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ラッカ陥落でもISISは死なず

ニューズウィーク日本版 2017年10月26日 16時30分

<首都と称してきた都市を失った後も、その思想は世界各国とネット空間で生き続ける>

テロ組織ISIS(自称イスラム国)が「首都」と呼んでいたシリア北部のラッカが陥落した。米軍の支援するクルド・アラブ合同部隊「シリア民主軍(SDF)」が、4カ月にわたり攻撃を加えた果ての出来事。ISISがシリアとイラク北部に「カリフ制国家」の樹立を宣言してから、3年4カ月が過ぎていた。

しかしこれで、ISISの息の根を止めたと考えるのは間違いだ。

拠点は陥落しても、思想は消滅させられない。とりわけISISは支配地域にイデオロギーを深く根付かせ、グローバルなネットワークを築き、ネット上でも影響力を誇っている。

ISISが現在のような状況を経験するのは初めてのことではない。06年、ISISの前身組織「イラク・アルカイダ機構」の指導者アブ・ムサブ・アル・ザルカウィが死亡した後、この組織は表舞台から姿を消し、再起の時を待つことになった。

いまシリアとイラクの支配地域を失ったISISは、「国家建設」という目的から、14年以前の活動を想起させる「反乱モデル」に逆戻りするとみられる。

ラッカが陥落しても、欧米でのテロは減らない。世界でジハード(聖戦)を起こす力が損なわれることもないだろう。今後もISISは攻撃を呼び掛け、最近の欧米諸国に見られるローテクで金のかからないテロをあおるだろう。

小規模集団によるテロやローンウルフ(一匹狼)型のテロは、以前より手数を掛けなくなっている。ナイフや車を使う単純な攻撃になり、細かな準備も外国の支援もほとんど必要ない。

だが拠点が陥落したことで、テロ攻撃を直接画策するISISの能力は弱まる。プロパガンダの質や量も低下するだろう。

さらには「敗退した」というイメージが、ISISに同調しようとする人々を思いとどまらせる可能性がある。今までは戦闘での華々しい勝利こそが、宗教的な正統性を象徴すると信じられていた。

ISISはネットワークを駆使して、こうした流れを覆そうとするだろう。拠点が陥落しても、彼らのプロパガンダは途絶えることがない。今後は内容が変わるだけのことだ。

ISISは今回の敗北も「神の意思」によるものと位置付けるだろう。ISISがスペインへの攻撃を正当化していたのは、15世紀にイスラム勢力がイベリア半島のカリフ国を失ったからだった。このときに似て、今またカリフ国が欧米に滅ぼされた事実は長きにわたって嘆かれ、さらなる暴力を呼び掛ける手段に利用される。



ラッカのスタジアムの下でISISが設けた拘置所が見つかった Erik de Castro-REUTERS

既にその兆候は見えている。ISISの英字機関誌ダビクは、ISISに敵対する同盟国軍を、戦いが続いたイスラム創成期における預言者ムハンマドの敵の連合に重ね合わせている。

いま重要な問題は、どうやって別のジハード勢力が灰からよみがえるのを阻止するかだ。

第1に、統治者のいない荒廃した地域を安全にし、社会にサービスをもたらすことだ。ISISは社会の緊張や不平等、非効率な統治、汚職を利用して、自分たちが社会にとって唯一の選択肢だと思わせていた。

ここで重要なのは、ラッカを陥落させたSDFが侵略者と見なされないようにすることだ。地元民の主導する勢力がコミュニティーの安全を維持しなくてはならない。

国境も世代も超越して

第2に、組織としてだけではなくイデオロギーとしてのISISに対峙することだ。

ISISが掲げる原理主義的なサラフィー主義は各国に拡大し、世代を超えて広がっている。サラフィー主義は人々の純粋な怒りに付け込み、コーランにはカリフ国の正統性が書かれていると解釈し、シャリーア(イスラム法)を厳格に守らせようとする。

既にシリア北部のイドリブ地方では、アルカイダ系の武装勢力が新たなイスラム国の樹立計画に着手。コミュニティーに浸透し、さまざまな反政府勢力の中で地位を築いている。

中東やアフリカで活動する同じような分派はこれから長く存続し、ISISと同じ価値観と目標を掲げるだろう。

しかし、ISISが本当に生き永らえる場はネット空間だ。彼らはさまざまなツールで、ジハードのコミュニケーション手段に革命を起こした。

ISISがプロパガンダに使うメディアは、雑誌や動画から、新聞、ラジオ、教科書、神学書にまで及ぶ。各国政府やテクノロジー企業による抑え込み戦略は成功しつつあるが、ISISは新たな戦術を生み出しながらコンテンツやネットワークを発展させてきた。

ISISの持つネット上での影響力は、過激な思想家やテロリストに永遠の命を与えてきた。彼らが死んでも、イデオロギーは生き残る。組織の指導者が入れ代わっても、思想は変わらずに生き続ける。

現在のISISは、アブ・バクル・アル・バグダディが率いているという。彼は生存しているらしく、録音された音声が9月にネットで公開された。

しかし死んでいようと捕らわれていようと、バグダディはジハードの輝ける殿堂に祭り上げられ、暴力をあおり続ける。同じように、牙城のラッカが崩れ落ちても、ISISは中東や欧米の都市に今後も暗い影を投げ掛け続けるのだ。

<本誌10月24日発売最新号掲載>


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