Infoseek 楽天

民進党がため込んだ政党交付金という「カネ」の行方

ニューズウィーク日本版 2017年10月19日 15時10分

<民進党は事実上、解党したが党組織や代表はなお存続。生ける屍の旧党から選挙を経てもいない新党が150億円をついばむ>

9月28日午後、民進党の前原誠司代表は「希望の党」との合流を決定するため、両院議員総会を開いた。96年の旧民主党結成から約20年、二大政党制でリベラルの一翼を担った政党の消滅は反対派議員の怒号で大荒れに――そうした予想から、東京・永田町の民進党本部は珍しく記者でごった返した。

ところが実際には反対を唱える議員が出ることもなく、全員一致で前原の提案を承認。同時中継を見ていた全国の民進党員や有権者の多くはあっけない幕引きに驚くとともに、党組織も代表も存続するのに選挙公認をしないという「事実上の解党」の複雑さにも首をひねった。

民進党が潔い終わりを迎えることなく、ゾンビのように生き延びた謎を解くカギは「政党交付金」だ。「解党だとこれまでにため込んだ巨額の交付金を国に返さなければならないので、形の上で政党を残すという姑息な手段」と、法政大学の白鳥浩教授(日本政治)は指摘する。

政党交付金とは政党助成法の下、「議会制民主政治における政党の機能の重要性」を考慮して、国が政党に支払う助成金のこと。その原点は、80年代末から90年代に続発した、リクルート事件や佐川急便事件といった「政治とカネ」の問題にある。政治活動にカネがかかるなかで、営利団体でない政党は寄付に頼らざるを得ない。

そこで国から政党に「資金注入」することで政党と企業・労働組合とのなれ合いにくさびを打ち込み、政策本位の政治に転換を図る――そうした政治改革の一環として政党交付金が導入された。たった「コーヒー1杯分」の負担をうたい文句に、人口に250円を掛けた金額が交付金の総額。今年度は年317億円余りが要件を満たした政党に支払われる。

各政党への交付額は政党所属の国会議員数と衆参各選挙の得票数に応じて算出される。民進党には今年87億1897万円が配分される。また交付金は余れば「基金」として貯蓄でき、民進党には150億円近くの繰越金がある。

そこに「実質上の解党」という巧妙な手法の理由がある。民進党は希望の党などから出馬する立候補者個人に通常よりも500万~1500万円多い選挙資金を支給。そのカネを立候補者が新党に上納することで、解党すれば国に返還すべき政党交付金が希望の党に流れることになる。

政党助成法は「政党の政治活動の自由を尊重」するため、交付金の使い道は制限を受けないと規定。そのため、交付金を離党議員に渡そうと、その議員が何に使おうと構わない。希望の党代表の小池百合子都知事との写真撮影料3万円もまた、このカネの流れの1つだ。



ただこうした巧妙な手法によって、逆に政党交付金制度の問題点があらわになった。実質的な解党でも形式的に政党を残しておけば交付金を返還しなくてもいい。選挙で多くの国民の支持を得た民進党に対して交付されたカネが、いまだ支持を受けていない新党の活動資金に使われる。政策本位の政治のための交付金が貯蓄され、選挙CMや写真撮影のために吐き出される......。

こうした民進党のカネの動きを「税金の恣意的な利用で、交付金の理念の換骨奪胎」と批判する白鳥は同時に、交付金配分の仕組みそのものの問題点も指摘する。議員数と得票数に応じて単純に配分されれば、有利なのは議会多数派で政権を握る与党。一方、野党や小政党には交付金が流れず、その分政治活動が制限される。「野党が与党に対抗する政策軸をつくる、という政治改革本来の趣旨と外れている」

ただ、少なくとも野党・民進党への「1杯250円のコーヒー」はあまりに苦く、ワイズスペンディング(賢い支出)ではなかったようだが。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル! ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017.10.17号掲載]
深田政彦(本誌記者)

この記事の関連ニュース