Infoseek 楽天

トランプが英極右の反イスラム動画を4000万人のフォロワーにリツイート

ニューズウィーク日本版 2017年11月30日 19時40分

<トランプ米大統領がリツイートで大々的な宣伝に手を貸した英極右団体幹部ジェイダ・フランセンとは何者か>

ドナルド・トランプ米大統領がまたツイッターで「舌禍」を起こした。イスラム教徒を暴力的として排除しようとするイギリス極右が投稿した差別的な(少なくともそう見える)動画を3本、リツイートしたのだ。

投稿したのはイギリスの極右団体「ブリテン・ファースト(英国第一)」のジェイダ・フランセン副代表。動画の内容は、彼女自身が付けたタイトルによれば、それぞれ「イスラム教徒の移民が松葉杖をついたオランダ人の少年を殴打しているところ」、「イスラム教徒が聖母マリア像を破壊しているところ」、「イスラム主義の暴徒が10代の少年を屋根から突き落とし、死ぬまで殴打しているところ」。ただし世界各地のメディアが動画の真偽を調べたところ、最初の動画の「イスラム移民」は「黒髪のオランダ人」、マリア像を壊しているのはシリアにいるアルカイダ系テロリスト、少年を屋根から突き落としているのは2013年にエジプトのモルシ政権を転覆した軍事クーデターに怒り狂った暴徒ではないか、などの指摘が出ている。これらの動画は今は「不適切な内容」の可能性があるとして表示されなくなっている。

フランセンが所属するブリテン・ファーストは、反イスラム、反移民、民族主義を掲げる英極右。モスクの占拠を呼び掛けるなど過激な反イスラム活動で知られている。「クリスチャン・パトロール(キリスト教徒自警団)」と称して巨大な十字架を担ぎ出し、反イスラム的なパンフレットを配ったり、イスラム教徒に「イギリスから出て行け」などとからむなど問題行動で耳目を引いてきた。

これまでは泡沫政党だったのに

自らの主張を広めるためにソーシャルメディアを多用する。反イスラム、反移民のプロパガンダをツイッターに投稿し、イスラム教徒への反感を煽る動画をユーチューブやフェイスブックに載せてきた。英下院選挙や欧州議会選挙、ロンドン市長選にも候補者を擁立したが、まだ一度も勝利したことはなく、泡沫候補で終わっていた。

だが、トランプのおかげでそれも変わるかもしれない。何しろアメリカの大統領がその差別的な動画3本を、約4400万人近いフォロワーにリツイートしてお墨付きを与えてくれたのだ。事実、フランセンのツイッターのフォロワーはトランプのリツイート後の6時間で5万3000人弱から6万人に跳ね上がった。世界の脚光を浴びたブリテン・ファーストは大喜びで、フランセンはトランプにツイートでこう感謝した。「あなたは、イスラム批判で罪に問われるかもしれない私に希望をくださった」

フランセンは2016年1月、イスラム教徒が多く暮らすロンドン北部ルートンでクリスチャン・パトロールを実施中、ヒジャブを着用した女性スマヤ・シャープに対し宗教的嫌がらせを行ったとして同年11月、有罪判決を受けている。フランセンは、4人の幼い子供を連れていたシャープに対して次のような暴言を吐いたことを認めている。イスラム教徒の女性が全身を覆わなければならないのは「イスラム教徒の男たちは性欲を抑えられないから」、「彼らがヨーロッパで女性をレイプし、イギリスに移民してくるのも、性欲を抑えられないからだ」。

フランセンは2000ポンド(2680ドル)の罰金刑を受けた。



同じ年の8月、フランセンとブリテン・ファーストの代表ポール・ゴールディングは英警察当局から「地域の対立を煽った」と追及を受け、ルートン及びイングランドとウェールズにあるすべてのモスクへの立ち入りを3年間禁止された。

EU離脱(ブレグジット)の是非を問う国民投票を控えた2016年6月のイギリスで、銃撃され死亡したジョー・コックス英下院議員を覚えているだろうか。彼女は、間接的に彼らの憎悪の犠牲者だったかもしれない。銃撃したトミー・メイヤ容疑者は、犯行時に「ブリテン・ファースト」と叫んだのだ。ブリテン・ファーストはメイヤとの関係を否定しているが、殺害されたコックスの夫ブレンダン・コックスは11月29日、トランプのリツイートは極右を合法化するものだと批判した。

過激組織を監視する英慈善団体ホープ・ノット・ヘイトの広報担当者は、今回のトランプの行為は「信じ難い」とコメントした。「少しでも教養がある人なら、ブリテン・ファーストが極右運動を扇動し、モスクの『占拠』を主張し、ソーシャルメディアのフォロワーの多くを買収で獲得している団体ということくらい分かるはずだ」

イギリスのインテリ層は、マイナーだった極右を表舞台に引き出しかねないトランプの行為に衝撃を受けている。テリーザ・メイ英首相も声明でこう言った。ブリテン・ファーストは憎悪と緊張を煽る団体で、「(トランプ)大統領がやったことは間違いだ」。

(翻訳:河原里香)

トム・ポーター

この記事の関連ニュース