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ロシアとイランがさらうシリア内戦後の復興利権

ニューズウィーク日本版 2017年11月1日 17時40分

<欧米各国は、アサド退陣の道筋が見えない限り復興事業には参加しない意向を示しているが>

6年間に数百万人の生活基盤を破壊し、数十万人の命を奪った悪夢のシリア内戦にも、ようやく収束の兆しが見えてきた。アサド大統領の政府軍は、反政府勢力が支配していた地域の大半を奪還。テロ組織ISIS(自称イスラム国)は主要拠点から駆逐された。

シリア内外の企業は現在、復興需要に期待を寄せている。内戦で破壊された橋や道路、建物、発電所の再建が始まれば、こうした企業は魅力的な公共事業の恩恵にあずかれる。

8月には、数十カ国の企業が首都ダマスカスの国際見本市に殺到した。11年に内戦が始まって以来、この商業イベントが開催されたのは初めてだ。ただし、千客万来というわけではない。反政府勢力側についた国々の企業は招待されなかった。

復興事業絡みの契約の多くは、アサドを支援したロシアとイランの企業が手にすることになりそうだ。中国とブラジルの企業も商機をうかがう。

一方、欧米企業の姿はほとんど見えない。反アサドの立場を取る大半の欧米・湾岸諸国は9月14日の国連総会で、アサド退陣の政治的道筋が見えない限り、シリアの復興事業に参加しない姿勢を打ち出した。

マクマスター米大統領補佐官(国家安全保障担当)は10月19日、こう強調した。「この残忍な政権の支配下での復興には、1ドルも出さないようにすべきだ」

反政府派の地域は無視

ロシアはシリア内戦に軍事介入した半年後の16年4月、早くもインフラ事業など10億ドル近い契約を受注した。ロシアの政府系ニュース局RTによると、アサド政権は16年11月、ロシアに復興事業の優先権を与えると約束した。既にロシア政府と関係の深いエネルギー企業は、ISISの旧支配地域で石油、ガス、鉱業関連の事業を開始している。

アサド政権はもう1つの支援国への配慮も忘れていない。イラン革命防衛隊の関連企業は今年、電話網の再構築と鉱業分野の契約を受注。9月には複数のイラン企業が、北部アレッポと西部ホムスを含む数都市と発電所再建事業に関する予備契約を締結した。イランの石油関係者によれば、シリアでの製油所建設も請け負う見込みだという。



他の国々も動きだしている。ブラジルのヌネス外相は10月19日、シリアとの国交正常化と12年に閉鎖した大使館の再開を目指すと語った。復興事業へのブラジル企業の参加を後押しするための措置だ。国際見本市には、少なくとも3000億ドルといわれる復興事業を当て込んだ欧米の中小企業数社も参加した。

とはいえ、復興事業はシリア全体に恩恵をもたらすわけではない。反アサド派のエリートは既に大半が国外に脱出済み。国内に残った政権支持派が外国企業と組んで利権を獲得すべく新規事業を立ち上げている。

地域格差が出るのも確実だ。アサド政権は反政府勢力の拠点になった地域に復興資金を回す気はないと、英王立国際問題研究所のリナ・ハーティブは言う。「アサド政権はシリア全体の復興には興味がない。関心があるのは政権に忠実な地域だけだ」

援助団体は、こうした復興の偏りは内戦中に顕在化した分断と人権侵害を固定化することにしかならないと懸念している。オックスファム、セーブ・ザ・チルドレン、ケア・インターナショナルを含む複数の援助団体は、今春に共同声明を発表。人権を尊重しないアサド政権の主導で行われる「復興支援は、むしろ害のほうが大きくなる可能性がある」と警告した。

From Foreign Policy Magazine


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[2017.10.31号掲載]
ベサニー・アレン・イブラヒミアン

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