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「オータニフィーバー」過熱で注目される、米メジャーリーグの二刀流 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年11月28日 15時30分

<日本では大谷翔平選手の「二刀流」がメジャーリーグで実現するか半信半疑のようだが、アメリカでは現地の新人選手も合わせて二刀流への注目がにわかに高まっている>

ポスティング方式でメジャーリーグへの移籍を目指している大谷翔平選手については、交渉権をどのチームが獲得するか、決定が秒読みとなってきました。アメリカでは、この「オータニ現象」が過熱しています。まだ23歳の大谷選手が、この冬の「ストーブリーグ(契約更改・移籍のシーズン)の目玉」になっているのです。

その大谷選手について、一時はアメリカのスカウト達からは「あくまで投手として見ている」という声が多かったのですが、ここへ来て流れが変わって来ました。日本で実際に試みていた「二刀流」についての紹介記事が増えるとともに、メジャーでも「二刀流選手」という見方で大谷選手への期待が高まっているのです。

日本では、大谷選手に「二刀流を許すVIP待遇」をメジャーが用意するのか半信半疑という意見が多いようですが、意外や意外、二刀流はかなり現実味を帯びてきているのが現状です。少なくとも、話題性ということでは圧倒的で、批判的な意見はほとんどありません。

それにしても、話が急展開した感じがあります。と言うのは、メジャーというのは、投手も野手も徹底した分業制を取っており、役割分担に応じた形で期待値が決まり、それが年俸に反映するシステムです。このため二刀流議論は、メジャーリーガー全員の年俸や採用に関わる問題になります。それにも関わらず、ここへ来て二刀流の話がどんどん出て来ているのには、2つ大きな理由があります。

1つは、実はメジャーにおける二刀流選手の話題というのは、大谷選手だけではなく、他に2人の例が、それも現在進行形としてあるという事実です。その2人というのは、今年6月のドラフトで指名された新人で、メジャー昇格するのは来年2018年以降、つまり大谷選手と基本的に同期になる若手選手です。

まずブレンダン・マッケイ選手ですが、ルイスビル大学の運動部で活躍していたところ、ドラフトでは1巡目の4番目指名でタンパベイ・レイズと契約しています。ルイスビルでは、「ツーウェイ・プレイヤー」つまり二刀流で通して来ており、投手としては2年生のシーズンでは12勝4敗、打者としては一塁を守って打率.333で打点41ということで、大学レベルでは二刀流を成功させています。

レイズは、すでにマッケイ選手を「二刀流で使う」と宣言しており、今後が大変に注目されます。なお、マッケイ選手は大谷選手より若い21歳です。



もう1人は、同じく2017年のドラフトで、1巡目2番目指名という高い評価を得てシンシナティ・レッズと契約したハンター・グリーン選手です。グリーン選手の場合は、将来を嘱望されている一方で、今シーズン途中からルーキーリーグで「二刀流のテスト」を行い、結果的には「投手に専念」ということになっています。

ですが、18歳とまだ若いこともあって、仮に大谷選手やマッケイ選手が活躍して、二刀流が人気を博するようになれば、あらためて挑戦することもあるかもしれません。いずれにしても、偶然とはいえ、ドラフトで入団した複数の選手について、かなり真剣に二刀流議論が進んでいるという事実があります。そのうえで、大谷選手を見れば、レベルの高い日本の1軍プロで二刀流を成功させているという実績は、否が応でも「まぶしく」見えてしまうわけです。

2つ目のキーポイントは、先発ローテーションの人数の問題です。二刀流となれば、5人ローテーション、最低中4日では、登板間隔が短い中で疲労回復をしてなおかつ野手での出場ということになれば、時間に余裕がありません。ですが、6人ローテーションならば、最低中5日になるわけで、二刀流が成立する可能性が高まります。

このローテーションですが、6人制にせよという声が球界の中では高まっています。例えば、ダルビッシュ有投手などは急先鋒で、積極的に発言していますし、例えば同じ日本人投手の中で田中将大、前田健太といった投手達も、おそらく同じように「6人制、最低中5日」を希望していると思われます。

もちろん現在の5人制で大成功している投手からすれば、登板機会が6分の5になる、つまり年間の先発試合数が32から27に減るということは簡単には同意できないでしょう。まず年俸の分け前が減るということがあり、年間の勝ち星や通算の勝利数にも影響が出るなど、副作用があるからです。

ですが、ここ数年、ヒジを壊して手術をする投手が急増していることもあり、「6人制、最低中5日」というのは、必要な改革として定着するかもしれません。これは、ルールの問題ではなく、チームの編成方針と、各当事者選手の問題ですし、何も全チームが一斉に行う必要もないわけです。例えば、高給での長期契約をしているスター投手を多く擁する球団は、簡単には6人制に移行できませんが、若手で固められたローテーションの球団であれば、一気に2018年から6人制ということも可能です。

そんな中で、「大谷選手の交渉権を取ったら6人制を考えよう」という計算をしている球団もあるようです。ということは、大谷選手がどの球団と契約するかによって、投手に関する契約更改や移籍のストーブリーグの様相は変わってくるわけです。また、仮に大谷選手をDHもしくは一塁手などの中距離砲としても計算するのであれば、やはり彼を取るか取らないかで、チームの補強方針が変わってくるのかもしれません。

そんなわけで、二刀流論議は極めて現実的な問題として、メジャーでは進行中ですし、またその結果として、大谷選手の去就が大きく注目されているということにもなっているわけです。それにしても、今回のストーブリーグの目玉である、マイアミ・マーリンズのスタントン選手(今季のナ・リーグ本塁打王、MVP)を差し置いて、大谷選手が「注目度1位」というのは、少々加熱気味であり、もう少しメディアも各球団も冷静になって欲しいと思います。

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