Infoseek 楽天

【写真特集】行き場なく宙に浮くカタルーニャ独立の夢

ニューズウィーク日本版 2017年11月1日 17時0分

<法律を盾に暴力で民意を抑え込むのが民主主義なのか――カタルーニャの現実は今、世界に大いなる疑問を投げ掛けている>

13年前からスペイン北東部カタルーニャ自治州の州都バルセロナを拠点にする私にとっても、住民の独立への思いは想像以上のものだった。そもそも私は、住民投票の実施自体に懐疑的だった。これは一種の政治ゲームで、誰も本気で実現できるとは思っていないのではないか、と。

だが、カタルーニャは本気だった。市民は警察による封鎖に対抗しようと泊まり込みで投票所を占拠。10月1日の当日、人々は警棒で殴られても「投票するぞ!」と叫んで一歩も引かず、そうした現場の状況を承知の上で大勢が投票所に向かった。結果は投票者228万人で、賛成票が約9割。カタルーニャ州政府でさえ、これほどの結果は予想していなかったはずだ。

スペイン継承戦争でカタルーニャがスペイン軍の手に落ちたのは1714年のこと。以来300年間、カタルーニャ人はスペインと一線を画しながら、独自の文化を守り続けてきた。選挙への執念は長く眠っていた「支配されている」感覚が呼び起こされた結果だろう。近年の緊縮策や税負担と配分への不満、地域の声を軽視する中央政府への怒りで目覚めたものだ。

投票後もスペイン政府は対話を求めるカタルーニャに対し、投票は違法の一点張り。ついには自治権を剥奪し、対するカタルーニャも独立を宣言した。EU諸国は、自国への飛び火を恐れて問題に目をつむる。住民が命懸けで示した意思は、このまま黙殺されてしまうかもしれない。

法律を盾に暴力で民意を抑え込むのが民主主義なのか。法は人民ではなく、国を守るためにあるものなのか。カタルーニャの現実は今、世界に大いなる疑問を投げ掛けている。

森本徹


夏に行われる祭り「コラフォック(走る火)」。角の付いた悪魔などに扮し、爆竹を鳴らしながら走り回る


祭りで焼かれるカタルーニャ特有のソーセージ「ブティファラ」


州都バルセロナのムンジュイック城に残された大砲


「カタルーニャはスペインにあらず」ーー独裁者フランコがひいきにした宿敵レアルマドリードとの一戦で(04年11月)。カタルーニャの人々は現地語の使用を禁止され、拷問を受けた。彼らが希望と誇りを感じられた場所は、FCバルセロナの試合が行われるスタジアムだけだった

世界的に知名度を上げつつあるカタルーニャワインの産地プリオラート。春にはアーモンドの花が咲き誇る


夜になるとバルセロナ郊外の工業地帯が浮かび上がる。カタルーニャ州はスペインのGDPの2割を占め、同国経済を支えている


15年9月のカタルーニャ州議会選で勝利した独立派の州首相を、「独立」のシュプレヒコールで迎える群衆。掲げているのは独立派の州旗


バルセロナ空港から市内に向かう道沿いのアパートには「カタルーニャ共和国へようこそ」という横断幕が掲げられていた(17年10月2日)


独立賛成のポスターを掲げ、カタルーニャ自治州の政府高官がスペイン政府に拘束されたことに抗議する人々(17年9月21日)


投票日の夜明け前、スペイン政府に投票所の封鎖を命じられながら、実力行使に出なかった地元警察を市民がたたえる(17年10月1日)

プリペイド携帯や合言葉を駆使して投票用紙と箱が秘密裏に各地の投票所へ運び込まれ、住民投票は実施された(17年10月1日)


投票当日にスペイン治安部隊が住民を暴力的に排除した投票所には、翌日になると抗議のメッセージと花が置かれていた(17年10月2日)


演説のため州議会に入るプッチダモン州首相。結局、予想されていた明確な独立宣言はせず、スペイン政府に対話を訴えた(17年10月10日)


独立反対派によるデモ。地元住民だけでなくスペイン全土から、極右勢力を含む多くの人々が集まって独立運動に抗議した(17年10月8日)


バルセロナ近郊の海岸。今回の独立要求が失敗に終わったとしても、その思いは人々の行動を目にした次世代に受け継がれる


Photographs by Toru Morimoto

撮影:森本徹
米ミズーリ大学院ジャーナリズム学校在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。Akashi Photos 共同創設者

[本誌2017年10月31日号、2015年11月24日号、2006年5月31日号掲載]

<「Picture Power」の記事一覧はこちら>

Photographs by TORU MORIMOTO

この記事の関連ニュース