ケネディ家の人間が何人も連邦議員や大使を務めている。

現在、上下両院の定数535議席のうち、親も連邦議員だった議員は20人。議員に占める女性議員の割合は極めて小さいが、死亡した父親や夫の後を継いで議員になった女性はこれまでに45人に上っている。大統領の座にあと一歩まで迫った唯一の女性政治家であるヒラリー・クリントンも元大統領夫人だ。

選挙を戦う政治家にとって、政治一族の出身であることが強みになるのは間違いない。知名度、資金集め、選挙運動の組織という、3つの重要な要素で恵まれた立場に立てる。

特に政界進出後間もない時期は、親やきょうだいの人気をそのまま「相続」できる場合が多い。有権者は、一族の新しい候補者を同族の元政治家と同一人物と思い込むケースもある。ある研究によると、ジョージ・W・ブッシュがテキサス州知事選と大統領選に初めて出馬したとき、相当な数の有権者が父親と混同していたという。



しかし、親族に有名政治家がいることは、時に選挙で不利に作用する場合もある。16年の大統領選で敗れた2人の候補者はその落とし穴にはまったのかもしれない。共和党候補者指名レースで敗退したジェブ・ブッシュと、本選挙で敗れたヒラリー・クリントンは「名字」に足を引っ張られた可能性がある。

ジョージ・W・ブッシュの弟であるジェブは、名字がブッシュでなくジョンソンだったら、共和党の候補者指名を獲得できる可能性がもっと高かっただろう。既成政治の打破を看板に選挙を戦ったトランプに対し、ジェブは兄と自分をうまく切り離すことができなかった。実際には兄とはかなり違うタイプの政治家だったのだが、有権者には「第2のジョージ・W・ブッシュ」と思われてしまったのだ。

ヒラリーも同じだ。選挙の出口調査の結果を見ると、名前がヒラリー・クリントンではなくヒラリー・スミスだったら、もっと票が集まった可能性がある。トランプは、夫の大統領時代の政策や行動を理由にしばしばヒラリーを攻撃した。「チェンジ」を求めていた有権者も、「クリントン大統領」という響きに新鮮味を感じなかったようだ。

アメリカ国民は、名門政治一族の名字を持っているというだけの理由で候補者を支持することはない。時には、それが逆風になる場合すらある。

貴族制にきっぱりとノーを突き付けた独立宣言の精神は、21世紀の今日もアメリカで生きているらしい。


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[2017.9.26号掲載]
サム・ポトリッキオ(本誌コラムニスト)

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