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高齢者の格差拡大で、求められる再分配制度の見直し

ニューズウィーク日本版 2017年10月20日 15時30分

<これまでの再分配政策は、若年層が高齢者を助ける制度だが、これからは年齢に関係なく富裕層が困窮層を助ける制度に見直す必要がある>

自由主義・資本主義の社会では、人々が所有している富の量には大きな差がある。富める者もいれば、貧しい者もいる。

これは当然のことだが、その度合いが過ぎると社会が不安定化してしまう。このため前者から後者への所得移転(再分配)が行われる。富をたっぷり持っていて生活に困っていない人が、生活に困っている人を助ける。

しかし日本では、生活の困窮度に関係なく、下の世代が上の世代を助ける(支える)という構図が定着している。資産があり高級ゴルフクラブに足繁く通う高齢者が社会保障給付の対象になり、反対に非正規雇用でカツカツの若者であっても彼らを支える側に回らないといけない。

助ける側になるか、助けられる側になるかは、年齢によって機械的に決まる。年齢の役割規範が強い日本ならではのシステムだが、これをおかしいと思っている人は多いだろう。

高齢世帯というと乏しい年金でギリギリの生活をしているイメージが強いが、そういう世帯ばかりではない。世帯主が60歳以上の世帯の貯蓄額分布をグラフにすると、<図1>のようになる。



最も多いのは貯蓄ゼロの世帯だが、次に多いのは貯蓄3000万以上の世帯だ。「貯め」がある世帯とない世帯に、はっきり分化している。前者は、振り込め詐欺の電話1本で何百万円もポンと出せる世帯だ。

ある程度想像はできるが、実際の高齢層の貯蓄格差は凄まじい。このデータは年齢を60歳以上と広く取っているが、75歳以上の後期高齢世帯に限っても同じような分布になる。高齢層を一括りにして論じるのは、いかにもおかしい。

一橋大学の小塩隆士教授は、年齢に関係なく、生活に困っていない人が困っている人を助ける制度に変えるべきだと提言している(「所得格差・貧困・再分配政策」2015年7月17日、内閣府税制調査会配布資料)。

この提言では「若年層か・高齢層か」「生活に困っているか・困っていないか」の2軸を組み合わせた図が提示されているが、4つの象限に該当する世帯の量の見当をつけてみる。

生活に困っていない世帯は、貯蓄2000万以上の世帯とする。生活に困っている世帯は、貯蓄50万未満の世帯としよう。病気や事故などに見舞われた場合、即座に生活破綻に陥るリスクを抱えた世帯だ。



この基準をもとに、世帯主が60歳未満と60歳以上の世帯に分けて、生活に困っていない世帯と困っている世帯の数を出してみた(全世帯を1万とした場合の世帯数)。<図2>は、4象限の世帯数を正方形の面積で表したものだ。



右側の高齢世帯を見ると、数の上では貯蓄50未満の世帯よりも貯蓄2000万以上の世帯が多くなっている。

60歳未満の現役層では、上の富裕世帯よりも下の困窮世帯のほうがずっと多い(前者は390、後者は976世帯)。

年齢という要素で、これらの世帯が「支える側」の位置につかされるのは公平ではない。生活に困っていない人が困っている人を助ける。支援の矢印は「上から下」に向くべきであって、年齢軸で「左から右」と決められるべきではない。

むろん貯蓄額が多い高齢世帯も事情は多様だろう。しかし、機械的な「年齢主義」を見直す必要があることは確かだ。日本は、超高齢化社会のステージに達しているのだから。

振り込め詐欺は、困窮若年層(左下)による、富裕高齢層(右上)に対するテロ行為のようなものだと言えるだろう。振り込め詐欺のプレーヤー研修では、「富裕老人から数百万円巻き上げてもどうってことはない、むしろいいことだ」と思わせることに重きを置くという(鈴木大介『老人喰い』ちくま新書)。

洗脳される側にすれば、妙に説得力を持って聞こえてしまうのも事実だろう。現行制度において本来受け取るべき支援が届いていない人も多いのだから。

<図2>の面積図によると、量的に多数なのはこの2者だ(困窮若年層、富裕高齢層)。今後ますます、この2つの層は増えていく。再分配政策の在り方を見直さないと、両者の溝は深まり、葛藤は避けられない。

<資料:厚労省『国民生活基礎調査』(2016年)>


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舞田敏彦(教育社会学者)

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