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トランプ訪日で米メディアが唯一注目したのは「鯉の餌やり」 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年11月8日 19時40分

<毎度お騒がせの暴言もなく、貿易問題、北朝鮮問題でも既定路線通りの展開しかなかった今回のトランプ訪日は、アメリカのメディアにとっては取り上げようがない>

今週のトランプ大統領の訪日については、アメリカでは最小限の報道しかされませんでした。直接の原因としては、何と言っても5日の日曜に発生したテキサス州サンアントニオ近郊、サザーランドスプリングスで発生した乱射事件が大きく報じられていたことがあります。

この間、トランプ大統領が東京赤坂の迎賓館で会見する様子は、何度もニュース映像として流れましたが、そのほとんどは銃撃事件に関するものでした。「銃の問題というより精神疾患の問題」あるいは「銃の問題もあるかもしれないが、議論は時期尚早」という大統領のコメントは、何度も流れましたし、日本に同行していたホワイトハウスの「大統領番」の記者たちも、このニュースに関する大統領のリアクションを中心にレポートしていました。

それでもニュース専門局CNNは日米首脳の共同会見における大統領の発言について、ディスカッション形式で論評したりはしていました。ですが、日本で言う地上波に当たる3大ネットワークの一角であるNBCでは、大統領が訪日していた期間のアメリカ時間の日曜夕方のニュース、月曜の朝と夕方のニュースの中で、日本でのトランプ大統領の動静を伝えたのは月曜の朝だけでした。

新聞はといえば、ニューヨーク・タイムズの場合、紙版では月曜の国際欄で「大統領が横田基地でラリー(選挙遊説)形式の大演説」という記事が1本、火曜の国際欄では「緊張を高めて武器を売りつける商法はいかがなものか」という論説記事が1本だけでした。

テキサスの事件の衝撃があったにしても、この扱いは何とも小さいという印象です。なぜアメリカのメディアは、今回の大統領訪日に関心を示さなかったのでしょうか。

1つには、トランプ大統領の「お騒がせキャラ」が目立たなかったということがあります。アメリカの主要メディアは、保守系のFOXニュースなどを除くと、多くがリベラル系ですから、「アンチ・トランプ」の姿勢がベースです。ですから、大統領の周辺でスキャンダルが起きたり、大統領が暴言を口にしたりすると、大きく扱います。

ですが、今回の訪日ではアメリカのメディアが関心を示すような「ネタ」は特に発生していません。天皇皇后両陛下との会見も、安倍首相とのゴルフや会食も、特にハプニングもなくスムーズに進んだわけで、これではアメリカのメディアとして「取り上げようがなかった」のです。

その中で、各メディアが好んで取り上げたのが「大統領の鯉の餌やり」シーンで、これだけは、NBCの朝のニュースでも、ニューヨーク・タイムズ(電子版)でも報じられていました。この「豪快な餌やり」ですが、一部には安倍首相が升に残った餌をサーっと池に流し入れたのを見て大統領は真似しただけという「解説」も日本ではあるようです。ちなみに、この大統領は「真似しただけ」という説明は、かなり後になってNYのタブロイド紙「ニューヨーク・ポスト」も取り上げていました。

この「餌やりシーン」は、簡単に言えばいかにも「トランプらしい絵」だったので広まったのだと思います。この「鯉の餌やり」ばかりが報じられたということは、反対にそれ以外には「ネタ」はなかったということでしょう。

2つ目としては、外交課題としては事務方が詰めていた実務的な日米合意について、大統領は何も「ちゃぶ台返し」をしなかった、つまりビジネス的には全てが既定路線通りだったということです。長女のイバンカ・クシュナー氏に関係した、「女性起業家基金への出資」というのは世銀のプロジェクトで新しい話ではありませんし、大統領の「大量の武器販売」というのも、既に決定していた話から大きく逸脱するものではないわけです。

一方で、TPPに代わってアメリカの農業に有利なFTAをやるとか、自動車産業に具体的な難癖をつける、あるいは北朝鮮に近い日本で「これまで以上に挑発的な言動をする」というようなことがあれば、アメリカのニュースにもなったでしょう。ですが、そうした「アドリブを効かせた」動きはありませんでした。

3つ目としては、アジアの問題、特に北朝鮮の問題については、関心はあってもアメリカの世論に切迫感がないことが指摘できます。日本の次に訪れた韓国からは、共同会見でトランプ大統領が「北朝鮮には我々への挑戦はさせない」と述べたとか、「大統領が、DMZ(38度線の非武装地帯)を電撃視察しようとしたが濃霧のために断念した」というニュースが入ってきました。

しかし米国時間の7日(火)は、地方選を中心とした「投票日」であり、バージニアとニュージャージーの知事選、ニューヨーク市長選などで民主党の勝利が伝えられると、メディア報道は再び国内ニュース中心に戻っています。


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