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極右のヘイトスピーチも自由を保障されている

ニューズウィーク日本版 2017年10月25日 17時50分

<合衆国憲法は、ネオナチや白人至上主義者にも言論の自由を認めている。言論に訴えている限りは>

今から40年前の1977年、私は小さなネオナチ団体がデモ行進を行う権利のために裁判で戦い、勝利した。

当時、その判断は大きな物議を醸した。私が所属していた米自由人権協会(ACLU)は、ネオナチ団体の弁護を務めたことで激しい批判を浴びた。

イリノイ州スコーキーは、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の生存者が多く暮らす村だ。そこでネオナチ団体がナチスの制服を着てデモ行進をするというのだから、住民に対する挑発以外の何物でもないとみなされた。村はネオナチ団体からデモの許可申請を受け取ると、直ちにデモを阻止する条例を制定した。

米連邦最高裁も絡んだ15カ月間の法廷争いの末、ACLUは勝訴し、ネオナチがスコーキー村でデモ行進をする憲法上の権利が認められた。

それでもACLUは代償を支払わなければならなかった。ネオナチの味方をしたことに抗議し、数百人の会員が退会したのだ。会員資格を更新しなかった人はもっと多かっただろう。

ACLUは今、今年の8月にバージニア州シャーロッツビルに集結して大規模デモを開こうとした白人至上主義者たちの言論の自由を擁護したことで、再び集中砲火を浴びている。

きっかけは今年4月、シャーロッツビルの市議会が奴隷制度を守る側で南北戦争を戦った南部連合のロバート・E・リー将軍の記念碑撤去を決めたことだ。白人至上主義者にとっては、南軍の英雄像は自らのアイデンティティーの象徴なのだ。

ヘイトスピーチは警察が守れ

ACLUに批判的な一部の専門家は、今は言論の自由を守るより人種差別に反対すべきだと言った。40年前と同様、一部の会員は抗議の退会をした。

スコーキーにせよ、シャーロッツビルにせよ、ACLUの根本的な主張は同じだ。言論の自由を守ることだ。だが2つの事件には重要な相違点がある。

1つ目は、シャーロッツビルのデモは実行され、その結果悲劇が起きたことだ。大規模デモの当日、白人至上主義の男が差別に反対するために集まった群衆に車で突っ込み、女性(32)がはねられて死亡、19人が負傷した。

白人至上主義者と差別反対派の衝突で、他にも多数の負傷者が出た上、パトロール中のヘリコプターが墜落して警官2人が死亡した。

2つ目は、スコーキーのネオナチはナチスの制服を着て行進しようとしてはいたが、武装するつもりはなかったこと。デモを禁止すべきたとした人々は、ナチスの制服を着て行進すれば、ユダヤ系住民との間で暴力沙汰になると決まっているので未然に禁止すべきだと主張した。

それに対してACLUは、暴力が起こる危険性があっても、それは言論の自由を妨げる根拠にならないと反論した。アメリカの裁判所は長年、言論に対する暴力行為を回避する正しい方法は、言論を禁止することではなく警察が言論者の身の安全を保障することだ、という立場をとってきたのだ。



一方、シャーロッツビルに集結した白人至上主義者の多くは銃などで武装していた。ACLUは言論の自由に関する法的支援の要求があった場合、今後は相手をもっと慎重に見極める必要に迫られるだろう。合衆国憲法の修正第1条が保障するのはあくまで「平和的な集会」を開く権利だ。

1969年に白人至上主義団体「KKK(クー・クラックス・クラン)」の指導者とオハイオ州がヘイトスピーチの規制をめぐり争った米連邦最高裁の判決は、言論が差し迫った暴力行為を引き起こす危険性があれば言論を禁止できる、という法的基準を示した。

シャーロッツビルのようにデモ当事者が武装していれば、差し迫った暴力行為の危険性が一気に増すのは明らかだ。

ACLUは今後も、ネオナチだろうと白人至上主義だろうとその信条に関係なく、あらゆる人や団体の言論の自由を守り続けるだろう。だが、暴力で自分たちの主張を押し通そうとする者は対象外だ。

スコーキーではほぼアメリカ中がネオナチを非難していたこともシャーロッツビルとの違いだろう。シャーロッツビルでは、ドナルド・トランプ米大統領が白人至上主義の側にも「素晴らしい人々がいた」とかばうような発言をした。

スコーキーでは、ネオナチの言論の自由は守られたが、それによってネオナチの主張が受け入れられることにはならなかった(法廷争いが終わると同時に、ネオナチ団体は姿を消した)。だがシャーロッツビルはどうだろう。白人至上主義団体の一部の指導者やその支持者は、かばってくれたトランプに感謝している。

当面、彼らが姿を消すことはなさそうだ。

This article first appeared on the Washington Spectator.

(翻訳:河原里香)


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アリエフ・ネイヤー(国際財団オープン・ソサエティ財団名誉会長)

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