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アメリカは「安倍トラ」に無関心

ニューズウィーク日本版 2017年11月20日 11時15分

<トランプ訪日で米メディアが最も注目したのはゴルフ――高揚感に包まれたが実は「問題先送り訪日」だった?>

11月5~7日、ドナルド・トランプ大統領がアジア歴訪の出発点として日本を訪問した。日本では大きな盛り上がりを見せたが、アメリカがトランプ夫妻の訪日、そしてアジア歴訪を見る目は冷淡だった。

具体的な政策で話題になったのは、北朝鮮に対する強硬姿勢を崩さないトランプの発言や、トランプが日本との貿易について「公正でなく、開かれたものではない」と述べたことぐらい。訪日中、最も米メディアの関心を集めたのはトランプと安倍晋三首相とのゴルフだった。「トランプ訪日」で英文メディアを検索すると、首脳会談そのものについて報じる記事はほとんど検索結果に上がってこない。

米メディアで話題にならなかった理由は、同時期に米国内で大きな内政上の動きや事件が相次いだことと関係している。

1つは税制改革をめぐる動きだ。共和党が発表した税制改革法案の主項目の中には、一般有権者に人気の高い住宅ローンの利子に対する税控除の撤廃や限度額設定が含まれている。また、いわゆる「ロシアゲート」捜査でも、新たに「マイケル・フリン前国家安全保障担当大統領補佐官を訴追するために十分な材料をロバート・ムラー特別検察官陣営は持っている」という報道が出始めた。

11月5日には、テキサス州にある人口約600人の小さな町の教会で銃乱射事件が発生し、27人が死亡した。事件について、日本に到着していたトランプは「犯人が精神疾患を抱えていたのが問題なのであり、銃のせいではない」とツイート。これが炎上し、訪日に対する米世論の関心をそらせる結果になった。

その上、訪日終了直後にあった2つの州知事選で民主党候補が大勝し、再びトランプと共和党の間に不協和音が生じ始めた。

もはや大統領のアジア歴訪自体が一部の専門家以外では二の次、三の次の関心しか集めていない。数少ない訪日に関する報道の中には、トランプ夫妻を礼を尽くしてもてなした日本側の努力を、日本側が思うほどトランプは感じていないのでは、と揶揄する記事もあった。

日本の努力は報われるか

日本がアメリカの一挙手一投足に関心を払う一方で、アメリカの日本に関する関心は高くないという認識ギャップは日米関係に常に存在する。小泉純一郎首相がジョージ・W・ブッシュ大統領と親しい個人的関係を築いたと言われた時期でさえ、国連安保理改革や北朝鮮対応などで日本はたびたびアメリカにはしごを外される局面を経験した。



今回のトランプ訪日をめぐる日米メディアの関心の差も、トランプとの個人的関係の構築に力を注ぐ日本政府の努力が、肝心なところで期待するほど報われない可能性があることを示唆しているのではないか。

もっとも、日米首脳会談に臨むに当たり、トランプも安倍も複雑な事情を抱えていた。トランプは、今回の歴訪でアメリカがアジア太平洋地域において引き続き指導的役割を果たす用意があると同盟国を安心させると同時に、国内の支持層に選挙公約である「不公平貿易の是正」に努力していることをアピールしなければならなかった。

迎える安倍もトランプとの親密な関係をアピールすると同時に、経済問題ではアメリカの圧力に屈しない姿勢を貫く必要があった。

そう考えれば、首脳会談後に発表された成果に関心が集まらなかったとはいえ、2人の親密な個人的関係を宣伝できたトランプ訪日は「成功」だったと言えるのだろう。しかし、今回合意された日米の政府系金融機関のアジア、中東、アフリカでのインフラ投資協力や、エネルギー開発に関するパートナーシップなどは、一筋縄では具体化できない案件ばかりだ。

「安倍トラ」で生み出されたふわふわとした高揚感はそう長くは続かない。その意味で、今回の訪日は、その場を笑顔でやり過ごしたものの、難しい宿題ばかりを残した「問題先送り訪日」だったのかもしれない。


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[2017.11.21号掲載]
辰巳由紀(米スティムソン・センター日本研究部長、キャノングローバル戦略研究所主任研究員)

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