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受験地獄は過去の遺物、今や合格率93%の「大学全入時代」

ニューズウィーク日本版 2017年10月5日 15時0分

<18歳人口の減少で日本は大学合格率が93.3%の「大学全入時代」。予備校に続いて淘汰が進む大学では、今後役割の転換が求められる>

「四当五落」という言葉がある。4時間しか寝ない受験生は試験に受かるが、5時間寝る者は試験に落ちるという格言だ。大学受験の時、これを合言葉に勉学に励んだ人も多いだろう。

受験地獄とはよく言ったものだが、大学受験に関係して悲惨な事件も過去に起きている。1980年11月29日、20歳の男子予備校生が金属バットで両親を殴り殺す事件が起きた。浪人生活2年目の加害者が、金銭の使い込みや飲酒をとがめられて逆上したのだ。

この加害者は犯行時、浪人生活2年目だったので、79年(現役時)と80年(1浪目)の受験に失敗していることになる。統計によると、79年春の大学入学志願者は約64万人で、大学入学者は41万人ほどだから、差し引き23万人が不合格だったことになる。不合格率は36%で、この事件の加害者もその1人だった。

これは40年近く前の話だが、今の状況はかなり変化している。大学入学志願者と入学者の統計をつなぎ合わせて、大学受験の激しさの変化が分かる図を作ってみた<図1>。合格者は入学者を指し、不合格者は志願者と入学者の差分に当たる。



赤色の不合格率が,競争の激しさの尺度になる。このカーブをみると,60年代後半と80年代末~90年代初頭が激戦だったようだ(4割超)。量的に多い団塊世代と団塊ジュニア世才が受験期(18歳)に達した頃だ。90年の受験では、志願者の44.5%が不合格になっている。

90年代以降は少子化により入学志願者の絶対数が減少し、競争が緩和されてくる。不合格率は急降下し、2015年には6.7%にまで下がっている。裏返すと合格率は93.3%、大学全入時代が到来しつつある。



こうした状況の中、受験生を顧客とする予備校産業は苦境に立たされている。<表1>は、90年代以降の予備校生徒数の推移をみたものだ。予備校とは、受験・補修を行う専修学校と予備校という学科分類の各種学校の両方を指す。



予備校の生徒数は90年では19万5000人だったが、2015年では4万6000人程まで減っている。この四半世紀で、約4分の1に減ったことになる。進学率の上昇によって、大学入学者の数が増えているのとは対称的だ。

競争が緩和されているので、予備校を利用しない受験生も増えている。大学入学者に対する予備校生徒の比率は、予備校依存(利用)度の指標になるが、値は減少の一途をたどっている。

大学進学人口(18歳人口)の減少と「予備校離れ」のダブルパンチは大きい。公務員試験予備校などへ鞍替えするケースもあるというが、事業の多角化を図らなければ生き残りも難しくなる。2014年に、大手予備校が校舎の大量閉鎖に踏み切ったのは記憶に新しい。

状況が厳しいのは大学も同じだ。来年から18歳人口が急減する「2018年問題」に関係者はおののいている。今の大学進学率(50%程度)が上がらない場合、2030年頃には少なからぬ大学が倒産するとみられる。

ベースの18歳人口が減るので、現在の入学者数を維持することは進学率が60%、70%にならないとできないが、今後どう推移するかは未知数だ。

大学がそれ自体の維持存続のために、進学率の上昇をあおるようなことはするべきではない。18歳時に大学への進学が強制される社会は健全とはいえない。顧客に広げるべきは、青少年ではなく大人だ。間もなく人口比が「子ども1:大人9」の社会になるが、やせ細っていく子ども人口を奪い合うのは見苦しい。彼らの人生にも悪影響を及ぼす。

青年期の教育機関から、大人の学びのセンターとしての存在に変わることができるか。日本社会の人口動態は大学に対して、未来形の姿への変身を求めている。

<資料:文科省『学校基本調査報告書』>


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舞田敏彦(教育社会学者)

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