Infoseek 楽天

混乱のまま投票日に向かう衆院選、民意をどう読み取るか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年10月19日 17時20分

<「自公」「希望」「立憲」の三つどもえの戦いとなった衆院選。民意を読み取るポイントはどこにある>

突然の解散を受けて新党結成が続いたかと思えば、その新党ブームが一瞬起きた後は退潮が見られるなど、今回の衆院選は混乱状態のまま22日の投票日へと向かっています。実際は期日前投票の割合が大きく伸びているために、既に見えないところでは情勢が固まりつつあるわけですが、投開票を直前に控えた現時点で、「どんな風に結果を見たらいいのか?」を考察してみます。

混乱ということでは、とにかく今回の選挙は「小選挙区制」が想定していなかった事態になっているわけです。つまり有力な政党グループが2つではなく3つ出てきています。「自公」「希望」「立憲」がその3つですが、とにかくこの3者は基本的にまったく選挙協定を行なっていません。

ですから、もちろん「有力2候補の一騎打ち」という選挙区はあるわけですが、都市部を中心に「3つの選挙戦」が数多く発生しています。ということは、下手をすると、「35%、30%、30%」というような票の「バラけ方」をした場合には、得票率35%で勝つ候補が出て来る、つまり65%が死に票になります。

もちろん65%が死に票というのは極端な例でしょうが、今回の小選挙区の場合は、全国平均での死に票が50%を超えるのではないか、そんなおそれを感じています。ちなみに、前回(2014年12月)の総選挙では、連立与党(自民+公明)は小選挙区で50%、比例で47%の得票率でしたが、これは両方ともおそらく下がることになるでしょう。

その場合に、一体民意はどこにあると考えたらいいのでしょうか?

一つは、希望と立憲のどちらが第二党になるかという点で、民意のありかを読み取っていくという考え方です。希望が勝てば憲法改正が早まり、立憲が勝てば慎重にならざるを得ないという考え方です。ただ、選挙後の初登院までに、そもそも希望とか立憲という党が存続するのか分からないということもあります。

与党が大勝した場合には、他から駆け込んでくる議員も出てくるかもしれません。そうなると選挙結果というより、とにかく議員の頭数で政局が動くことになり、余計に民意と政策の距離が離れてしまうことになります。

二つ目は、与党の得票率の低下がどの程度になるかということです。先ほどお話ししたように、「35%、30%、30%」の三つどもえ選挙になれば、与党の得票率は下がるでしょう。ですが、それは与党への信認が弱まったと考えていいのでしょうか。それとも単に有力な野党候補が協力なしに2人立ったことの結果であって、与党への不信任ではないという見方も可能です。与党は当然そうするでしょう。

三つ目は、地方の民意がどう国政の場に届くのかという問題です。今回の新党ブームについては、基本的に「都市型の小さな政府論」がベースとなっていますし、連立与党の公約も都市の現役・子育て世代を意識したものとなっています。つまり、今回の選挙では「地方創生」は重要な争点にはなっていないのです。そうした中で、地方の選挙結果からはどんなメッセージが読み取れるか注目したいと思います。



ただ、全体的に見た時に、今回の選挙というのは「民意を読む」ことは非常に難しい選挙になる、そんな印象を持っています。例えば、仮に多くのメディアが報じているように、連立与党が大勝したからと言って、国民が政策に関して強く支持をしているとか、スキャンダルに関しての「選挙の洗礼」は済んだと考えてしまっては、足元をすくわれるでしょう。

その一方で、もう少し長い目で見ると、今回の選挙というのは、「日本型の小さな政府論」というものが、政治的な形を取っていく一つのプロセスとしては意味があると思っています。

具体的に言えば、

▼旧民主党の「官公労には甘い」が「個別の使途は仕分けする」という不完全な小さな政府論。

▼「みんなの党」の「官公労と対決して行革を志向する」一方で「都市型政党ながら都市票のニーズをつかめなかった」という、失敗した小さな政府論。

▼大阪維新の持っていた、「民間経済の衰退」に見合うだけ「官公庁もリストラすべき」という、一部の都市限定の小さな政府論。

という既成の対立軸とは異なる形で、

▼希望という「一極集中で繁栄する東京」の有権者の「小さな政府論」。

▼立憲民主の場合は、小さな政府論ではないが、都市型という性格を前面に出しており、決してバラマキではない立ち位置。

▼連立与党の場合は、今回は都市や現役世代をターゲットにした「大きな政府論」。

という軸で選挙戦を戦ったのであり、その結果をよく見て行くことは、日本型の小さな政府論が今後も発展していくのか、それとも「大きな政府論」にのまれていくのか、ある種の判断材料にはなるのではないでしょうか。

ところで、毎日新聞が各政党にアンケート調査したところ、「政党の自己イメージを動物に例えると?」という問いに対して、「自民党はゾウ」「立憲民主党はロバ」と答えたそうです。

このゾウというのは米共和党のマスコット、ロバというのは同じく米民主党のマスコットなので、何もそこまでアメリカのマネをして左右対立をやらなくてもいいのに、と思ってしまったのも事実です。

特に、政策的には極めてリベラルで「大きな政府論」丸出しの自民党が、「小さな政府論」の米共和党と同じ「ゾウ」のイメージに自分を重ねているのには違和感があります。また、ヒラリー落選のショックから「自分探し」の混迷の中にある米民主党の「ロバ」に、立憲民主党が自らを例えるというのは、何とも笑えない話です。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル! ご登録(無料)はこちらから=>>

この記事の関連ニュース