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国民審査を受ける裁判官はどんな人物か(判断材料まとめ・中編)

ニューズウィーク日本版 2017年10月20日 17時29分

<総選挙が投開票される10月22日は、最高裁判所裁判官国民審査の日でもある。今回の審査対象となる「あの裁判官に厳重注意」した戸倉三郎氏、「選任プロセスに不透明性」ありの山口 厚氏、「裁判経験豊富」な菅野博之氏とはどんな人物か>

※国民審査を受ける裁判官はどんな人物か(判断材料まとめ・前編/制度の問題点、小池 裕氏)

作成:筆者

2:「あの裁判官に厳重注意」戸倉三郎

一橋大法卒・裁判官出身・山口県周南市出身
就任:2017年3月14日/定年:2024年8月10日

《プロフィール》
小学生の頃からの鉄道ファンであり、古い車両に乗るのを好む。趣味のウォーキングやゴルフで汗を流す。

裁判員制度の導入が決まり、女優の長谷川京子さんが登場するポスターや、有名俳優を複数起用した広報ビデオなどの制作のため、広報予算に13億円をかけたとき、PRの旗振り役を務めた。当時は司法の内外から批判があったが「まずは国民に振り向いてもらわないと」と、その必要性を強調している。

東京高裁の長官時代には、法曹界で広く使用されている『要件事実マニュアル』の著者としても知られる岡口基一裁判官が白ブリーフ姿の半裸画像をSNSにアップするなどした点について、口頭で厳重注意を与えた(2016年6月21日)。

《主な発言》
・2017年3月14日、最高裁判事就任会見にて。
「最高裁の判断は、事案によっては社会活動にも影響を与える。責任感を持って、謙虚な気持ちで向き合いたい。裁判の手続きを透明にし、国民に納得してもらうことを意識している」

「(裁判員候補者の任務「辞退」が増えている点について)原因の把握は難しいが、我々がやるべきことをやっていないのではないか。プロとして厳しく振り返り、検証し、地道な広報活動を続けていくことが大事である」

《主な関与判決》
・JR東海で、労働組合が職場の壁面に貼ったポスター(年末手当て減額への抗議)を会社が撤去したのが不当だと争われた裁判で、不当労働行為であることを認定し、JR東海側の敗訴とした二審判決を支持。



3:「選任プロセスに不透明性」山口 厚

東大法卒・法学者出身・新潟県生まれ、東京都出身
就任:2017年2月6日/定年:2023年11月5日

《プロフィール》
刑法学者で、後に弁護士。有斐閣『六法全書』や『ポケット六法』の編集代表を務め、一般向け著書の『刑法入門』(岩波新書)が書店のベストセラーランキングにも名を連ねるなど、法律関連の業界内では著名な存在。

20歳で司法試験に一発合格。合格体験記で「ほんとうに、無我夢中のうちに合格したという感じなのである。あまり学説も知らないし、判例も知らない、私のような者でも、司法試験に合格することは可能なのである」と書き記し、謙遜している。

ただし、弁護士出身者が最高裁判事に登用される場合、通例であれば日本弁護士連合会の推薦リストから選ばれるものの、山口氏の場合はなぜか推薦外から内閣が任命したとみられ、その選考課程の不透明性に、日弁連だけでなく各方面から批判や疑念が投げかけられている。

《主な発言》
・2012年8月10日、朝日新聞朝刊。
「(法律学者の志願者が減っていることについて)量的には厳しい。しかし、法学固有の問題ではない。研究者の仕事を魅力的にするよう、国の支援を根本的に改めない限り難しい」

・2011年3月1日、『ジュリスト』「現代刑事法研究会 座談会」。
「(裁判員制度を踏まえて)裁判員の方々に分かりやすい刑法の立法を考えていくのかという問題も、あるいはあろうかと思います。個人的な意見としては、そうした立法はかなり困難ではないかなと思われますが」

・2002年11月27日、読売新聞朝刊。東京大学法科大学院の設立準備。
「法律相談クリニックを設け、法科大学院生には交渉術も学ばせたい。司法試験に失敗しないように、というより、法曹になった後に『あの人は立派な法律家だ』といわれる人を育てたい」

《主な関与判決》
・全国学力・学習状況調査で、地域の各学校の平均正答数や平均正答率などを不開示とした自治体の判断について、「開示すると学校間で過度の競争をあおりかねない」として、開示しないのを妥当とした二審判決を支持。

・オリンパスの従業員が、会社からの退職勧奨を拒否した報復で配置転換させられたのは不当だと争われた裁判で、「会社の配置転換命令に合理性はあった」として従業員敗訴とした二審判決を支持。



4:「裁判経験豊富」菅野博之

東北大法卒・裁判官出身・北海道出身
就任:2016年9月5日/定年:2022年7月2日

《プロフィール》
民事・行政事件に精通する裁判官であり、かつては日本航空(JAL)の会社更生手続きにも関与してきた。

難民問題を裁く判決を読み上げるときは、外国人に分かりやすい平易な日本語に言い換えて説明する配慮を、かなり早い段階から進めていた。

幼少の頃は「火星探検隊」に憧れ、高校生で天体望遠鏡を自作したこともあるという。SF小説のファン。

1992年には、少額の民事事件を早期に解決させる「即決裁判制度」を日本に導入できないか研究するため、6カ月間イギリスに派遣されて、ロンドン大学附属高等法学研究所などで研究した。後に即決裁判が日本でも導入されたきっかけをつくる役割を果たした。

《主な発言》
・2016年9月5日、最高裁判事就任会見にて。
「公民の間でも議論が成熟していない難しい課題が、裁判所に持ちこまれる時代になっている。期待、ニーズに負けないように、裁判所も質をアップしていかなければならない」

・2012年3月28日、水戸地裁所長着任会見にて。
「(水戸の印象について)震災の爪痕は残っているが、街中はにぎやかで、豊かな田畑が広がる中に大型店舗がある風景が外国っぽい」

・『判例時報』1995年2月11日号。
「私は、民事裁判は最も本質的には、公費によるサービス業であると考えている。したがって、司法サービスに対する国民のニーズの変化と、コストパフォーマンスを考えなければならない」

「(もし裁判手続きを中断し、当事者間で和解交渉を進めてもらう方法を採ると)裁判官の習性として、その事件を忘れてしまうことになりがちである。しかし、実際には、このような進行の事件が長期未済事件(ずっと片付かない裁判)の大きな部分を占めている。今後は、任せておいてよい事件であるか否かを見極め、安易な運用はしないようにと自戒している」

《主な関与判決》
・大阪市役所の庁舎内にあった職員労働組合の事務所について、市長が代わったことをきっかけに使用不許可となり、労組が立ち退きを迫られた件で、立ち退きを追認する決定(※一審は「立ち退きは職員の労働基本権を侵害する」として、市に66万円の賠償命令)。

・米軍普天間飛行場(沖縄県)の辺野古移設をめぐり、国が出した海岸地域の埋め立ての承認を県知事が取り消したのを不服として、国が県を訴えた裁判で、「承認取り消しは違法」とした国側勝訴の原審判決を支持(※裁判長ではなかったが、全員一致の合議に関与)。

・フリージャーナリストらが、「特定秘密保護法で取材が萎縮させられ、業務が困難になった」として、特定秘密保護法は憲法違反で無効だと争うも、棄却の判断。「訴えは、将来的に罰則を適用されるかもしれないという抽象的なもの」とした。

※国民審査を受ける裁判官はどんな人物か(判断材料まとめ・後編/大谷直人氏、木澤克之氏、林 景一氏)


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長嶺超輝(ライター)

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