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ロシア疑惑で初の容疑者拘束か トランプ周辺の怪しい人リスト

ニューズウィーク日本版 2017年10月30日 19時4分

<ロバート・ムラー元FBI長官がロシア疑惑の特別検察官に任命されて約半年、捜査の手はトランプ側近にまで及ぶのか>

昨年の大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ候補が有利になるようロシアと共謀して選挙に介入したとするロシア疑惑。その独立捜査を指揮するロバート・ムラー特別検察官が訴追する最初の容疑者が、早ければ10月30日にも拘束される可能性が出てきた。トランプの大統領当選を支えた側近たちが窮地に立たされる可能性もある。

初の訴追は、長い捜査の始まりにすぎない。これまでに名前が浮上しているのは以下の人物。

■ポール・マナフォート
トランプ陣営の元選対本部長

昨年の米大統領選で一時トランプ陣営の選挙対策本部長を務めたポール・マナフォートは、最も決定的な証拠を捜査当局に握られている。

米下院情報委員会のアダム・シフ下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は10月29日、訴追が予想される2人の人物の1人として、マナフォートの名前を挙げた。

米ニュースサイト、バズフィードは同日、マナフォートが海外に保有する複数の会社を経由した延べ13回、総額300万ドルに上る「疑わしい」海外送金に、FBIの捜査チームが目を付けていたと報じた。マナフォートは以前からウクライナの親ロシア派政党に協力するなど、外国の団体のためのロビイストや政治コンサルタントとして幅広く活動していた。

米紙ニューヨーク・タイムズは先月、FBIが7月下旬にバージニア州にあるマナフォートの自宅を家宅捜索した後、ムラーがマナフォートに「訴追を視野に入れている」と伝えたと報じた。

最初の容疑者がマンフォートでなかったとしても、いずれそうなる可能性は大だ。

ロシア当局者と深い関係

■マイケル・フリン
前大統領補佐官(安全保障担当)

シフはマナフォート以外に訴追される可能性がある人物としてマイケル・フリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の名前を挙げた。

フリンはマナフォートと同様、外国から資金提供を受けていた疑惑がある。彼がマナフォートと異なるのは、トランプ政権発足後、安全保障担当大統領補佐官としてわずか24日間とはいえホワイトハウスで働いていたことだ。

米陸軍の退役軍人であるフリンは、政権発足前にロシア当局者と対ロ制裁について協議したことを米政府に隠していたと報じられ、2月13日に辞任した。またトランプ政権幹部として機密情報のブリーフィングを受ける立場にいた間に、トルコ政府に近い企業からロビー活動の報酬として53万ドルを受け取っていたことも発覚した。



トランプ自身も、フリンに容疑がかかることを心配していたようだ。

ジェームズ・コミー前FBI長官は6月の上院情報委員会の公聴会の証言で、フリンへの捜査を打ち切るよう、トランプが繰り返し圧力をかけていたことを明らかにした。

コミーがトランプとの会話について記したメモによれば、トランプはこう言った。「この一件を忘れてくれるよう頼みたい。フリンはいい奴だ」

コミーは、トランプが捜査に不当な圧力をかけようとしていると感じたと言った。トランプはコミーに捜査をやめるよう圧力をかけたことを否定し、その後コミーを解任したのはロシア疑惑の捜査とは無関係だったと主張した。

■マイケル・フリン・ジュニア
(元トランプ政権移行チームスタッフ)

一部の法律アナリストたちは、フリンの息子、マイケル・フリン・ジュニアも訴追対象かもしれない、と推測する。

9月に米NBCニュースが匿名の米政府関係者の話として伝えたように、フリン・ジュニアも捜査対象者として知られている。FBIの捜査チームは、フリンのコンサルティング会社「フリン・インテル・グループ」とフリン・ジュニアの関わりを捜査中だとも報じられた。フリン・ジュニアは2015年12月、フリンに同行し、ロシアの首都モスクワで行われたロシア政府系テレビ局「ロシア・トゥデイ」の祝賀会に出席した。フリンはその際、ロシア側から講演料を報酬を受け取っている。

フェイクニュースを流布

米情報機関が1月にまとめた報告書は、ロシア政府が昨年の米大統領選に介入するための情報工作を「ロシア・トゥデイ」が担っていたと結論付けた。「ロシア・トゥデイ」は9月、米司法省からアメリカ支局に対し、外国政府の代理人として登録するよう要求があったと明らかにした。

フリン・ジュニアは米大統領選後、トランプの政権移行チームに合流したが、昨年12月にトランプに解雇された。「ピザゲート」と呼ばれる陰謀論に加担したのが原因だ。「ピザゲート」とは、ヒラリー・クリントンと民主党幹部が国際的な児童売買春に関わっており、ワシントンのピザ店が売春組織の本拠だとするフェイクニュース。フリン・ジュニアは「ピザゲート」というハッシュタグを付けてフェイクニュースをツイッターで拡散させた。

■ドナルド・トランプ・ジュニア
(トランプの長男)
■ジャレッド・クシュナー
(トランプの娘婿で大統領上級顧問)

トランプの長男トランプ・ジュニアと娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問は昨年6月、当時選対本部長だったマナフォートとともに、トランプタワーでロシア政府とつながりのあるロシア人の女性弁護士ナタリア・ベセルニツカヤと極秘の面会に応じた。その弁護士は、ヒラリー・クリントンに不利な情報の提供を約束したという。ニューヨーク・タイムズが7月に面会の事実を報じた後、ムラーが本格的な捜査に乗り出した。



トランプ・ジュニアもクシュナーもマナフォートも、自分たちはロシア政府と共謀したのではないとして、疑惑を否定した。トランプ・ジュニアはベセルニツカヤ弁護士について、彼女はロシアの養子縁組制度について協議したかっただけで、クリントンに不利な情報は一切持っていなかったと言った。

だが米情報機関は、ロシア政府が米大統領選でトランプの勝利に貢献したという見方を崩していない。事実、トランプ・ジュニアは仲介者からのメールで、ロシア政府による「トランプへの支援」やクリントンに不利な情報の提供を持ちかけられると、「素晴らしい」と歓迎した。トランプ・ジュニアはその後、一連のメールのやり取りを自ら公開し、自分には隠し立てがなく無実である証拠だと主張した。

訴追は免れる?

それ以降、トランプ・ジュニアとクシュナーは捜査チームによる事情聴取を受けているが、ロシア政府と共謀したことは一切ないとして、疑惑を否定している。

今のところ、2人ともムラーの訴追対象ではないとする見方が大勢だ。だがトランプタワーで面会に応じた事実があるため、ロシア疑惑の捜査が打ち切られない限り、マナフォートの疑惑に関する捜査対象になるはずだ。

一方、ベセルニツカヤ.も、トランプ・ジュニアらとの面会は、ロシア政府とトランプ陣営が共謀したとされる疑惑とは無関係だと主張している。だがニューヨーク・タイムズは10月27日、ロシア政府の有力な関係者が事前にベセルニツカヤと面会内容について打ち合わせを行い、彼女の案を了承したもようだと報じた。たとえ今回トランプ陣営のすべての側近が訴追を逃れたとしても、この面会の事実は、今後もしばらく捜査対象になりそうだ。

(翻訳:河原里香)

ジェイソン・シルバースタイン、マックス・カトナー

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