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新しい中国を担う「意識高い系」中国人のカルチャーとは何か?

ニューズウィーク日本版 2017年10月26日 16時29分

<11月12日まで、東京で開催されている国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」。「80後」ではなく「ミレニアル世代」、今年の目玉は彼ら若い世代のユースカルチャーだ。中国人はなぜ急にオシャレになってきたのか>

「中国ではなぜ"意識高い系"が急増しているのか? なぜ急にオシャレになっているのか?」

バカっぽい言葉で原稿を始めてしまったが、私の率直な疑問である。一昔前は「派手好きの中国人にはともかくド派手原色系が売れる」と言われていたし、中国向けローカライズというと、とりあえず縁起のいい真っ赤なカラーリングにしてみるというのが一般的だった。

ところが今はどうだろう。無印良品的なシンプルなデザインと色合いを好む風潮が生まれ、年々拡大している。「スマホ界の無印良品を目指す」と豪語する大手スマホブランド「シャオミ」を筆頭に、中国メーカーもシンプルデザインが増えてきた。街を歩けばやたらと品のいい喫茶店ができ、本屋もシックでオシャレな大型書店が次々と誕生している(といっても平積みされているのは習近平講話集だったりするのだが)。

もちろん13億人の中国人全員が全員"転向"したわけではないのだが、かつての中国イメージとは異なる好みが生まれ、年々勢力を増していることは間違いないように思う。なぜ中国人のオシャレ感覚は急激に変わりつつあるのか。

この私の疑問に、中国のミレニアル世代(1980年前後から2000年代初頭に生まれた世代)のユースカルチャーに詳しい小山ひとみさんが答えてくれた。小山さんは現在、東京で開催されている国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」のコーディネーターを務め、中国の演劇、音楽、写真などのユースカルチャーを紹介している。

*「フェスティバル/トーキョー」は11月12日まで、東京芸術劇場、あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)、南池袋公園など、東京・池袋を中心に各地の劇場、公園で開催中。第10回を迎える今回の目玉は中国特集。

――中国のミレニアル世代とはどのような人々なのでしょうか。

ミレニアル世代について一言でまとめるのは難しいですね。2017年現在ですと、37歳から17歳がミレニアル世代に該当するわけですが、社会の主役、働き盛りの世代がミレニアル世代に該当します。日本だと40代、50代も働き盛りですが、若い人口が多い中国だと40歳以下が主力です。新しい中国を担っている世代と考えていただければいいのではないでしょうか。

ミレニアル世代の中でもさまざまな人々がいるわけですが、最大の特徴は海外への意識の高さではないでしょうか。海外の情報をよく知っている、海外の文化を楽しんでいる、実際に海外で活躍する人が多い、国内にいる人でも「自分も」と海外を意識して活動する、海外の文化を取り入れた上で独自の中国らしさを志向する......こうした点が印象的です。

「80後」など年代別の世代論はあくまで中国国内の変化をイメージしています。グローバルな視点で捉えたかったため、ミレニアル世代という米国発の概念を採用しました。

改革開放以来、中国社会は激変し、むき出しの競争と大転換の時代が到来しました。ミレニアル世代は「生まれたときから競争の中に置かれ、自分から手を挙げていかなければ芽が出ない自立世代」であり、「伝統と現代の狭間で迷う世代」と捉えています。

エレクトロニック・ミュージシャンのシャオ・イエンペンとニューメディア・アーティストのワン・モン、2人が生み出す音と映像のシャワーは圧巻



北京の演劇大学出身のスン・シャオシン、中国社会やミレニアル世代にフォーカスをした作品で注目を集めている Photo: KillaiB

――改革開放政策によって、世界に開かれた初めての世代ということですね。海外の影響を強く受けているとのことですが、その中に日本も含まれていますか。

もちろんです。例えば無印良品は非常に高い評価を受けています。単純に売れているというよりも、シンプルかつ控えめなデザインや環境への配慮などのコンセプト、思想に対する共感があると思います。

また、ミレニアル世代は日本の映画やアニメを見て育った世代でもあります。作品中で描かれていたライフスタイルも影響を与えていると感じます。

――「フェスティバル/トーキョー」が紹介する中国ミレニアル世代の舞台、音楽、写真などのカルチャーは、私たちに何を伝えてくれるのでしょうか。

中国のミレニアル世代は、自分のライフスタイルをつくれる世代でもあります。単に海外のライフスタイルを真似するのではなく、その中から自分に合ったものを選択する世代です。

また、そこから進んで、自分独自のライフスタイルをつくり始める人たちも出ています。このイベントから分かるのは、そのようなミレニアル世代のライフスタイルに対する意識と変化です。また、彼らの日本に対する興味の方向性が見えてくるのではないかと思います。

◇ ◇ ◇

バブル期の日本しかり、文化の繁栄には経済力が欠かせない。急激な経済成長を遂げた中国には、日本を含め世界中から怒濤のように文化が輸入された。新たな文化をシャワーのように浴びた中国人のセンスは今、経済同様、凄まじいペースで変化し始めているのではないか。

小山さんによると、ミレニアル世代の中国人はたんに輸入した文化を受け入れるだけではなく、取捨選択して自分たちのスタイルを築きつつあるという。技術の世界では今、中国発のイノベーションが注目を集めつつあるが、文化でも同じく中国発のトレンドが世界を席巻する日が近いのかもしれない。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。


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高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

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